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episode_0077

【タイトル】

第77話 師匠


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-05-07 18:56:23(+09:00)


【公開日時】

2022-05-07 20:00:35(+09:00)


【更新日時】

2022-05-07 20:00:35(+09:00)


【文字数】

1,373文字


本文76行


 ナーガさんの前で魔力を使って見せる。

 緊張したけど、なんとか成功した。でもナーガさんは驚くわけでも、褒めてくれるわけでもない。ただ、ゆっくりと頷いた。


「できてる。問題ない」

「ホントですか!」


 最初はどうなるかと思ったけど、結構あっさり第一関門突破できたみたい。


「次はいつでもどこでも魔力を使えるようになること。いちいち目を閉じたり深呼吸してたら日が暮れる」

「どうしたらできるようになるんですか?」

「反復練習すればいいんじゃない?」


『いいんじゃない?』って、相変わらず丸投げスタイルなんですね。ナーガさんの師匠もそういう人だったのかな。


「ナーガさんのお師匠様って、どんな人だったんですか?」

「魔力の強い人」

「もうちょっと何かないんですか」


 どんな魔法使いに育てられたらナーガさんみたいな人になるのか。親の顔が見てみたいならぬ、師匠の顔が見てみたい。見られなくても、聞いてみたい。

 私が切り株に腰掛け聞く気満々のスタイルになると、ナーガさんも近くの大木に寄りかかった。


「魔法使いの中でも指折りの、一流の魔法使いだ」

「すごい人だったんですね」

「あの人こそ魔王退治にでも出れば、魔王なんて一撃だろうと思ったけどね」


 ナーガさんにそこまで言わしめるほどの人なんだ。そんな人のもとで修業したから、ナーガさんもすごい魔法使いになったんだろうな。

 もともとの素質もあるだろうけど。


「そのお師匠様は、どうやって魔法を教えてくれたんですか?」

「師匠が僕に攻撃を仕掛けてくるんだ。それを防御し、反撃する。その繰り返し」

「な、なかなかハードですね」

「常に気を張って油断をするなと、戦場を想定した修行。でも実際、旅に出て拍子抜けしたよ。全然たいしたことなかった」


 ど、どんだけ過酷な修行生活だったんだ?

 ナーガさんの時代は弟子入りって住み込みだよね。毎日24時間気を張ってたってこと? 恐ろしい……。


「私にはそういう修行しないんですね」

「キミは女の子だから、可哀想だと思って手加減してやってる」

「そ、それはありがとうございます」


 女の子だからとか、可哀想とか、そんな気遣いがナーガさんにあったなんて。


「それに、あんな修行を何年も毎日続けるのは僕も面倒」


 そっちが本心でしょう、絶対。


「じゃあ、ナーガさんもそのお師匠様から杖を貰ったんですね」


 いや、とナーガさんが軽く首を振った。


「杖は使ったことない」

「え、初心者の頃はどうしてたんですか?」

「僕は弟子入りする前から魔法が使えてたから、いらないって師匠が」


 魔法の杖はあくまで補助道具。一足飛びにクリアした場合は必要ないってことか。

 ふと顔を上げると、ナーガさんが遠くを見つめていた。


「……杖、欲しくなかったんですか?」

「別に。僕はそんな子供っぽいもの興味ない」

「けど、お師匠様から弟子に贈る習わしなんですよね。こう、師弟の契りというか……」

「そんな大袈裟なものじゃない。ただの習わしだ」


 ナーガさんが忌々しそうに吐き捨てた。

 何か引っかかったけど、それを聞く前にナーガさんが大木から身を起こした。


「魔力のコントロールは確認したから、もういいだろ。帰れば」


 帰れば、って……。

 後は反復練習するのみか。よし、杖を貰うときまでに完璧にしておこう。


 はあ、とナーガさんが額に手をやって溜め息をついた。独り言のような呟きが、私の耳に届く。


「どうでもいいだろ、杖なんて」




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