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episode_0076

【タイトル】

第76話 オタクの夢


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-04-30 18:37:57(+09:00)


【公開日時】

2022-04-30 20:00:10(+09:00)


【更新日時】

2022-04-30 20:00:10(+09:00)


【文字数】

1,632文字


本文95行


 外に出ると、ナーガさんが木の下でキョロキョロと何かを探し始めた。

「これでいいか」と1本の枝を拾い、手渡される。


「はい」

「ありがとうございます……? って、これ何ですか?」

「枝」

「それはわかってますけど」

「魔法を使う補助の役割になる」


 自転車の補助輪のようなものってことか。

 というかこれ、もしかして魔法のステッキ!


「魔法の杖ってことですか?」


 適当に拾ったただの枝に見えるけど、ここは精霊のいる森。魔力が込められている特別な枝なのかも。


「ただの枝」


 ただの枝だった……。


「魔法の杖として売られてるモノもあるけど、別に棒状のモノならどんなのでもいいんだ。枝で充分だろう」

「で、できれば魔法の杖がほしいんですけど……」


 BLにハマって腐女子として覚醒する前から、私はアニメが大好きだった。

 当時は買ってなんて言えなかったけど、本当は欲しかった魔女っ娘アニメのステッキ。ああいうのがあったらいいんだけど。

 でも今ならハリー・ポッターみたいな杖とかも憧れるなぁ。


 ナーガさんが呆れたようにため息をついた。


「魔法習いたての子供はそういうの欲しがるけど、キミ中身は大人なんだろう? 恥ずかしくないの?」


 ぐう……っ。

 世間から「アニメなんて子供の見るものでしょ?」「オタクキモいw」という目に晒されていたあの頃の古傷が痛む。

 私が転生した後、少しは大人のアニメ好きも認められる世の中になったでしょうか。


「ぜ、前世の世界ではそういうの好きな大人もいたんですよ」

「前の世界に魔法はないんじゃなかった?」

「存在はしてないんですけど、物語として人気があったんです」

「なんだ、作り話か」


 バッサリ。

 ナーガさん、本とか読まないタイプなのかな。って、ナーガさんいつも本に埋もれてるじゃん。


「ナーガさんが読んでる本は、物語じゃないんですか?」

「あれは魔法の資料や文献。作り話なんて読んだって仕方ないだろ」


 前世にもいたなぁ、こういう人。

 でもこっちのリアリストは、魔法が使えて妖精が見えるんだから不思議な感じ。リアルがファンタジーなんだもんな。


「とにかく、できれば私は魔法の杖がほしいです!」

「……なんでそんなの使いたがるんだ」

「だって、カッコイイじゃないですか」


 厨二心が疼くんですよ。と言っても通じないだろうから黙っておくけど。


「杖を使うなんて初心者丸出しだ。カッコイイわけない」

「でも、サウザンリーフの魔法使いさんたちは使ってましたよ」


 家族旅行に行ったとき、テーマパークの魔法使いさんたちはまさにTHE・魔法使いって格好で魔法のステッキを持ってた。アトラクションでも貸し出してくれたっけ。


「サウザンリーフは観光地だから見映え重視なんだ。人間たちが思い描く魔法使いを見せてるだけ」

「あれ、観光用だったんですね……。でも私は杖が使いたいです!」


 食い下がると、ナーガさんがチッと舌打ちをした。


「僕に街まで買いに行かせるつもりか」

「え、ナーガさんが買ってくれるんですか?」

「師匠から弟子に贈ることが習わしなんだ」

「す、すみません! えっと、それなら枝でもいいです、けど」

「いいよ、別に。アルバートにチクられても面倒だから」


 そんなことはしませんけど……。

 諦めたナーガさんが、枝をぽいっと放り投げた。

 なんか手間掛けさせて申し訳ないな。でもやっぱり杖は欲しいんだよね。

 とはいえ、明らかにムスッとしてしまったナーガさんが怖い。何か場を和ませないと。


「あの、そういえば、ナーガさんはどうやって魔法を使ってるんですか?」


 確か指を鳴らしてたような気がするけど、あれがリアルな魔法の使い方なのかな。

 ……なんて考えていると、ふわりと身体が浮かんだ!?


「うわわわわっ!? な、なに!?」

「これくらいの魔法なら、念じるだけで使える」

「わ、わかりましたから降ろしてください!」


 すぐにドスンと地面に落とされた。思いっきり尻もちついたんですが。


「急に落とさないでくださいよ。ケガしたらどうするんですか」

「アルバートが僕を殺しにくるだろうね」


 それはそうだろうな。





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