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episode_0075

【タイトル】

第75話 魔法


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-04-23 16:23:00(+09:00)


【公開日時】

2022-04-23 20:00:18(+09:00)


【更新日時】

2022-04-23 20:00:18(+09:00)


【文字数】

1,966文字


本文106行

 翌日、サディさんとお父さんが起きる前に目が覚めてしまった。

 顔を洗って、厩舎にライラック号の世話をしに行く。


「おはよう、ライラック号」


 ライラック号が挨拶を返してくれるように、首を高く上げた。

 大きなフォークのような道具で、エサの乾草をライラック号に準備する。


「今日はね、ナーガさんに魔力を見てもらいに行くんだ。だから早く起きちゃったの」


 ライラック号がぶるぶると首を震わせた。


「魔力がコントロールできるようになったから、今度は魔法の練習をするんだよ」


 濡らしたタオルでライラック号の体を拭いてあげると、黒くて丸い瞳にじっと見つめられている気がした。

 毎朝こうやってお世話をしながら、ライラック号に話しかけてる。少しは仲良くなれたといいんだけど。

 馬の感情表現ってよくわからない。尻尾は動いてるけど、犬みたいにわかりやすいわけじゃないし。

 でも、嫌がられてはいない……よね?


 今はこんなに穏やかなライラック号だけど、かつてはお父さんたちと一緒に魔王退治に行ってたんだよね。

 想像できない……って言ったら、お父さんたちもそうだけど。


「アリシア、今日は早いな」


 お父さんが朝の畑仕事に出てきた。


「お父さん、おはよう。今日はナーガさんちに行くから、早起きしちゃったの」

「魔力が使えるようになったんだもんな。ナーガのやつ、アリシアがこんなに早く上達してきっとビックリするぞ。ギャフンと言わせてやれ」


 言わなそうだな、絶対。



 朝ご飯を食べた後、さっそくナーガさんの家に行った。

 相変わらず本の山に埋もれていたナーガさんは、私を一瞥して山から這い出てきた。


「魔力、使えるようになったんだ」

「やっぱりわかるんですか?」

「うん」


 もうちょっと驚いてくれてもいいと思うんですが。

 少しは褒めてくれるのかと期待したけど、そんなこともなくて。


「思ったより時間が掛かったね」

「1週間でできたんですけど。サディさんは早いねって」

「サディアスは魔法使いじゃないから手間取ったけど、キミは魔法使いだろう。リリアの子なのに、意外と不器用なんだな」

「お父さんは魔力ゼロですよ」

「それにしては良くやった方か」


 とりあえず褒めてくれた、のか……?


 そういえば昨日の夕ご飯のとき、サディさんが「みんな初めて魔力や魔法を使えたときのことは、よく覚えてるものなんだよ」と言ってた。

 それくらい努力して、やっと成功させられるものだからと。


「ナーガさんは魔力が初めて使えたとき、どんな感じだったんですか?」


 聞いてみたけど、ナーガさんはぼんやりとした目で言った。


「覚えてない」

「えっ? じゃあ、魔法を初めて使えるようになったときは?」

「覚えてない」

「でも、初めて使えたんですから、こう……驚きとか感動とか、そういうのなかったんですか?」

「別に。魔法使いが魔法を使えるのは当り前だろう」


 ええ……そういうものなの?

 なんか納得できなくてサディさんに言われたことを話すと、ナーガさんは「ああ」と頷いた。


「僕、魔力の感覚は生まれつきあったから。魔法も師匠に弟子入りする前から使えてた」


 最初から当たり前に使えてたから、特に思うこともないと言うことですか。天才に聞いた私が悪かった。


「で、どんな魔法を使いたいのか考えた?」


 そうだ。それを最初の目標にしようってことだったんだよね。

 確か水・火・風・地の魔法は使うの難しいって言ってたはず。それ以外って結構難しいけど……あ。


「動物の言葉がわかる魔法ってありますか?」


 これができれば、ライラック号の言ってることがわかる!

 動物とお話しできるなんて、まさに魔法少女っぽくてなんかいいよね。


「あるけど、動物の言葉なんてわかってどうするの。潰される家畜の断末魔でも聞きたい?」

「そんなわけありません! ライラック号と話してみたいんですよ」

「ああ、ライラック号か。あいつ何考えてるかわからないからな」


 向こうもそう思ってるんじゃないですかね。

 というか、ナーガさんはライラック号の言葉わからないんだ。


「ナーガさんは魔法でライラック号と話したりしなかったんですか?」

「旅の途中でリリアが抜けてから、アルバートに頼まれて何度か通訳したけど、それっきりかな。僕あんまりあいつと合わないんだ」


 むしろ気が合う人がいるんだろうか、この人。

 何かを思い出したのか、ナーガさんがため息をついた。


「本当はサディアスにやらせたかったんだけど、そういう魔法は使い物にならなかったから」

「魔法にも向き不向きがあるんですか?」

「あるよ。サディアスは魔法使いじゃないから、努力したところで使える魔法は限られてる」


 努力したところで……ってことは、サディさんも使えるように頑張ったんだろうな。お母さんの代わりに、お父さんのために……!


 サディさんの気持ちに思いを馳せていると、ナーガさんが横をすり抜けてドアに向かった。


「外に出る」

「は、はいっ!」





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