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episode_0074

【タイトル】

第74話 魔力記念日


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-04-16 15:41:06(+09:00)


【公開日時】

2022-04-16 20:00:26(+09:00)


【更新日時】

2022-04-16 20:00:26(+09:00)


【文字数】

2,279文字


本文118行


 次の日、ライラック号のお世話をして朝ご飯を食べ終えると、さっそくサディさんと魔法の練習をすることにした。


 私の部屋の真ん中に、サディさんと向かい合って立つ。


「まず、両手を合わせてみて。そのまま深呼吸」


 胸の前で手を合わせ、ゆっくりと深呼吸をした。すると、サディさんが私の手を両手で包み込む。


「呼吸を続けて、段々と手が温かくなってくると思うよ」


 確かに、ちょっとずつ手が温かくなってる気がする。サディさんの手が温かいからだと思ったけど、手のひらの内側がぼんやり熱くなる。ちょっとだけ、ビリビリする。


「どう? 何か感じる?」

「熱くてビリビリした感じがする」

「そう、それが魔力の感覚だよ」


 これが魔力!?

 サディさんが私から手を放した。それでもまだ、手は熱いまま。


「少しずつ、手を離していってごらん」


 言われた通り、ちょっとずつ手を離していく。それでもまるで両手の真ん中に何かがあるみたいに、熱を感じる。


「両手を胸に当ててみて。手のひらから心臓を通って、全身に魔力が巡っていくイメージをするんだ」

「イメージ?」

「うん、イメージすると魔力の流れを意識できる。まずはこうやって、魔力を使う意識をすることが大事なんだ」


 イメージか……。

 なんとなくだけど、私のイメージ的に魔力って緑色。緑色のエネルギーが手から放たれて、心臓を通って頭や手足に巡っていく。

 いや、実際に巡ってる感覚は全然ないけど。


「最初は感じられないかもしれないけど、これを毎日続けてごらん。そのうち、イメージしようと意識しなくても自然と魔力が感じられるようになるよ」

「どれくらいすればいいの?」

「それは人に寄るんだけど……徐々に上達していくというか、あるとき『ふっ』と急にできるようになるんだ」


 なんだか雲を掴むような話。もともと目に見えないものだから、そりゃそうかもしれないけど。


「サディさんは、どのくらいでできたの?」

「僕は3ヶ月くらいかな。そこから魔法を使えるようになったのが半年……」


 そんなに? と思ってしまったのが顔に出ていたのか、サディさんが慌てて片手を振った。


「大丈夫大丈夫。僕は生粋の魔法使いじゃないから時間が掛かっただけだよ。アリシアちゃんはリリアさんの子なんだから、もっと早くできるよ」


 お父さんの魔力はゼロなんですけどね。

 でもとにかく、やるしかない。


 そこから毎日、時間を見つけて魔力を使う練習をした。

 暇さえあれば……って、学校も行ってないし修行も始められない。家のお手伝い以外は暇だらけな私は、とにかく何度も魔力を使うイメージトレーニングをした。

 初日にいきなり両手が熱くなったのは、やっぱりサディさんのおかげだったみたいで、自分でやると何にも感じない。

 それでも魔力が使えるようになると信じてイメージを続ける。相変わらず全然実感はないけど、緑色のエネルギーが体中に流れているイメージ。


 練習を始めて一週間。

 両手を合わせて深呼吸をした途端、何かを感じた。

 両手がポカポカ熱くなってきて、手のひらがピリピリしてくる。これは! 魔力の感覚だ!

 その感覚がなくならないうちに、そっと両手を胸に当てて目を閉じる。すると、緑色のエネルギーが身体にぐんっと巡るのを感じた。イメージじゃない、本当に感じる。

 頭のてっぺんから足の爪先まで、まるで何かに包み込まれたみたいだ。


「サディさん! できた! できたみたい!」


 階段を駆け下りて行くと、リビングにお父さんとサディさんがいた。サディさんは私の様子を見て、目を見開く。


「本当だ! アリシアちゃん、魔力が使えてるね!」

「わかるの?」

「見ればわかるよ。アリシアちゃんの身体、魔力のオーラに包まれてる」

「私には見えないよ」

「これも修行していけば見えるようになるよ」


 サディさんと手を取り合って喜んでると、お父さんも飛んできた。


「すごいじゃないか、アリシア。魔力が使えたんだな」

「うん、ほら」


 熱くてピリピリしてる手で、お父さんの手を握る。でも、お父さんは嬉しそうに私の手を握りしめるだけだった。


「さすがはお父さんの自慢の子だ」

「お父さん、何も感じないの?」

「ん? お父さんはすごく嬉しいぞ!」


 いや、そうじゃなくて。

 サディさんが横で苦笑した。


「アル、やっぱり魔力は全然感じられないんだね」

「う……ずるいぞ、サディ。お前ばかりアリシアと喜びを分かち合って」

「別に自慢したわけじゃないんだけど」


 お父さんに魔力が伝わらないのは残念だけど、でも喜んでくれてることには変わりない。

 早く魔法を使えるようになって、お父さんに見てもらわないと。


「でも一週間でできちゃうとは思わなかったよ。一か月は掛かるかなって思ってたから」

「お母さんの魔力が強かったからかな?」

「それもあると思うけど、アリシアちゃんが頑張ったからだよ」


 サディさんがそう言うと、お父さんが大きくうなずいた。


「アリシアは毎日頑張っていたからな。偉いぞ、アリシアは努力家だな」

「そういうところは、アルに似たのかもしれないね」

「俺に!?」

「アルも騎士学校のとき、みんなが寝静まった後も1人で稽古してたじゃない」

「知ってたのか……?」

「まあね」


 こんなところで初出し情報が!

 もう私の話なんてどうでもいいから、その話聞かせて!


 という心の叫びは届かず、お父さんは私を抱き上げた。


「今日はアリシアの魔法記念日だな。お祝いをしないと!」

「お父さん、私まだ魔力が使えただけだよ。魔法は使えてない」

「そうか、じゃあ魔力記念日だな!」

「後でケーキを買ってこようね」


 お父さんが私を抱きしめて、サディさんが頭を撫でてくれた。

 やれやれ、この勢いだと魔法が使えた日も記念日になりそうだな。





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