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episode_0073

【タイトル】

第73話 嫉妬


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-04-09 21:31:54(+09:00)


【公開日時】

2022-04-09 21:31:57(+09:00)


【更新日時】

2022-04-09 21:31:57(+09:00)


【文字数】

1,790文字


本文95行


 ソフィアちゃんの話は壮大だった。

 跡継ぎとして大切に育てられた王子フィリップと、隣国の側室に生まれ肩身の狭い暮らしをしてきた王子オリバーの凸凹コンビ。

 当初は反発していた2人がついに手を取り合って旅立つところなんて、もう尊すぎる展開でしたよ!


 良いところだったけど、夕方になってしまったので話は切り上げ、ソフィアちゃんと別れた。今度絶対に続きを聞かせてもらう約束をして。


「ただいま~」

「おかえり、アリシア」

「アリシアちゃん、お疲れさま」


 家に帰るともうお父さんは帰って来ていた。2人で夕食の準備をしてる。


「アリシア、今日の修業はどうだったんだ?」

「え! うーんと……まだ魔力は使えなかった、かな」


 修行には行ってない罪悪感をひしひしと感じる。でもお父さんは疑ってもいないのか「そうか」と野菜を切っていた。


「アリシアがそんなに苦戦するなんて、ナーガの教え方が悪いんじゃないか」

「まあ、ナーガは基礎を教えるのは上手くなさそうだもんね」


 サディさんがスープの味見をしながら苦笑する。


「魔力にはコツがあるから、その感覚さえわかるようになれば大丈夫だよ。僕が教えてあげるって約束してたんだ。アリシアちゃん、明日やってみようか」

「うん!」

「サディに任せておけば安心だな」


 もー、お父さんってばサディさんを信頼しきってるんですね!

 これはもう、私が魔力を使えるようにらなきゃしょうがない。頑張ろ。


 できあがった夕食を囲んで、みんなでいただきます。愛する2人が作ってくれたご飯は、今日もおいしいです。


「ねえ、お父さん。今度ソフィアおねえちゃんをうちに呼んでもいい?」

「ソフィアおねえちゃん?」

「村長さんちの娘さんだよ。この前、歓迎会のときに居ただろ? って、アルは酔っぱらってて覚えてないか」

「そういえば、村長さんに紹介されたような気も……」


 しどろもどろなお父さんだったけど、すぐ嬉しそうに笑った。


「もうお友達ができたんだな。もちろん、いつでも遊びに来てもらいなさい。歓迎するぞ」

「ありがとう! それでね、私の部屋のご本、ソフィアおねえちゃんに貸してあげてもいい? おねえちゃん、ご本が大好きなんだって」

「ああ、いいぞ。さすが村長さんの娘さんだな。読書家なのか」

「アリシアちゃん、ソフィアちゃんとすっかり仲良しになったんだ。いいお友達ができて良かったね」


 お父さんもサディさんも嬉しそう。やっぱり親にとって、子供に友達ができるかどうかって気掛かりなことなんだね。


 夕食を食べ終えると、片付けたテーブルにお父さんが紙包みを持ってきた。


「今日先輩から貰ったんだ。アリシアとサディにお土産」


 包みを開くと、中には星形のクッキーが入っていた。アステリジュースのような黄色っぽいオレンジ色が、表面にアイシングされてる。


「わあ、クッキーだ!」

「少しだがアステリが入ってるらしい。先輩の店で出してるんだそうだ」


 1枚もらうと、ちょっと甘酸っぱい香りがした。よく見ると中につぶつぶが見える。アステリの果肉かな。

 サディさんはキレイに彩られたクッキーを摘まんで、しげしげと見つめていた。


「そういえばさ、ハドリーさんと何かあった?」

「何かって……話をしてきただけだが」

「なんか顔赤くして帰ってきたから」


 お父さん、ハドリーさんにからかわれて真っ赤になってたもんね。そのまんま帰ってきちゃったのか。

 気付いていなかったのか、お父さんが慌て出す。


「それはっ、先輩に引っぱたかれて……」

「は? 何やったの、アル」


 その話をするとややこしいことになるんじゃ……。

 まさか正直に『ハドリーさんに言い寄られました』なんて言わないよね?


「いや……お、お前とのこと、早く言えって怒られた。サディが可哀想だろうって」

「え、ハドリーさんが?」


 まあ完全に嘘というわけじゃない。

 サディさんが「なーんだ」と、拍子抜けしたようにクッキーを齧った。


「てっきりハドリーさんに迫られたのかと思った」

「な……ッ!?」


 サディさん勘が良すぎるんですけど!


「そそそんなわけないだろう! なんで先輩が俺に!」

「ハドリーさん、よくアルのことからかうじゃん。アルって普段は隙だらけだから」


 良くわかっていらっしゃる。

 赤くなったり青くなったり忙しいお父さんに、サディさんはにっこり微笑んだ。


「もしそんなことがあったら……俺、何するかわかんないからね?」

「は、はい……」


 怖……。

 当て馬イベントが発生しないことを祈ろう。




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