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episode_0070

【タイトル】

第70話 朝


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-03-12 18:01:21(+09:00)


【公開日時】

2022-03-12 20:00:12(+09:00)


【更新日時】

2022-03-12 20:00:12(+09:00)


【文字数】

1,827文字


本文94行


「おはよう~……あれ?」


 リビングに降りると、誰もいなかった。

 2人とも、もう起きてると思うのに。外かな?


 着替えて外に出ると、厩舎にサディさんがいた。ライラック号の手入れをしてる。


「おはよう、サディさん」

「おはよう、アリシアちゃん。朝ごはん、もうちょっと待っててね」

「うん。ライラック号のお世話してるの? 私もやりたい」

「いいよ、じゃあお願い」


 タオルをバケツの水で絞って、ライラック号の傍にあった木箱に乗った。


「優しく、でも少し力を入れて拭いてあげてね」

「うん」


 ライラック号の艶やかな茶色い首や耳の後ろを拭いてあげた。ライラック号がぶるぶると体を震わせたから、驚いてのけ反ってしまう。バランスを崩したところを、サディさんが支えてくれた。


「ライラック号、アリシアちゃんにキレイにしてもらえて嬉しいんだね」

「そうなの?」


 ライラック号の目を見ると、優しい瞳でじっと私を見つめ返してくれた。

 馬の世話なんて初めてだけど、なんだか楽しい。これからはライラック号とも家族なんだから、仲良くなりたいよね。


「ねえ、サディさん。ライラック号のお世話、私がやりたい」

「お世話ってなると、ご飯をあげたり掃除もしなくちゃならないよ。アリシアちゃん、できる?」

「うん! できる!」

「よし、じゃあライラック号の世話はアリシアちゃんの仕事にしようか」


 サディさんから、厩舎の掃除の仕方や飼葉のあげ方を教わった。

 7歳がやるには、なかなかの重労働。でも、家族の中で役割ができるのは嬉しい。

 今日はサディさんに教わりながらだったから、あっという間に朝の仕事は終了。


「アリシアちゃんのおかげで早く終わったよ。じゃあ、僕は朝ご飯用意してくるね」

「お父さんは?」

「裏の畑だよ。見てきてごらん」


 そういえば、家の裏には畑があると聞いてた。

 家をぐるっとまわって裏手に行くと、芝生の中に大きな茶色い地面が広がっていた。辺り一面の畑。自分たちが食べる分だけじゃなくて、野菜を売ったりもするのかな。


 お父さんは鍬で畑を耕してる最中だった。お父さんに聞こえるよう、声を張り上げる。


「お父さん! おはよう!」

「おっ、アリシア。おはよう」


 お父さんが盛り上がったうねをまたいでこっちにやって来た。


「お父さん、畑を耕してたの?」

「ああ、ある程度は引っ越し準備のときにやっておいたんだけどな。ここから種を撒いたり苗を植えて野菜を作るんだぞ。アリシアは何の野菜が食べたい?」

「レタス! サディさんのサンドウィッチに入れてもらうの」

「おお、それは旨そうだ。瑞々しくておいしいレタスを作ってやるからな」


 お父さんが軍手を嵌めた手で額を拭った。額に泥が付く。

 農家の男って感じ。これもまたかっこいい。


「あのね、今日からライラック号のお世話は私がやるんだよ」

「おお、さっそく自分の仕事を見つけたのか。偉いぞ、アリシア。ライラック号もアリシアに世話してもらえて喜んでるだろうな」


 そうだといいんだけどね。

 ライラック号が何を考えてるのか、わかればいいのにな。


 お父さんに苗や種を見せてもらってから家に戻ると、ちょうど朝ごはんができたところだった。

 パンとハムエッグ、それからサラダ、ミルクがテーブルに並ぶ。


「いただきまーす」

「この野菜とミルクは、引っ越し祝いにって村の人たちがくれたんだよ」

「有難いな。余所者扱いされないのは、ハドリーさんがここでの人脈を作ってくれていたおかげだ」

「感謝しなきゃだよね。うちも野菜ができたら、村の人たちにお返しをしようよ」

「そりゃ気合い入れて作らないとだな」


 なんて会話が進みながら、話はハドリーさんのことに。


「後でハドリーさんの店に行ってくる」


 キター! それはもちろん、サディさんとのことを話しに行くんですよね!?


「いつ行くの? 店が閉まった後?」

「いや、昼過ぎはほとんど誰も来ないと言ってたからその頃に」


 私も行きたい。けど、娘の前じゃお父さんだって話しにくいはず。

 なんとかこっそりついて行く方法は……


「私、ナーガさんちに修行に行ってくる!」

「ナーガの家!? それならお父さんも一緒に行くぞ。あいつがアリシアにどんな修行してるのか、見てやらないと」

「お父さんはハドリーさんちに行くんでしょう」

「う……あ、でも……」

「アル、授業参観は今度にしなよ。ま、ハドリーさんちに行かないなら別にいいけど」

「い、行く! 俺は行くからな! サディ!」


 お父さんが立ち上がって宣言した。

 今日お父さんには大事な使命があるんだから、早くサディさんを安心させてください。



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