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episode_0068

【タイトル】

第68話 怒ってる?


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-02-26 18:30:50(+09:00)


【公開日時】

2022-02-26 20:00:37(+09:00)


【更新日時】

2022-02-26 20:00:37(+09:00)


【文字数】

1,937文字


本文122行


「ただいま~」

「アリシアーー!」


 家に入った途端、お父さんが飛んできた。


「遅かったじゃないか! 心配したんだぞ」

「サディさんと一緒だったから大丈夫だよ。お父さん、二日酔いはもういいの?」

「ああ、すっかり平気だ。今日はどこに行ってたんだ?」

「ナーガのところだよ。アリシアちゃんの修業が始まったからね」


 サディさんが答えると、お父さんの顔が少し強張った。


「大丈夫だったか? ナーガに何か嫌なこと言われたりしなかったか?」

「……うん、大丈夫だよ」


 勘が悪いだの何だの言われたけどね。

 と、一瞬答える間が開いてしまったら、お父さんに伝わってしまったらしい。


「何を言われたんだ!? ナーガめ! 俺にならともかく、可愛いアリシアを傷つけることは許さん!」

「お父さん大丈夫! 何にも言われてないから!」


 すぐにでもナーガさんちに怒鳴り込んで行きそうなお父さんを、サディさんが「まあまあ」と宥める。


「アル、アリシアちゃんはナーガと修行するために来たんだろ。いちいち怒ってたらキリないよ」


 そう言われて、お父さんはなんとか怒りを飲み込んだ。そして、真面目な顔で私を見る。


「アリシア、修行というのは大変なことがたくさんある。お父さんも騎士学校の訓練を受けたから少しはわかる。もし何か困ったことがあったら、何でも相談しなさい」

「うん、わかった!」


 やっと納得してくれたのか、お父さんが「夕飯の支度をする」とキッチンに向かった。

 サディさんがこそっと私に耳打ちする。


「アルに言いにくかったら、僕に言ってくれてもいいからね」


 ありがとう、サディさん。

 両親がいてくれるって、ありがたいなぁ。


「今日は疲れてるだろうからお手伝いはいいよ」と言われて、私は1人ご飯ができるのを待っていた。

 2人は和やかで良い雰囲気。


「こうやって一緒に料理するのも、なんか楽しいね」


 サディさんがほほ笑む。一緒に台所に立つ姿は、まさに新婚さんって感じ。

 お父さんも笑って頷いた。


「寮の料理当番のときを思い出すな。覚えてるか? ブラントンって大飯ぐらいが、いつも盗み食いをしようと……」


 お父さん! サディさんは「夫婦っていいよね」って意味で言ったはずなのに、また学校の話して!


「ああ、いたね。そんな子」

「盗み食いを防ぐために、俺たちもいろいろ策を練ったよな。今思い出すと、その攻防戦も楽しくて」

「それは知らないな」

「え? お前もいなかったか?」

「いなかったよ。それ、1年の頃の話じゃない? 当番一緒じゃなかっただろ」


 ちょっと! サディさんとの思い出話ですらなかったの!

 サディさんが、お父さんが切った野菜をお鍋にぶち込んだ。


「後は煮るだけだから、もう座ってていいよ。アリシアちゃんと遊んでなよ」

「あ、ああ。後は頼む」


 お父さんが首を捻りながらこっちにやってきた。

 あーあ、せっかく良い雰囲気だったのに。



 2人が作ってくれた夕食を、木のテーブルを囲んで食べる。


「おいしいか? アリシア」

「うん! すっごくおいしーい!」

「よかった。おかわりもあるからね」


 テーブルに着いてからサディさんはにこやかで、さっきの不穏な空気は全然感じなかった。

 新居での初めての夕食、空気を悪くしたらまずいと思ってるんだろうな。


 夕食を食べ終わり、サディさんが片付けのために席を立った。

 と、お父さんが私に顔を寄せる。


「今日、サディと何かあったか?」

「どうして?」

「少し機嫌が悪い、ような気がして」


 お父さん! いい加減気づいたんだね!

 それなら、あと一押し。


「サディさんはきっと、お父さんのことを考えてるんじゃないのかなぁ」

「そう、なのか?」


 お父さんの顔が曇る。


「俺のこと、何か怒ってるのか」

「お父さん、サディさんを怒らせちゃったの?」

「いや、身に覚えはないんだが……」


 ないのか!

 そりゃそうだよね。悪気があってやってるわけじゃないのは、私だってわかる。

 それはサディさんだって同じはず。


 お父さんが、はあーと長い息を吐き出した。


「お父さんはそういうの鈍くてな。それでよくお母さんにも怒られた」

「そうなの?」

「『なんで私が怒ってるのかわかる?』とよく言われて、トンチンカンなことを言ってもっと怒らせた」


 お父さん、言われなきゃわからない人なのね。

 でもそれはお母さんだってよくない。お父さんは察するのが苦手なんだから、ちゃんと言ってあげなきゃ。


「それなら、サディさんに何で怒ってるのか聞いてみたらいいんじゃない?」

「聞いたら余計に怒らせないか?」

「でも、聞かなかったらずっとサディさん怒ってるよ」


 それもそうだな……とお父さんが神妙な顔で頷いた。


「わかった。聞いてくる」

「待って! 2人だけになってからの方がいいと思うよ。私が寝ちゃった後で」

「そ、そうか……」


 ったく、7歳の子に何を相談してるんだか。

 まったく世話が焼けるお父さんだこと。




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