【タイトル】
第65話 魔法使いの家
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-02-05 15:52:47(+09:00)
【公開日時】
2022-02-05 20:00:14(+09:00)
【更新日時】
2022-02-05 20:00:14(+09:00)
【文字数】
1,466文字
【
ナーガさんの家は、森の中にある一軒家だった。
トンガリ屋根で、壁には蔦が生えてる。雰囲気はまさに『魔法使いの家』。これはテンション上がりますな!
「部屋、大丈夫だといいんだけど……」
サディさんが何か意味深につぶやいた。
扉にはライオンみたいな動物がデザインされたドアノッカーが付いてる。ゴンゴンと叩いたけど、返事はない。
「ナーガ! いるんだろ? 入るよ」
扉を開けると、中は真っ暗だった。いくら森の中でも昼間なんだから陽の光くらい入るはずなのに、カーテン閉めっぱなしなのかな。
っていうか、ナーガさんはどこ?
「まったく、やっぱりこうなってる」
サディさんが、くるくるとまわした指を左右の壁に向けた。
ドサドサと積み上がっていた物が落ちて、サッと光が射し込む。久しぶりのサディさんの魔法!
というか、あれのせいで窓が塞がれてたんだ。
それでもまだ暗くて、サディさんが魔法で出した光の玉を電球のように天井の部分に掲げてくれた。
やっとよく見えた部屋は、物が散乱して積み上がってた。
大きな壺とか歯車とか、ガラスに入った謎の液体とか、何に使うのかわからないものが散乱している。それ以外の部屋のほとんどを占めてるのは、積み上がった分厚い本の山。
ナーガさん、もしかして片付けられない人……。
「ナーガ! アリシアちゃんを連れてきたよ! ナーガってば!」
サディさんが何度も呼ぶと、部屋の真ん中に積み上がっていた本がゴソゴソと動いた。ボコッともぐらみたいに、ナーガさんが顔を出す。
「あ、サディアスだ。なに?」
「『なに?』じゃないよ。昨日引っ越してきたから挨拶に来たんだ。アリシアちゃんの修業するんだろう」
「ああ……うん」
すごく面倒くさそうに、ナーガさんが頭を掻いた。自分から「弟子にしたい」って言い出したんですよね?
それにしても、何年ここに住んでたらこんなになっちゃうの。
「ナーガさんって、ずっとここに住んでたの?」
「ううん、1か月くらい前からだよ。引っ越し準備に通ってたとき、ここにも来て片付けてたんだけど……ちょっと目を離すともうダメだね。よくここまでゴミ屋敷にできるよ」
「ゴミじゃない。全部大事なものだ」
ゴミ屋敷の住人がよく言うやつだ……。
いやでも、魔法使いっぽいものがたくさんあるし、本当に大事なものなんだよね。きっと。
「修行を始める。サディアスはどっか行ってて」
「まあ、そのつもりではいたけど……」
この場所に私を置いておきたくないのか、サディさんが不安げな顔を向けた。
「大丈夫だよ。帰り道もわかってるから、今日の修行が終わったら1人で帰れる」
「うーん……じゃあ、僕は買い出しに行ってるからね」
これ、とサディさんに家から持ってきたバスケットを渡される。
「たぶん、ナーガ何も食べてないと思うから一緒に食べて。あいつ、放っておくとロクな生活しないから心配なんだよ」
ナーガさん、魔法以外は生活力ないタイプなんだろうな。一緒に暮らさなくて良かったのかもしれない。
心配そうな顔を残して、サディさんが出て行った。
「口うるさいんだよ、サディアスは」
ナーガさんが本に埋もれながらぼやいた。
「だからサディさんを出て行かせたんですか?」
「それもあるけど、あいつがいるとキミが子供の振りしないといけないだろう」
ナーガさん、私に気を使って……
「わざとやってると思うと、あの振る舞い気色が悪いから」
き、気色が悪いって……私も一生懸命やってるんですけどね。
「外に出る」
「は、はい!」
ナーガさんが本の山から這い出て、散らばってるものを踏みつけながら、ドアから出て行く。
全部大事なもの……なんですよね?