【タイトル】
第60話 プレンドーレ村
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-01-31 18:07:17(+09:00)
【公開日時】
2022-01-31 21:00:14(+09:00)
【更新日時】
2022-03-15 01:58:31(+09:00)
【文字数】
1,404文字
【
ペガサスになったライラック号の馬車で飛び立ち、城下町の景色が遠くなった。
この街ともしばらくお別れ。なんて感傷に浸ってる暇もなく、窓の下の景色は移り変わって行く。
賑わった街並みが徐々に減っていき、家や人の姿も消えていく。
代わりに辺りは一面茶色っぽくなり、周りには田畑が広がっていた。作業をしている人たちがチラホラ見えるだけで、他はなんにもない。
街から離れてるって感じがする。もうすっかり田舎道だ。
でも、プレンドーレはまだまだ先らしく、馬車は畑の上を通って飛び続けた。
しばらくすると、たくさんの木が整列するように並んでいるのが見える。森や林じゃない、人工物っぽいけど。
「あれ、アステリの果樹園だね」
サディさんが窓の外を覗き込む。
アステリって、プレンドーレの名物だっけ。
「ということは、そろそろ到着だな」
お父さんがそう言うと、馬車が高度を下げていった。
小さな家がぽつぽつとある集落のような場所が見えてくる。その家々から、人が出てくるのが見えた。みんな上を見上げてる。
っていうか、こっちを見てる!?
「お、みんなアリシアを歓迎してくれてるみたいだぞ。おーい」
お父さんはのんきに手を振ってるけど、たぶんこんな派手な馬車で来たから何事かと驚かれてるんだよ。
田舎に引っ越すのに、いきなりド派手な登場して大丈夫なんだろうか。
ゴトリ、とライラック号が着陸したのは一軒の家の前だった。
オフホワイトの壁に、こげ茶色の格子がはめ込まれたガラス戸。趣のある家だ。
「ここが新しいおうち?」
「ここはハドリーさんの家だよ」
「まずは先輩に挨拶をしないとな」
お父さんが扉を開けると、カランカランとドアベルが鳴った。
「ハドリー先輩、今到着しました」
お父さんに続いて入ると、中は柔らかい灯りに包まれて、レトロな赤いソファとテーブルがずらりと並んでいた。窓にはレースのカーテン、壁には振り子時計と何かの絵が飾られている。
この雰囲気、たぶん喫茶店だ。
カウンターテーブルの奥で、男の人が拭いていたグラスを置く。
「いや~、派手に登場したなぁ。今頃、村中の噂になってるぞ。ナーガは来なくて正解だったな」
「ナーガ、何か言ってたんですか?」
「出迎えてやらねえのかって言いに行ったら、『どうせバカみたいに派手な馬車で来るだろうから嫌だ』って」
「バ……ッ!? あいつ、これはリリアの大事な馬車だってのに」
「にしても、何度見ても目立つな。田舎に移住する自覚あんのか。ワンダーランドのパレードじゃねえんだから」
「僕らだけなら馬を飛ばして来れますけど、アリシアちゃんもいますから」
サディさんが言うと、ハドリーさんが「おっ」と私を見た。
この人がハドリーさん。
焦げ茶色の髪に黒縁の丸いメガネを掛けてる。腰には黒いカフェエプロンを巻いていた。
先輩っていうくらいだし、見た目にもお父さんたちより年上っぽい余裕や落ち着きを感じる。
「ああ、ハドリーさん紹介します。これがうちの娘、アリシアです。ほらアリシア、挨拶しなさい」
「こんにちは、アリシアです。7歳です」
「おお、赤ん坊のとき以来だな。もうこんなに大きくなったのか。顔はアルそっくりだ、可哀想に」
「ちょっ、どういう意味ですか!」
「中身はアルと違って、アリシアちゃんはとっても賢い子なので大丈夫ですよ」
「頭脳はリリアに似たのか。良かったな」
「2人とも、アリシアの前でふざけるのはやめてくれ……」
完全にいじられポジションなのね、お父さん。