【タイトル】
第59話 出発
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-01-31 18:06:45(+09:00)
【公開日時】
2022-01-31 20:00:02(+09:00)
【更新日時】
2022-01-31 20:00:02(+09:00)
【文字数】
994文字
【
翌日。
本当は朝早くに出発するつもりが、お昼前になってしまった。
お父さんが寝坊をしたからだけど、まあこうなることはわかってましたよ。
遅いお昼を食べてから庭に出ると、ライラック号が待っていた。
あのシンデレラのような煌びやかな馬車を引いて、真っ白いペガサスになったライラック号。
素敵だけど、田舎に行くのにハデじゃない?
「アルバート様、アリシアお嬢様」
振り返ると、お屋敷の前にはマドレーヌさんを筆頭にメイドさんたちとコックさんたちがズラリと見送りに出てくれていた。
「おふたりとも、今まで本当にお世話に……」
マドレーヌさんが目に涙を浮かべ、言葉を詰まらせた。
「礼を言うのはこちらの方だ、マドレーヌ。長い間、本当に世話になったな。俺もアリシアも、もちろんリリアもマドレーヌやみんなには感謝しているよ」
「そんな、もったいないお言葉です。もうおふたりのお傍にいられないと思うと、私は……」
「今生の別れじゃないんだ。ちょこちょこ戻ってくるだろうから、そのときはまた頼むぞ」
「もちろんでございます。お留守の間のお屋敷の管理はお任せ下さい」
他のメイドさんたちも、マドレーヌさんに貰い泣きしてる。
良い人たちに囲まれて、すごく恵まれてたんだなぁ。
「マドレーヌさん、今までありがとう。向こうに行ったらお手紙書くね」
「まあ、楽しみにしておりますわ。お嬢様はもう読み書きができるようになられたのですものね」
マドレーヌさんが優しく目を細めた姿は、まるでお母さんのようだった。
「サディアス様、アルバート様とアリシアお嬢様をどうぞよろしくお願いいたします」
「任せてください。マドレーヌさんたちみたいにはいきませんけどね」
そう言って、サディさんはこっそり私を見る。
「なんか大仕事任されちゃったみたいだね」
と、おどけたように首をすくめた。
お父さんとサディさんと一緒に、ライラック号の馬車に乗り込んだ。
「見送りありがとう。行ってくる」
「みんな、元気でねー!」
「皆様も、どうぞお元気で!」
窓に張り付いて、マドレーヌさんたちに手を振った。
メイドさんたちもみんな手を振って、コックさんたちは深々とお辞儀をしてくれている。
こんなにしてもらえるなんて、お父さんはきっと良いご主人だったんだろうな。
馬車が走り出すと、堪え切れない様子のマドレーヌさんが駆け寄ってきた。
私も涙が込み上げてきて、マドレーヌさんが見えなくなるまでずっと手を振り続けた。