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episode_0052

【タイトル】

第52話 弟子入り


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-01-25 17:40:46(+09:00)


【公開日時】

2022-01-25 20:00:22(+09:00)


【更新日時】

2022-01-25 20:00:22(+09:00)


【文字数】

1,806文字


本文93行


「はああああ!?」


 お父さんの叫び声が部屋中に響き渡った。


「なんでアリシアをお前の弟子にしなきゃならないんだないんだ!」

「魔法使いとして生まれた者は魔法使いの弟子になるって、さっき言った」

「それは聞いたが、なんでお前の弟子になるんだ」

「ナーガ、弟子なんて取ったことあるの?」

「ない」


 ないんかい!

 と、心の中でツッコんだのはお父さんもサディさんも同じだろうな。


「そんなやつに大事な娘を預けられるわけないだろう!」

「弟子入りは普通、縁故がある魔法使いに頼む。他に魔法使いの知り合い、いるの?」


 う……とお父さんの声が詰まる。

 まあまあと、サディさんが間に入った。


「確かに不安ではあるけど、他に知り合いの魔法使いがいないのは事実だろ。リリアさんの親族には頼めないだろうし」

「それは、そうなんだが……」


 お母さんは家出してお父さんたちのパーティーに入ったからか、お母さんの方の親戚とは付き合いが全然ないみたい。

 それどころか、この国にはそもそも魔法使いが少ない。サディさんみたいに多少魔法を使える人ならいるけど、『魔法使い』と名乗ってる人は旅行で行ったサウザンリーフ以外で見たことなかった。みんな、妖精の存在も知らないくらいだもんな。


「リリアの血を引いた魔法使いなら、アリシアは白魔法使いになるはずだろう。お前のは黒魔法じゃないか」

「魔法は元々全部同じ。使う魔法によって、白とか黒とか勝手に呼び分けられてるだけ」


 ナーガさんが淡々と答えて、またお父さんが言い返せなくなる。


「……弟子入りと言っても、具体的にはどうするんだ?」

「純粋な精霊たちのいる地で魔法を学ぶのが、伝統的なやり方」

「精霊ってのはどこにいるんだ?」

「自然が豊かな田舎。弟子入りしたら、田舎で暮らしながら修行することになる」

「暮らすって……お前とアリシアが?」

「うん」


 またまた新情報に、もうお父さんが倒れそうだ。

 ナーガさんと田舎暮らし……でもそしたら、ここには居られなくなるってことだよね。


「僕も物心ついたときには師匠と暮らしてた。魔法使いとして独立できるまで、早くて数年、長ければ十数年……」

「絶対にダメだ! アリシアと何年も離れるなんて考えられん!」


 私が本当に魔法使いなら、弟子入りをしてちゃんと魔法を学びたい。……と思ってたけど、そういうことなら話が変わってくる。

 いくら魔法のためとはいえ、お父さんとサディさんと離れ離れになるのは嫌だ。せっかくサディさんとも家族になれたのに、こんなところでバラバラになるなんて!

 お父さんとサディさんを目の前で見ていられなくなるなんて!


「ナーガがこの近くに住んで、家庭教師みたいにアルの家に来てもらうってのはどう?」

「未熟な魔法使いが都会で暮らすのは向いてない。妖精たちに悪さをされ続けることになるけど、いいの?」

「いいわけないだろ!」


 そろそろお父さんが暴れ出しそうだ。

 お父さんたちと離れてナーガさんと田舎で修行をするか、このまま妖精のイタズラに耐えるか……二つに一つ。

 普通に考えたら修行した方がいいんだろうけど、でも妖精のイタズラも慣れれば大丈夫……かもしれないし。


 長い沈黙の後、お父さんが首を振った。


「……少し、考えさせてくれ」

「わかった」


 話を切り上げて、おやつタイムになった。

 おやつのクッキーはおいしかったけど、お父さんはずっと考え込んでて、ナーガさんも終始無言。

 サディさんと私がなんとか和ませようとお喋りしたけど、空気は重かった。


 とりあえず今日はお開きになった。

 帰り際、徐にナーガさんが首から下げていた紫色のペンデュラムをはずす。


「これ、貸しておく」

「私に?」

「僕の持ち物を身につけておけば、しばらくは妖精たちも出てこないと思う」


 ってことは、魔法使いのアミュレットみたいなものだね。


「ありがとう! ナーガさん!」


 ナーガさんが何か言いたそうな視線を向けてくる。その視線が痛い。


「どうするか決まったら呼んで。街外れの宿屋にいるから」

「アルの家、いっぱい部屋あるんだから泊まらせてもらえばいいのに」

「こんなに人がいる家、落ち着かなくてしょうがない」

「ナーガは人が多いとこ苦手だもんねぇ」


 帰ろうとするナーガさんを、お父さんが呼び止めた。


「今日は娘のためにありがとう。感謝する」

「……驚いた。アルバートが僕にお礼言ってる」

「親になるって言うのはこういうことなんだよ、ナーガ」


 しみじみと言うサディさんに、お父さんはばつが悪そうに顔を背けた。





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