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【タイトル】

第50話 黒魔法使い


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-01-23 16:53:49(+09:00)


【公開日時】

2022-01-23 20:00:21(+09:00)


【更新日時】

2022-01-23 20:00:21(+09:00)


【文字数】

2,913文字


本文165行


 魔法には2種類ある。白魔法と黒魔法。

 白魔法は主に回復やサポート系、黒魔法は毒や呪いなどを専門としている。

 お母さんは白魔法使いだったけど、ナーガさんは黒魔法使いらしい。


「黒魔法なんて言うと怖いけど、ナーガは悪いやつじゃないよ」

「悪いやつ、ではないんだけどなぁ……」


 ギルド経由でサディさんが連絡を取ってくれ、ナーガさんが来てくれることになった。

 私の部屋で待つお父さんとサディさんの様子は対照的。お父さんなんて、ずっと複雑そうな顔してる。


 ガチャ、とノックもなく部屋の扉が開いた。

 入って来たのは、黒いローブ姿でフードを目深に被った男の人。


「ナーガ! 来てくれたんだね」

「お前、ノックくらいしたらどうなんだ」


 ナーガさんは駆け寄ったサディさんをすり抜けて、私の方へやって来た。お父さんが私を傍に抱き寄せる。


「おい、フードくらい取れ。アリシアが怖がるだろう」


 お父さんに言われて、ナーガさんがフードを取った。

 黒い髪に黒い瞳……この世界では初めて見た。懐かしさを感じる、日本人のような外見。

 ナーガさんは、お父さんやサディさんより少し若く見える。ぼんやりした瞳をしてるのに隙のない雰囲気、『ミステリアスなイケメン』って感じ。


「アルバート、子供いたんだ」

「生まれたときに会わせただろう」

「そうだっけ……?」


 ナーガさんが首を傾げる。

 なんだかボーッとして見えるけど、この人もお父さんたちと一緒に魔王を倒したんだよね。


 サディさんが呆れたようにお父さんとナーガさんの間に入った。


「久しぶりの再会なのにまともな挨拶もなしなんて、ナーガらしいね」

「ここ、アルバートの家なのになんでサディアスが?」

「俺とアルは一緒に働いてるだろ。家も近所だし、よく行き来してるんだよ」


 聞いておいて、ナーガさんはあんまり興味がなさそうだった。構わず、サディさんが続ける。


「この子がアルとリリアさんの娘さん、アリシアちゃんだよ。この前7歳になったんだ」


 サディさんに紹介された私を、ナーガさんがじっと見下ろす。

 光のない漆黒の瞳。なんだか、すべてを見透かされてる気分になる。


「アリシア、こいつはナーガ。お父さんたちのパーティーの仲間だ。最後に会ったのは……」

「リリアが死んだとき以来」


 ピキッ、と部屋の空気が凍る音がした。怖くてお父さんの顔が見れない。

 ああ、こういうこと言っちゃうタイプなのね。


「はじめまして、ナーガさん!」


 これはもう幼女パワーで場を和ませるしかない。

 にっこり微笑んでみたものの、ナーガさんの表情は無表情なままピクリとも動かない。


 何かを諦めたようなお父さんのため息が聞こえた。


「さっさと本題に入ろう。お前に来てもらったのは、この子に変なものが見えると……」

「サディアスから聞いてる」


 お父さんの話をぶった切って、ナーガさんは私の前に跪いた。そして、私の額に掌をかざす。


「おい、何して……」

「アル」


 サディさんがお父さんを制止して、私に「大丈夫だよ」と視線を向けてくれる。

 ナーガさんの掌からは、冷たいような温かいような、不思議な空気を感じる。

 しばらくして、立ち上がったナーガさんがお父さんを見た。


「妖精が見えたんだろうね」

「妖精!? 聞いたことはあるが、本当にそんなものがいるのか?」

「いる。この子は魔法使いだから、妖精が見えてる」


 3人の視線が一気に私に集まる。

 私、魔法使いだったの!? っていうか、あのオバケが妖精だったわけ!?


「リリアさんの子だから、アリシアちゃんも魔法使いの血を受け継いでるんだね」

「だが、アリシアに変なのが見え始めたのは最近だぞ」

「リリアが魔法使いでもアルバートに魔力がないから、その分覚醒も遅くなったと思う。いつ覚醒するかは、魔力の強さに比例するから」


 だから7歳になった途端に見えるようになったんだ。学校に魔法使いの人はいなかったから、誰も私の見たものが妖精だと気づかなかった。 


「僕が来てから何も見えてないだろう?」


 そういえば、今日は何も見えてない。

 私がうなずくと、ナーガさんが視線を宙に向けた。


「魔法使いの僕が来たから近寄ってこない。都会の妖精たちはタチが悪いから、魔力の使い方も知らない、魔法使いの自覚もない子供がいたらカモにされる」


 私、妖精にからかわれてたってこと!?

 慌ててお父さんが身を乗り出した。


「ということは、アリシアも魔法が使えるようになればいいんだな。どうすればいいんだ?」

「魔法使いとして生まれたものは普通、魔法使いの弟子となって魔力の使い方を学ぶ」


 魔法使いといえば弟子だよね。でも弟子入りなんて厳しそうだなぁ。

 お父さんも腕を組んで考え込んでいた。


 それにしても、さっきからずっとナーガさんが瞬きもせず私を見つめてるのが気になる。穴が開きそうなくらいだ。

 私に何かついてます……?


 視線が気になってお父さんの後ろに隠れようとすると、ナーガさんが口を開いた。


「アリシアと2人だけにしてほしい」


 なんで!?

 と驚いたのは、もちろん私だけじゃない。


「なんだ急に! アリシアに何をするつもりだ!」

「話をしたい。2人きりの方が、アリシアもいいだろうから」

「そんなわけないだろう! 父親の俺がいるとできない話なのか!」

「僕はいいけど、アリシアが……」

「さっきから思ってたがアリシア、アリシアと慣れ慣れしい! 『ちゃん』くらい付けろ!」


 いやもうお父さんの怒りのポイントがズレてますけど。

 どうしたものかとオロオロしてると、「アリシアちゃん」とサディさんが傍に来てくれた。


「アリシアちゃんはどう? ナーガと話してみる?」

「えっと……」

「嫌だったらいいんだよ。僕とアルも一緒にいるから」


 サディさんが反対しないってことは、ナーガさんは別に悪いことを考えてるわけじゃないはず。

 それにナーガさんがずっと私を見つめてるのにも、何か理由があるのかもしれない。


「私、ナーガさんと2人でお話する」


 ナーガさんに掴みかかってたお父さんが飛んできた。


「アアアリシア!? いいのか!? 無理しなくていいんだぞ」

「私もお父さんたちみたいに、ナーガさんと仲良しになりたいの」

「お、親として『あの子と仲良くしちゃいけません』は言いたくない言葉だが……」

「アル、アリシアちゃんがこう言ってるんだから。ナーガだって取って食ったりはしないよ」


 サディさんに宥められて、お父さんが折れた。


「ナーガ、アリシアに変なことをしたら俺が許さない」

「変なことって?」

「とにかく変なことだ! アリシア、何かあったら大声出しなさい。お父さんたち隣の部屋にいるからな」


 お父さん……ナーガさんを何だと思ってるの。


「サディ、ナーガはロリコンというわけじゃないよな……?」

「少しはナーガを信用してあげなって。一緒に旅した仲間だろ」


 まだ何か言ってるお父さんをサディさんが引きずって行った。パタンと扉が閉まった後も、お父さんのボヤキが聞こえてくる。

 ナーガさんが扉を一瞥した。


「親バカって本当にいるんだ。初めて見た」


 お父さんの通常営業です。

 でも私と2人だけで話したいなんて、一体なんなんだろう。


「アリシア」

「はいっ!?」


 またナーガさんが黒い瞳で私を見つめてくる。


「キミ、身体は子供なのに魂は大人だね。どうして?」


 えっ……ええ?

 なにそれどういう意味!?





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