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【タイトル】

第40話 誕生日


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-01-13 16:22:21(+09:00)


【公開日時】

2022-01-13 20:00:16(+09:00)


【更新日時】

2022-01-13 20:00:16(+09:00)


【文字数】

1,703文字


本文90行


 誕生日の前の日。

 お父さんは「明日、アリシアが寝る前には帰ってくるからな」と約束してくれた。「無理しないでね」と念を押したけど、途中で抜けてきたりしないか心配だなぁ。


 誕生日の朝、起きるともうお父さんはいなかった。

 訓練自体はそこまで早くからじゃないみたいだけど、ミッドフルー国を迎える準備で早朝から集まらなければいけないらしい。

 お父さんもサディさんも大変だ。


 朝の支度を手伝ってくれるメイドさんが「お嬢様、本日はお誕生日……」と言いかけると、マドレーヌさんが制止する。


「最初のお誕生日のお祝いは、旦那様からです」


 みんな協力してくれてるんだな。

 でも、さすがに当日何もお祝いしないのは気が引けるのか、みんなおめでたい空気を出してくれてる。

 朝から豪華な食事に、おやつもケーキじゃないけどアイスの上にクリームとくだものがたっぷり乗った特別なものだった。

 まだパーティーじゃないのにこのレベルなんて、明日は一体どんなのが出てくるんだろ。


 普段は忙しいメイドさんたちも、今日は代わる代わる傍にいて遊んでくれた。なるべく寂しくないようにしてくれてるみたい。

 おかげでカードやボードゲームを大人数でやることができた。なかなか白熱して楽しい。今度お父さんとサディさんも一緒にやりたいな。


 2人とも、今頃訓練頑張ってるんだよね。

 ……お父さん、いつ帰ってくるのかな。



「お嬢様、そろそろお休みになられてはいかがですか? お父様が帰られたら、お声がけしますよ」

「もう少しだけ、待ってる……」


 豪華な夕食をメイドさんたちと囲んで食べた後も、お父さんは帰ってこなかった。

 もうすぐ夜の11時。前世の頃ならまだまだ宵の口だけど、9時に寝てる幼女にはド深夜。まぶたが重くて、うつらうつらしてる。めちゃくちゃ眠い。

 でも眠気覚ましのガムなんてないし、幼女が「濃いブラックコーヒー淹れて」なんて言うのも変。何度も顔を洗ってるけど、焼け石に水だ。


 でも、寝ちゃダメだ。1回寝たら起こされても目が覚めない気がする。

 お父さんが今日中に私に「おめでとう」を言えなかったら、絶対ガッカリする。そんな思いさせられない。

 起きてお父さんから「おめでとう」を言ってもらう。それが、私の使命……!


 11時も過ぎて、いよいよまぶたが開かなくなってきた。

 なんとか意識はあるけど、もうホントに半分以上寝てる感じ。

 マドレーヌさんが「お嬢様をベッドにお運びしましょう」と言ってるのが聞こえる。

 待って! 今ベッドに連れてかれたら完全に寝ちゃう!

 でももう抵抗する気力もない。マドレーヌさんに抱えられ、私はベッドに寝かされた。

 ふっかふかの布団が私を優しく包み込み、夢の世界へ導いていく。


 ああ……もう……ダメ……お父さん……ごめ……


「アリシア!!」


 バアアアン! と、勢いよく開いた扉の音に、パッチリと目が覚めた。


「お父さん!」

「アリシア!! ごめんな! 遅くなって!」


 お父さん、約束守ってくれたんだね!

 でも、お父さんは時計をじっと見てる。


「3,2,1……」


 ポーン、とひとつ時計の鐘が鳴った。


「お誕生日おめでとう! アリシア!」

「ありがとう! お父さん!」


 飛び起きた私を、お父さんがしっかりと抱きとめてくれた。

 お父さんの身体、すごく熱い。疲れてるはずなのに、大急ぎで帰って来てくれんだ。私のために。


「お父さん、さっきどうして時計を見たの?」

「アリシアが生まれたのは夜の11時半なんだ。ちょうど7年前の今、アリシアが生まれたんだぞ」


 生まれた時間まで、しっかり覚えててくれてるんだ。

 7年前の今この瞬間、アリシアは生まれた。

 ってことは……


「じゃあ、今からが私の本当のお誕生日だね」


 と言うと、お父さんがハッとして笑った。


「そうだな。今から明日の夜までがアリシアの誕生日だ」

「お父さん、明日はお休みなんでしょう? 一緒にいてくれる?」

「もちろん! ずっと一緒にいるからな」


 お父さんの言葉を聞いて安心したら、また眠気が襲ってきた。お父さんがベッドに私を寝かせてくれる。


「おやすみ、アリシア。いい夢を」

「おやすみ……お父さん……」


 頬にお父さんの手の温もりを感じながら、私は夢の世界へ入っていった。


「生まれてきてくれて、ありがとう。アリシア」





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