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【タイトル】

第35話 お泊りデート


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-01-08 17:31:22(+09:00)


【公開日時】

2022-01-08 20:00:43(+09:00)


【更新日時】

2022-01-08 20:00:43(+09:00)


【文字数】

2,153文字


本文118行


 しばらく抱きしめ合っていたお父さんとサディさんだったけど、お父さんがハッと顔を上げた。私のことを思い出したみたいだ。

 お父さんが外に駆け出してくる。


「アリシア」

「お父さん! どうだった? サディさんにちゃんと言えた?」


 全部見てたけど、ここは知らないふり。

 お父さんは照れ笑いをしながら「ああ、アリシアのおかげでな」と頭を掻いた。


「なーんだ。アリシアちゃん来てたの?」

「お父さんが心配で来ちゃったの」

「なるほど。アリシアちゃんに背中を押してもらったってわけか。相変わらずアルはヘタレだな~」

「うるさい……っ」

「でもアルのそんなところ、結構好きだよ」


 サディさんのストレートな言葉に、お父さんが顔を赤くした。サディさんが私の前に跪く。


「これから僕がお父さんの恋人になるけど、いいかな?」

「もちろん! サディさんが家族になってくれるの嬉しい!」

「家族、かぁ……」


 サディさんの目が柔らかく細められた。


「僕はアリシアちゃんのこともリリアさんのことも、全部ひっくるめてアルを愛してるからね」


 リミッターの外れたサディさんの言葉が止まらない。お父さんが更に真っ赤になった。


「な……っ! 子供に何言ってるんだ!」


 ふふっ、とサディさんが意地悪そうに笑った。

 もうさっきから攻めのサディさんが拝めて腐女子冥利につきますよ。


「そ、そろそろ俺たちは帰る。今日は突然悪かったな」

「またいつでも来なよ。アリシアちゃんもね」


 いえいえ、私は遠慮しておきます。2人の仲を邪魔したくないので。

「また明日」と手を振るサディさんに見送られて、私たちは帰り道を歩いた。


「アリシア」

「なに?」

「今日は、ありがとうな」


 繋いだお父さんの手が、すごく熱くなってた。


「どういたしまして」



 それから、お父さんとサディさんは上手くいってるようだった。

 お父さんは何も言わなかったけど、毎日ご機嫌で楽しそうにしてる。

 でも私以外には2人の関係を秘密にしてるみたいで、堂々とデートとかをしてる気配はない。

 やっぱりこの世界でも男同士ってあんまり公にできないものなのかな。家でデートするにしても、うちに来たらメイドさんたちがいるもんね。まさか娘の前でイチャイチャすることもできないだろうし。

 これが同性、子持ち恋愛の難しいところか。


 なんて思っていた、ある日の夜。

 寝る前にお父さんが「ちょっと話がある」と言いにくそうに切り出した。


「あのな、明日一晩、マドレーヌたちとお留守番できるか?」

「お父さん、どこか行くの?」


 お父さんが外泊なんて珍しい。最近は私が寝る前には絶対帰ってくるのに。

 ん? お泊まりって、まさか……


「ちょっと、サディの家に用があってな」


 お泊りイベントキターー!!

 そうだよ! うちがダメならサディさんちに行けばいいんだもんね!


「ほ、本当はアリシアも連れて行こうと思ったんだけどな。仕事の話をするから、子供には退屈だろうし……」


 お父さん、この期に及んでまだそんな言い訳を。

 そりゃ私だって腐女子として2人のお泊まりデートは気になりますよ。だってお泊まりってことは、初夜じゃん! BL世界最大のイベントですよ!

 でも娘として、お父さんの初夜は見ちゃいけないと思う。さすがの腐女子も身を引きます。


 私はニッコリ笑ってお父さんを見上げた。


「私、お父さんたちのことを邪魔したりしないから。サディさんと2人、楽しくデートしてきてね」

「デッ!? ち、違っ! アリシア!?」


 お泊りまでするって言ってるのに、『デート』って単語ひとつで大慌てなんて。サディさん、お父さんとお母さんの仲を取り持つの大変だっただろうな。


 ウブなお父さんは「女の子ってのはこんなにマセているものなのか……」とぶつぶつ言ってる。

 マセてるというか、中身20歳の腐女子ですから。これでもかなり自重してるんですよ?



 そして翌日の夕方、マドレーヌさんと一緒にお父さんを見送りに出た。

 マドレーヌさんには、今度行う合同訓練の打ち合わせをサディさんの家でする……と言ってるらしい。


「サディアス様にこちらにいらしていただけば、お食事のご支度などできますのに」

「大事な訓練の打ち合わせだから、守秘義務があるんだ。サディのうちならば誰もいないからちょうどいい」


 それっぽい理由をくっつけて、お父さんが淡々と話す。

 淡々とし過ぎてて逆に怪しい。きっと内心ドギマギしてるんだろうな。


「アリシアをよろしく頼む。何かあったら、すぐに連絡を寄こしてくれ」

「かしこまりました。お嬢様のことは私共にお任せ下さい」


 お父さんが私の頭を撫でる。


「行ってくる。良い子にしてるんだぞ。何かあったら、すぐマドレーヌに言いなさい。もし寂しくなったら……」

「大丈夫だよ。私のことは心配しないで、サディさんと仲良くね」


 マドレーヌさんの前で『デート楽しんできてね』とは言えないから、さりげなく含みを持たせて伝えた。

 けど、お父さんは「な、なに言ってるんだアリシア!」と慌てる。マドレーヌさんが不思議そうにこっちを見た。

 お父さん、バレるって。


 バイバイと手を振ってお父さんを見送る。

 勇者様とは思えないギクシャクした歩き方。あんなに動揺するなら、余計なこと言わなきゃよかった。


 何も知らないマドレーヌさんが、ほうっと息を吐き出す。


「旦那様、余程サディアス様と2人きりになりたいのですね」


 あれ、これバレてる感じじゃない?






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