【タイトル】
第33話 腐女子のキューピット
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-01-06 17:04:08(+09:00)
【公開日時】
2022-01-06 20:00:18(+09:00)
【更新日時】
2022-01-06 20:00:18(+09:00)
【文字数】
1,269文字
【
それから何日も、お父さんの様子はおかしかった。
なるべく普段通りに振る舞おうとしてるけど、ふとしたときにボーッとしたり、ため息をついていた。
どう考えても、サディさんに「関係ない」と言われたことを気にしてる。
気にしてるってことは、サディさんを好きだってことだ。
それなのに、その気持ちに気づかないのか認めたくないのか、お父さんは何も動く気配がない。
じれったすぎる。
BL漫画や小説ではじれったい展開に胸キュンだったけど、目の前でやられるとヤキモキする。でも2次元と違って、リアルなら自分が介入できる。
こうなったら、6歳の子供という特権をフル活用して、お節介しまくろう。
私、お父さんたちのキューピットになるって決めたんだから。
お昼の後、お父さんとライラック号の厩舎に遊びに行った。
ライラック号に挨拶して、シロツメクサを摘む。王冠を作ってみようと思ったけど、案外難しい。
「アリシア、そんなぐちゃぐちゃにしたらお花が可哀想だろう」
「違うの。王冠作りたかったんだけど、うまくできなくて」
「王冠か。そういうのはサディが得意で……」
自分からサディさんの名前を言ったのに、お父さんが口をつぐむ。
これはチャンスだ。
「お父さんは、サディさんのことどう思ってるの?」
「な、なんだ突然」
「サディさんがお見合いしてからずぅーっと、お父さん元気ないよね」
「そんなことはないぞ! 心配させて悪いな。最近疲れてたから……」
「ほんとうに?」
私が真剣な顔で問いかけると、お父さんが視線を外した。
「……サディは俺にとって生涯のバディだよ。幸せになってほしいと思ってる。なのにアリシアの言う通り、あいつが見合いをしてから元気が出ないのは、なんでだろうな」
「お父さん、わかんないの?」
「え?」
「サディさんのことが、好きだからでしょ」
お父さんが一瞬ぽかんとしてから、顔を真っ赤にした。
「す……ッ!? はっ、えっ? お、お父さんもサディも男同士だぞ!?」
「そんなの関係ないよ。お父さん、サディさんと一緒にいるといつも楽しそう。会えないときだって、今だってずっとサディさんのことばっかり考えてる」
「…………」
「それが、好きってことだよ」
お父さんが息を飲んだ。
「……けど、サディは俺のことそんな風には」
「サディさんがどう思ってるかは今はいいの! お父さんはどう思ってるの? どうしたいの?」
「俺、は……」
お父さんが胸をぎゅっと掴んだ。
もう、ホントにじれったいんだから!
「サディさんが結婚しちゃってもいいの!?」
「――っ!」
奥歯を噛み締めているのか、お父さんは複雑そうに顔を歪めてる。でも深く長い息を吐き出して、やっと顔を上げた。
何かが吹っ切れたような、覚悟を決めた表情だった。
「サディの家に行ってくる」
よし!
やれやれ、世話の掛かるお父さんだこと。
「アリシアはここで……いや、一旦家に送って行く」
「ううん、今すぐサディさんちに行こう! 私も一緒に行く」
「えっ、いやそれは……」
「いいから! 行こう! お父さん!」
強引にお父さんを急かして、私たちはサディさんの家に向かった。
この一大事、見逃すことはできませんから!