目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
episode_0032

【タイトル】

第32話 関係ない


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-01-05 15:22:01(+09:00)


【公開日時】

2022-01-05 20:00:36(+09:00)


【更新日時】

2022-01-05 20:00:36(+09:00)


【文字数】

1,433文字


本文89行


 次の日、お父さんを迎えに訓練場に行った。

 お父さん、サディさんと普通に振る舞えたかな。すぐ顔に出ちゃうから。


「アリシアちゃん、アルのお迎え?」


 門の前で待っていると、先に出てきたのはサディさんだった。


「うん、お父さんはまだ?」

「もう来ると思うよ。ねえ、僕も一緒に帰っていい?」

「もちろんっ!」


 と、タイミングよくお父さんがやって来た。

 サディさんを見て、あからさまにギクッと顔を引きつらせる。


「っ、アリシア、迎えに来てくれたのか。ありがとう」

「ちょっと、俺のことは無視なわけ? 今日一緒に帰るけどいいよね」

「あ、ああ……」


 ギクシャクし過ぎでしょ。

 帰る最中も、お父さんはサディさんの話にそっけない返事ばかり。もちろん、サディさんがそれに気づかないはずはない。


「アル、今日おかしくない? ずっと俺のこと避けてたよね」

「へっ? そ、そんなことないぞ。今日は忙しかったからな。話してる暇がなかっただけだ」

「ふうん」


 会話が途切れた。なんとも言えない沈黙が流れる。

 こうなったら、無邪気で空気読まない幼女が頑張るしかないか。


「ねえ、サディさん! 昨日お見合いだったんでしょう? どうだった?」

「ちょっ、アリシア!?」


 慌てるお父さんだったけど、本気で止めようとはしてない。お父さんだって気になってるんだもんね。


「うん、いい人だったよ」


 サラリとした返事に、お父さんが息を飲んだ。でもすぐにサディさんが続ける。


「断られたけどね」

「えっ、ど、どうしてだ!? 良い感じだったのに……」


 サディさんが怪訝な顔をした。

 お父さん……こっそり見に行ったのバレるでしょ。


「向こうも父親のススメで断れなかったんだって。本当は付き合ってる恋人がいるらしいよ」

「な、なんだ。そうだったのか」

「だからお見合いっていうか、途中からずっと恋愛相談聞いてあげてた。お礼に角が立たないように向こうから断ってくれるってさ」

「ああ、それなら安心だな」


 お父さんがあからさまにホッとして胸を撫で下ろす。

 そんなお父さんを、サディさんがチラリと見上げた。


「そんなに俺がフラれて嬉しい?」

「い、いや、そんなわけないだろ。残念だったな。今日は飲むか? 付き合うぞ」

「遠慮しとく。明日も仕事だろ」

「ははっ、そうだな。まあ、あんまり気を落とすな。大丈夫、サディはモテるんだから良い人が見つかるさ」


 お父さんがサディさんの背中をバシバシ叩いた。

 でも、サディさんはお父さんの方を見ない。


「またすぐ騎士団長がお見合いの話を持ってくるだろうしね」

「ま、また見合いするのか!?」

「しちゃ悪い?」

「別に悪くはないが、そんなに焦る必要ないんじゃないか。まだ若いんだし、それにお前今まで結婚したいなんて1度も……」

「アルは、俺にどうしてほしいわけ?」


 は……? と、お父さんが足を止める。

 数歩先を歩いていたサディさんが、お父さんを振り返った。


「俺に結婚してほしいのか、してほしくないのか、どっちなわけ?」

「それは……俺に言う権利はないだろ」

「まあそうだね。アルには関係ないし」


 関係ない。

 古今東西、言われて傷つく言葉の筆頭だ。

 もちろん、お父さんも目に見えて傷ついた顔をしてる。

 サディさんがそれをわからないわけがない。ということは、敢えて言ったんだ。


「ちょっと用事あるから、僕はこっちの道から帰るよ。アリシアちゃん、またね」

「う、うん。バイバイ!」


 呆然とするお父さんを置き去りに、サディさんは私に手を振って行ってしまった。


「関係ない……」


 生気の抜けたお父さんの声が、風に流されていった。





コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?