【タイトル】
第21話 勇者の顔
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2021-12-24 14:42:57(+09:00)
【公開日時】
2021-12-24 20:00:13(+09:00)
【更新日時】
2021-12-24 20:00:13(+09:00)
【文字数】
1,874文字
【
魔女のお姉さんがステッキを大きく振ると、辺りにモンスターの大群が現れた。
巨大な泥人形、動く鎧、恐竜のようなモンスター、それから……オオトカゲ!?
ひいぃ、しばらくトカゲは見たくなかったのに!
「どっちが多く倒せるか、競争だね」
「いいのか? 剣でなら負ける気がしないぞ」
剣を構えたお父さんとサディさんは、それぞれモンスターに向かって行った。
魔導の剣は振るうと紫色に光る。流れるようにモンスターを倒していくお父さんの剣さばきは、紫の流れ星のように見えた。
剣を持つお父さんの横顔は、いつもとまったく違う。すごく凛々しくて、逞しくて、かっこいい。
サディさんはモンスターから距離を取って、剣先から波動のようなモノを出してモンスターを吹っ飛ばしていた。
剣なのに遠距離から攻撃ができるんだ。お父さんは普通の剣と同じように戦ってるけど、これが本来の魔導の剣の使い方なのかもしれない。
お父さんたちがどんどんモンスターを倒していくから、魔女のお姉さんが大急ぎでモンスターを召喚していく。
それでも間に合わないくらいの早さで、お父さんは次々とモンスターを切り捨てて行った。一度も攻撃は受けてない。
二足歩行の恐竜みたいなモンスターが、身体を大きく仰け反らせていた。モンスターの身体が徐々に強いオーラを
そのモンスターが狙う先には……お父さん!
「あぶない……ッ!」
私が叫んだ瞬間、サディさんがモンスターを剣の波動で狙い打った。モンスターが吹き飛んで倒れる。
よく見てると、お父さんが倒し損ねたモンスターはさりげなくサディさんが倒していた。
気づいたお父さんが後ろに飛んで、サディさんと背中合わせになる。
「悪い、助かった」
「いつものことじゃん。雑魚の始末は俺に任せて、アルは好きに暴れてよ」
「昔を思い出すな」
「なにジジイみたいなこと言ってんの。まだまだ現役、でしょ?」
「当然……っ!」
これがバディ!
互いに背中を預ける生涯のバディ。この世で最も尊い絆。
いつの間にか、魔法使いのスタッフさんたちが増えていて、手分けしてモンスターを召喚していた。
フィールドの周りにはお客さんが集まって、お父さんたちを観戦している。
「すげえな、とっくに最高記録更新してる」
「プロなんじゃない? どっかの剣士とかさ」
「騎士団の人だったりして」
ギリギリバレてないみたいだけど、お父さんたち本気出しすぎ。
でも惚れ惚れしちゃうのはわかる。本物の勇者様たちの戦いを目の前で見られることなんてないもんね。
「かっこいいー!」なんてキャーキャー騒いでる女の子たちもいる。同士かも。いや腐女子というより夢女子かな。
――グゴオオオオオ
雄叫びがする方を見ると、大トカゲのモンスターがすごいスピードでこっちに迫ってきていた!
悲鳴を上げて周囲の人たちが逃げて行く。
私も逃げなきゃ。でも足が動かない。
あの日の森がフラッシュバックして――
「アリシア!」
ザンッと、オオトカゲが目の前でまっぷたつにされた。お父さんの剣で。
モンスターを見下ろすお父さんの精悍な顔立ち。
これが、勇者の顔……
「終了でーす!」
魔女のお姉さんの声で、モンスターたちが消えた。
「アリシア! 大丈夫か!? ケガはないか!?」
「うん、大丈夫だよ」
お父さんはもう『お父さん』の顔に戻っていた。
一瞬ホッとしたお父さんだったけど、すぐに鋭い目を魔法使いの人たちに向ける。
「これは安全なアトラクションじゃないのか! うちの娘がケガをしたらどうする!」
「い、いえ、モンスターは人に触れられないようになっておりますし、魔法陣のフィールドからも出られないようになっていまして」
「だとしても、この子が怖い思いをしただろう! 可哀想に! 泣いたりしたらどうするんだ!」
ヤバい。お父さんがクレーマーになってる。
止めないとと思っていると、サディさんがお父さんをスタッフさんたちから引き剥がした。
「はいはい、落ち着いて。アル、あんまり目立つと騒ぎになるよ。というか、もうなってるけど」
「う……っ」
いつの間にか、周りのお客さんたちが戻って来ていた。
「あれ、もしかして勇者様じゃない?」
「魔王を倒した勇者? まさか!」
「絶対そうだよ。俺、凱旋パレード見に行ったことあるんだから」
「え? 勇者!?」
「どこどこ~?」
もうほぼほぼバレてる!
勇者がいると聞きつけたお客さんたちが集まってきて、魔法陣の周りはショーかパレードでも始まりそうな人だかりなった。
「マズイな。アル、アリシアちゃん。行くよ!」
「あ、ああ。アリシア、はぐれないように手を」
お父さんと手を繋いで、こっそり人混みを後にした。