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episode20



 サディさんが連れて行ってくれたのは、大きな魔法陣が描かれた広いフィールドだった。その上で、大勢の人達がステッキを振っている。


「あの魔法陣の上なら誰でも魔法を使えるんだって」

「私でも使えるの?」


「はい」と後ろから声が聞こえた。

 振り向くと、スタッフのお姉さんだった。紫色のローブを着た、まさしく魔女みたいな人。


「この魔法陣の上でなら、小さなお子さんでも簡単に魔法をお使いになれますよ」

「ほらね、アルでも使えるって」

「アリシア、よかったな。魔法が使えるぞ」


 お父さんがサディさんを華麗にスルーする。

 お父さん、そんなに魔法苦手なの……?


 私たちの順番になると、魔女のお姉さんはいろんな色や形のステッキを出してくれた。私が選んだのは、先端に黄色い星が付いたステッキ。1番魔法少女っぽい感じがする。

 お父さんとサディさんは、茶色い木のステッキを手に取った。ハリー・ポッターが持ってそうなやつだ。


「それでは、ウサギさんをオシャレにしてあげましょう!」


 魔女のお姉さんがステッキを振ると、辺りが野原になる。目の前にぴょんぴょんと白いウサギが飛び跳ねた。


「ウサギさんに向かって、好きな色や柄を思い描きながらステッキを振ってみてくださいね」

「なるほど、かわいい魔法だね。それっ!」


 サディさんがステッキをウサギに向けると、ウサギがピンク色に変わった。


「すごーい! 私も!」


 空のような青色を思い描いて、ステッキをウサギに向けた。

 パッと、ウサギが空色に変わる。


「すごいじゃない、アリシアちゃん。初めての魔法、大成功だね」

「さすがリリアの子だ。魔法の才能がある」


 大げさに褒めてくれるけど、誰でも使えるんだよね。この魔法。

 でも、嬉しい!


「よし、次はお父さんの番だ」


 お父さんが念じるように目を閉じてから、ステッキをウサギに向けた。

 ぴょんっとウサギが飛び跳ねて、地面がポスッと音を立てる。

 魔法……外れた?


「げ、元気なウサギだな。もう1度!」


 お父さんがステッキを向けたけど、また外れ。

 今度こそとステッキを振ると、今度は当たったけどウサギは濁った緑色になった。


「なにその色。オシャレにしろって言われたじゃん」

「違う! 俺はエメラルドグリーンにしたかったんだ!」


 またまた再チャレンジすると、次のウサギは白黒のしましまになってしまった。シマウマ……というか、囚人服みたい。


「ふざけてる?」

「違う! 俺はハートでいっぱいの柄にしようと思って」

「それもどうかとは思うけど」


 お父さんがどんどんウサギたちを変な柄にしていくから、私とサディさんでせっせとキレイな色に直していく。

 違うゲームになってるよ?


「お時間となりましたー。お楽しみいただけましたか?」


 魔女のお姉さんの声で、野原とウサギは消えてしまった。


「ほんっとにアルって魔法下手だよね」

「これは魔法というより着せ替えゲームだろ! 俺にそういうセンスはない!」


 そういう問題なんだろうか。

 私が見上げていると、お父さんが狼狽える。


「ち、違うんだアリシア。お父さんはこういうキラキラした魔法は苦手で……そんな目で、そんな目でお父さんを見ないでくれえええ!」

「大丈夫だよお父さん! お父さんのウサギさんおもしろかったし、私とっても楽しかった!」


 そんな冷たい目で見たつもりはなかったんだけどな……。

 サディさんは呆れたように肩を竦めると、魔女のお姉さんの方に行った。


「これ子供向けの魔法ですよね? 大人用のってないんですか? できれば敵を倒すとか、そういう戦闘魔法系の」

「はい、ございます。こちらお子様はご利用になれませんが、よろしいですか」

「アリシアちゃん、ごめん。ちょっと外で見ててくれる?」


 うなずいて、私は魔法陣のフィールドの外に出た。


「ほら、アル。もう1回やらせてくれるって。魔導の剣、選んで」


 魔導の剣、サディさんがお母さんに教わった剣だ。


「サディは自分の使うのか?」

「さすがにゲームに本物は使わないよ。まあでも、似てるやつの方がいいよね。これとか、アルがいつも使ってる剣に近いんじゃない?」

「少し軽いが……まあいいだろう」


 お父さんとサディさんが剣を手に取って構えた。

 魔女のお姉さんがステッキを掲げる。


「それでは、たくさんモンスターを倒してくださいね! 目指せ勇者様ランク!」





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