サディさんが連れて行ってくれたのは、大きな魔法陣が描かれた広いフィールドだった。その上で、大勢の人達がステッキを振っている。
「あの魔法陣の上なら誰でも魔法を使えるんだって」
「私でも使えるの?」
「はい」と後ろから声が聞こえた。
振り向くと、スタッフのお姉さんだった。紫色のローブを着た、まさしく魔女みたいな人。
「この魔法陣の上でなら、小さなお子さんでも簡単に魔法をお使いになれますよ」
「ほらね、アルでも使えるって」
「アリシア、よかったな。魔法が使えるぞ」
お父さんがサディさんを華麗にスルーする。
お父さん、そんなに魔法苦手なの……?
私たちの順番になると、魔女のお姉さんはいろんな色や形のステッキを出してくれた。私が選んだのは、先端に黄色い星が付いたステッキ。1番魔法少女っぽい感じがする。
お父さんとサディさんは、茶色い木のステッキを手に取った。ハリー・ポッターが持ってそうなやつだ。
「それでは、ウサギさんをオシャレにしてあげましょう!」
魔女のお姉さんがステッキを振ると、辺りが野原になる。目の前にぴょんぴょんと白いウサギが飛び跳ねた。
「ウサギさんに向かって、好きな色や柄を思い描きながらステッキを振ってみてくださいね」
「なるほど、かわいい魔法だね。それっ!」
サディさんがステッキをウサギに向けると、ウサギがピンク色に変わった。
「すごーい! 私も!」
空のような青色を思い描いて、ステッキをウサギに向けた。
パッと、ウサギが空色に変わる。
「すごいじゃない、アリシアちゃん。初めての魔法、大成功だね」
「さすがリリアの子だ。魔法の才能がある」
大げさに褒めてくれるけど、誰でも使えるんだよね。この魔法。
でも、嬉しい!
「よし、次はお父さんの番だ」
お父さんが念じるように目を閉じてから、ステッキをウサギに向けた。
ぴょんっとウサギが飛び跳ねて、地面がポスッと音を立てる。
魔法……外れた?
「げ、元気なウサギだな。もう1度!」
お父さんがステッキを向けたけど、また外れ。
今度こそとステッキを振ると、今度は当たったけどウサギは濁った緑色になった。
「なにその色。オシャレにしろって言われたじゃん」
「違う! 俺はエメラルドグリーンにしたかったんだ!」
またまた再チャレンジすると、次のウサギは白黒のしましまになってしまった。シマウマ……というか、囚人服みたい。
「ふざけてる?」
「違う! 俺はハートでいっぱいの柄にしようと思って」
「それもどうかとは思うけど」
お父さんがどんどんウサギたちを変な柄にしていくから、私とサディさんでせっせとキレイな色に直していく。
違うゲームになってるよ?
「お時間となりましたー。お楽しみいただけましたか?」
魔女のお姉さんの声で、野原とウサギは消えてしまった。
「ほんっとにアルって魔法下手だよね」
「これは魔法というより着せ替えゲームだろ! 俺にそういうセンスはない!」
そういう問題なんだろうか。
私が見上げていると、お父さんが狼狽える。
「ち、違うんだアリシア。お父さんはこういうキラキラした魔法は苦手で……そんな目で、そんな目でお父さんを見ないでくれえええ!」
「大丈夫だよお父さん! お父さんのウサギさんおもしろかったし、私とっても楽しかった!」
そんな冷たい目で見たつもりはなかったんだけどな……。
サディさんは呆れたように肩を竦めると、魔女のお姉さんの方に行った。
「これ子供向けの魔法ですよね? 大人用のってないんですか? できれば敵を倒すとか、そういう戦闘魔法系の」
「はい、ございます。こちらお子様はご利用になれませんが、よろしいですか」
「アリシアちゃん、ごめん。ちょっと外で見ててくれる?」
うなずいて、私は魔法陣のフィールドの外に出た。
「ほら、アル。もう1回やらせてくれるって。魔導の剣、選んで」
魔導の剣、サディさんがお母さんに教わった剣だ。
「サディは自分の使うのか?」
「さすがにゲームに本物は使わないよ。まあでも、似てるやつの方がいいよね。これとか、アルがいつも使ってる剣に近いんじゃない?」
「少し軽いが……まあいいだろう」
お父さんとサディさんが剣を手に取って構えた。
魔女のお姉さんがステッキを掲げる。
「それでは、たくさんモンスターを倒してくださいね! 目指せ勇者様ランク!」