「馬車!?」
いつの間に、ライラック号の後ろには大きな馬車が!
さっきまでなかったのに!
「この金のハーネスは魔法使いが作ったものだから、魔力のある馬につけると馬車が現れるんだよ」
さっきまで浮いて見えた金のハーネスは、白馬のライラック号によく映えている。
球体の馬車はライラック号と同じ真っ白で、金色の装飾が施されていた。
てっぺんにはティアラを模した飾りがついていて、めちゃくちゃ豪華。シンデレラが乗るかぼちゃの馬車みたい。
「これね、アルが結婚したときリリアさんに贈った馬車なんだ」
「結婚したら馬車があった方がいいと聞いたのに、リリアのやつ『これじゃ街に買い物に行けない』なんて言って1回しか乗らなかったんだ」
いや、これ普段使い用だったの?
結婚式用のオープンカーで買い物に行けと言われてるようなものなんですけど。
「そりゃ乗れないでしょ。自分は白馬のライラック号に跨ることすら嫌だったくせに、なんでリリアさんにはこれなの」
「女性はこういうのが喜ぶと、馬車のディーラーに言われて」
サディさんにツッコまれたお父さんが拗ねる。
かわいい。お父さん不器用かわいい。
そういうところがお母さんも、もちろんサディさんも好きなんじゃないかな!
それにこの馬車を今日出してくれたってことは、私なら喜ぶと思ってくれたんだよね。
お母さんには目立ちすぎたかもしれないけど、6歳の私にはピッタリだと思う。
「お父さん、この馬車とってもステキだね」
「そ、そうか! 気に入ってくれたか?」
「うん! シンデレラの馬車みたい」
「しん、でれら?」
マズイ。この世界にシンデレラはなかった。
「お姫様の馬車みたいだなぁって」
「ああ、そうだ! アリシアはお姫様だぞ!」
お父さんが弾けんばかりの笑顔になった。お父さんの気持ち、やっと報われたみたいでよかった。
サディさんが私の前に片膝をついて、手を差し出す。
「お姫様、お手をどうぞ」
こ、これはまるで王子様のエスコート。
お父さんも似合うと思うけど、サディさんこそ王子様っぽいよね。
「待て待て! エスコートは父親である俺がやる!」
「バージンロードみたいに?」
「バッ!? アリシアにはそんなところ絶対に歩かせないからな!」
張り合うように、お父さんも跪いて私に手を差し出した。
前世のときも縁のなかったモテ期到来? いや私がモテてどうすんだ。
私は片手ずつ、差し出された2人の手を取った。
両側からエスコートされて、キラッキラの馬車に乗り込む。
馬車の中は思ってたより広く、イスはソファのようにふかふかだった。
ライラック号がまた高く鳴いて、翼をゆっくりと羽ばたかせる。
走り出したライラック号の後について、徐々に馬車は地面から浮き上がった。
「うわあ……!」
窓から外を見ると、本当に空を飛んでいた。王都の街並みがあっという間に小さくなる。
飛行機にも乗ったことなかったのに、空飛ぶ馬車に乗れるなんて。
「そういえば、どこに行くの?」
「隣の国、サウザンリーフにある遊園地だ」
「魔法使いが運営してるテーマパークだよ。サウザンリーフは魔法使いが多い国だからね。大人から子供まで、今すっごい人気なんだって」
ディズニーランドみたいなものかな。ディズニーランド行ったことないけど。
あっちの夢と魔法の国もすごいらしいのに、本物の魔法の遊園地か。どんなところなんだろう。