それから私はよく訓練場までお父さんを迎えに行くようになった。
サディさんも一緒に手を繋いで3人で帰る。
自然に私が真ん中になるわけだけど、本当はお父さんとサディさんで繋いでほしい。
とは言えないわけで。
でもこうやって、両手を繋いで一緒に帰り道を歩くなんて初めてだからちょっと嬉しい。
「そういえば、アリシアちゃんに何かお返しをしないとね」
「お返し?」
「この前のプレゼントのお礼だよ。ステキな栞もらったんだからさ」
「そうだな、お父さんからもお礼をしよう。何か欲しいものはあるか?」
「ええ〜、お礼なんていいよ」
私が好きでプレゼントしただけなんだから。
でもお父さんは、困ったようにサディさんを見る。
「この子はいつもこうやって遠慮するんだ。なんでも買ってやると言ってるのに」
そう言われても、特に欲しいものなんて思いつかない。この前ペンダントを買ってもらったばかりだし。
サディさんが「んー」と口元に手をやって考える。
「じゃあさ、モノじゃなくてどこかに出掛けるってのはどう?」
「街に出たらまた大騒ぎになるぞ。おちおち買い物もできない」
この城下町でお父さんたちのことを知らない人はいないらしい。
どこに行っても「勇者様!」だ。
有名税とはいえ、お父さんが勇者と呼ばれるのをちょっと嫌がってるのも無理はないかも。
「もっと遠くに旅行するんだよ。王都から出ればアルの顔知ってるやつなんてそんないないだろうしさ。家族旅行なんて行ったことないだろ」
「なるほど、旅行か」
前世の頃から旅行なんてしたことなかった。
小学校の修学旅行はなんとか行けたけど、それ以外は全然。
行ってみたいけど……家族旅行?
「サディさんは一緒に行かないの?」
「せっかくの旅行なんだから、親子水入らずで行ってきなよ」
気持ちは嬉しい。
嬉しいけど、そこはサディさんと一緒に行きたい。
私というより、お父さんと一緒に行ってほしい。
「サディさんも一緒に行こうよ!」
「え、でもお父さんと2人の方がいいだろ?」
「サディさんも一緒の方が絶対楽しいよ! ね、お父さん!」
期待を込めてそう言うと、お父さんがうなずいた。
「アリシアがこう言ってるんだ。俺とお前からのお返しなんだから、一緒に行ってやってくれ」
「そ……っか。それなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな。俺も旅行なんて久しぶりだし」
よっしゃー! と心の中でガッツポーズ。
お父さんとサディさんの旅行、むしろ邪魔なのは私の方じゃないんだろうか。
でも泊りがけってことは、お父さんとサディさんのイチャイチャワチャワチャを見るチャンスがいっぱいある。
BL本がないこの世界、貴重な公式からの供給ですよ。
お父さんとサディさんの仲良しっぷりを間近で見られる。
最高のお返しじゃないですか!