お屋敷に戻ると、メイドさんたちの大歓声に迎えられた。
「お嬢さまああああ!!」
マドレーヌさんは私の顔を見た瞬間泣き崩れてしまった。
「マドレーヌさん、ごめんなさい。私、勝手に森になんて行って」
「ご無事でなによりでごさいます! お嬢様に何かあったら旦那様に会わせる顔がありません! 死んでお詫びしようにも、奥様にも会わせる顔がございません!」
「大丈夫だから! 死なないで! 私が全部悪いんだから!」
怒られるよりも叱られるよりも、私の無事を喜んでくれる人の涙が胸に刺さった。
部屋に戻ると、たっぷりと髭をはやしたお医者さんが来てくれていた。
私のケガは擦り傷と捻挫。
「せ、先生。こここの子の足は治るんでしょうか! 歩けなくなったりしたら……ッ! この子はまだ6歳なんです!!」
「捻挫と言っているでしょうが。10日もすれば治る」
「こ、この傷は、傷はキレイに治るんですか!? この子は女の子なんです! 嫁入り前のかわいい足に傷なんて……いや嫁になんかやりませんけど! 誰にもうちのかわいいアリシアは渡さない!」
「ええい、やかましいわ!」
お医者さんが帰ると、大騒ぎのマドレーヌさんとお父さんもやっと落ち着いた。
マドレーヌさんはホットミルクを作ってくれて、先に部屋を出て行った。
ベッドに寝かされた私は、お父さんと2人きりになる。
「お父さん、マドレーヌさんたちのことは怒らないでね。私が黙って森に行ったんだから」
「わかってるよ、大丈夫。マドレーヌさんたちもみんなアリシアを捜してくれたからな。後でしっかりお礼をしないと。それから、サディにも」
「サディさんも捜しててくれたんだよね」
「ああ、サディのおかげでアリシアを見つけられた」
森からお父さんのまわりをふよふよ浮いていた蛍のような光が、私の膝の上に落ちて消えた。
「これはサディが出した魔法だ。お前のいる方向を教えてくれた」
「お父さんとサディさんが、私を見つけてくれたんだね」
「ああ、そうだな」
お父さんとサディさんが力を合わせて……嬉しい。いろんな意味で嬉しい。
おっと、こんなときに。いけないいけない。
あれ? なんか忘れてるような……
「あ! バスケット……落としてきちゃった」
「ああ、それなら」
お父さんが持って来てくれたのは、汚れたバスケットだった。
「サディがアリシアのだろうって届けてくれたんだ」
サディさん! 何度お礼を言っても足りません!
バスケットの中を確認すると、白い布は無事だった。
布を開くと、いくつか摘んだ花もちゃんとある。
けど、萎れていた……
「それを摘みに行ってたのか?」
お父さんが私の手元を覗き込んだ。
「明日の式典で、お父さんに渡そうと思ったの。お祝いに」
これじゃもう冠は無理。花束にもできない。
ただ森へ迷子になりに行ったようなものだ……
と、お父さんが萎れた花に手を伸ばした。
「お父さんのために摘んできてくれたんだな」
「でも、こんなになっちゃって……」
「枯れたわけじゃない。キレイだよ」
手に取った萎れた花を、お父さんは嬉しそうに見つめた。
「ありがとう、アリシア。式典では今までいろんな記念品や贈答品を貰ったが、この花が1番嬉しいよ」
お父さんの目が優しく私を見つめる。
「ありがとう、お父さん」
「なんでアリシアが礼を言うんだ?」
「いいの、なんでも」
アリシアは……私は、こんなにも愛されているんだ。