声が聞こえる……幻聴……?
「アリシアー! 聞こえたら返事をしてくれ!」
お父さんの声!
「ここにいるよー! 助けて―!」
カラカラの喉は貼りついているみたいで、さっきよりも声が出なかった。
お父さんの声は聞こえているのに、お父さんに私の声は聞こえてない。
お父さんに気づいてもらえなかったら、もう誰にも気づいてもらえない。
一生……このまま……
そんなの、イヤだ。
「助けてーー!! お父さーーーーん!!」
ザワザワと木々が揺れた。
そして、ピタリと音が止まる。
「アリシア!? アリシアか! どこにいる!」
「お父さん! ここ! 崖の下!」
叫びながら上を見ると、チラチラと何かの光が見えた。
お父さんの声がどんどん近づいてくる。私も枯れてる喉をムリヤリ張り上げて、何度もお父さんを呼んだ。
「アリシア!」
蛍のような光と共に、頭上に人影が現れた。
「お父さん!」
「そこにいるんだな! 待ってろ!」
お父さんは一瞬後ろに下がって……飛んだ!?
音もなく、私の目の前にお父さんが着地した。
「アリシア! 良かった!」
強く、お父さんに抱きしめられた。
「アリシア、心配したんだぞ」
「お父さん、ごめっ、ごめんなさい……私、わたしっ」
「いいんだ、無事でよかった」
ごめんなさいと泣きじゃくる私を、お父さんはずっと抱きしめていてくれた。
前世の結理は、泣いているところを誰かに見られるのが嫌いだった。
泣いてあまえたり、同情を引くのはみっともないと思っていた。
お母さんが死んだときだって、誰にも涙は見せなかった。
けど今は、そんなこと考えていられなかった。
20歳の結理じゃなくて、6歳のアリシアとして声を上げて泣いた。
自分の涙が誰かに受け止めてもらえたのは、初めてかもしれない。
「アル!」
顔を上げると、駆けてきたのはサディさんだった。
傍にお父さんと同じ蛍のような光がチラチラしてる。
「アリシアちゃん! 良かった、見つかったんだな」
「ああ、すぐ家に連れて帰る」
「待って。アリシアちゃん、ケガしてるじゃない」
サディさんが私の足を指差す。
瞬間、お父さんの顔が青ざめた。
「血!? 血が出てるじゃないか! す、すぐに騎士団の救護班を! いや城の医者を!!」
「アル、落ち着けって。とりあえず応急処置するから」
サディさんが私の足に手をかざすと、傷口がポウッと暖かくなった。
それから、手早く包帯を足に巻いてくれる。
「気休め程度だけど、これでちょっと我慢してね」
気休めなんかじゃない。ジンジンしてた痛みが消えてる。
これは……魔法?
「アリシア、大丈夫だ。必ず歩けるようになるからな。お父さんが約束する」
お父さんがそうっと、宝物でも触れるみたいに私を抱きかかえてくれた。
あったかい。お父さんの鼓動が伝わってくる。
さっきまでとは違う涙が込み上げてきた。
「お父さん、ありがとう。大好き」
お父さんの首に腕をまわした。
一瞬息を飲んだお父さんは、すぐに私をぎゅーっと抱きしめてくれる。強く、優しく。
「お父さんも大好きだよ。俺の愛しいアリシア」