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episode7



「はあ……ここなら大丈夫だろう」


 お父さんに連れられてきたのは、広い原っぱだった。


「ごめんな、アリシア。もっと街でゆっくりしようと思ったんだが」

「ううん、大丈夫。ねえ、勇者様って……」

「ああ、昔の話だよ。それより」


 お父さんが差し出したのは、さっき選んだペンダント。


「なんとかこれは死守してきたぞ」


 お父さんは私の後ろにまわって、ペンダントをつけてくれ……ようとしたけど


「あ、あれ? ちょっと待ってな」


 留め具に苦戦してるみたいだ。

 思わず小さく笑うと、頭の後ろでお父さんも笑った。


「よし、できた。こっちを向いて」


 振り返って胸元のペンダントをお父さんに見せる。


「やっぱり似合うな。これを選ぶなんて、アリシアにはセンスがある」


 親ばかだなぁ。

 でももちろん、言われて悪い気はしないわけで、自然に頬が緩む。


「ありがとう」


 なんだか恥ずかしくて声が小さくなってしまった。

 お父さんが微笑む。


「そうだ、アリシアを連れて行きたいところがあるんだよ」


「おいで」と言われ、ついて行くと原っぱの一角に小屋が見えた。

 よく見れば、小屋の外には木でできた柵が遠くまで続いている。

 その柵の中に何頭かの馬が見えた。


「ここ、牧場なの?」

「城の厩舎なんだ。訓練に行ってる馬たちは出払ってるから、今いるのは引退した馬と仔馬たちだけだけど……」

「アル!」


 振り返ると、馬を引いた男の人が立っていた。

 歳はお父さんと同じくらいで、柔らかそうな灰色の髪に紫の目。背はお父さんよりちょっと低いけど、なかなかイケメンだ。


 いやそれよりも驚いたのは、この人、オレウケのサーシェスにそっくり!


「急に休んだと思ったら、こんなとこで散歩かよ。体調でも崩したのかと思って心配したってのに」

「悪い、サディ。今日はアリシアと出掛ける約束をしてて」


 サディ、と呼ばれた人が私を見下ろす。


「キミがアリシアちゃんか! リリアさんに似てかわいいじゃん。そりゃアルが溺愛するはずだ」


 通る声でそう言われ、反射的に後退あとずさりしてしまった。


「おい、この子は人見知りなんだよ。あんまり怖がらせないでやってくれ」


 中身が20歳なのに人見知りとか申し訳ない。

 でもサディアスさんは気にした様子もなく、私の前に膝をついた。


「驚かせてごめんね。僕はサディアス・アガスターシェ。お父さんの友達だよ」

「仕事の同僚だ」

「なにそれ、他人行儀な言い方。ずっと旅した仲じゃんか」


 旅ってことは、もしかしてサディアスさんも……


「サディアスさんも、魔王を倒した勇者様なの?」


 というと、サディアスさんとお父さんが顔を見合わせた。

 サディアスさんが吹き出す。


「勇者様はアルだけだよ。僕は勇者様率いる愉快な仲間たちの1人」

「やめてくれ。全員で倒したんだから全員が勇者ってことでいいだろ。俺だけに押し付けるな」

「だって勇者なんていろいろ面倒だろ。リーダーだったんだから、アルが勇者様でいいんだよ」

「それもお前が勝手に決めたんだろうが」


 お父さんがリーダー?

 なんとなく頼りない今のお父さんからは想像できない。


「それより、こんなところで喋ってて大丈夫なのか? 訓練は」

「終わったよ。今ライラック号を戻しに来たとこ」

「ああ、そうか。今日の訓練は午前中だけだったな」

「誰かさんがデートに行ったせいで、ちょっと時間過ぎちゃったけどね」

「悪かったって。埋め合わせするから」


 お父さんがサディアスさんの引く馬を撫でる。

 馬も嬉しそうにお父さんに首を摺り寄せた。


「こいつがお父さんたちと一緒に旅したライラック号だ」

「優しい馬だから怖くないよ。アリシアちゃん、触ってごらん」


 サディアスさんに言われて、そっとライラック号に手を伸ばす。

 あったかくて、引き締まった硬い身体。


「こんにちは、ライラック号」


 ライラック号は丸い瞳で私を見た。

 穏やかそうだけど、この子もお父さんたちと一緒に魔王を倒しに行ったのか。

 人も馬も、見た目じゃわからない。


「アリシアちゃんも今度ライラック号に乗ってみる?」

「え、でも私お馬さん乗ったことない」

「大丈夫大丈夫。乗馬が下手な誰かさんでも乗れたんだから、アリシアちゃんなら簡単に乗れちゃうよ」

「おい」


 お父さんのツッコミを受け流し、サディアスさんはライラック号を厩舎の中に連れて行った。



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