「もしかして、アルバート様? アルバート様ですよね! まさかお会いできるなんて!」
「い、いや、その……」
お姉さんの声を聞いて、ザワザワと周りに人が集まってきた。
「アルバート様じゃないですか! そちらはお嬢さん?」
「まあ、お嬢さんがいらっしゃったんですね!」
「アルバート様、ぜひうちの店を見てってくださいな!」
「こちらはサービスですアルバート様! お嬢様と召し上がってください!」
「珍しい異国の剣を入手したんですよ。アルバート様に使っていただきたく」
お、お父さんって有名人、なの……?
貴族ならおかしなことじゃない、か?
輪の中心でお父さんはアタフタしながら「今日は娘と出掛けていて……休日なので……」と繰り返してる。芸能人か。
私はあっという間に輪の外に押し出されてしまった。
「こんなところでアルバート様にお会いできるなんて。有難いことです」
隣にいたおばあちゃんが、指を組んでお父さんを拝んでる。
お父さん……何者……?
顔を上げたおばあちゃんと目が合った。
とりあえず笑ってみると、おばあちゃんもにっこり微笑む。
「お嬢ちゃんは、アルバート様の娘さんなのかい?」
「は、はい。アリシアです」
「そうかいそうかい。お父様に似て賢そうなお子さんだこと。立派なお父様を持って幸せでしょう」
「あの……お父さんって、有名なんですか?」
信じられないというように、おばあちゃんの目が丸くなった。
「知らないのかい? でも無理もないのかねえ。アルバート様がご活躍のときには、お嬢ちゃんは赤ちゃんだっただろうからねえ」
「はあ……」
「アルバート様は、この世界を魔王から救ってくださった勇者様なんだよ」
ゆ、勇者様!?
「お嬢ちゃんが生まれるずうっと昔から、この世界は魔王が支配し、魔物が溢れていたんだよ。おばあちゃんが子供の頃なんかは、毎日魔物に怯えて暮らしていたさ。いろんな剣士や魔法使いたちが魔王に挑み、そして散っていった。しかしアルバート様率いる勇者の皆様が、ついに魔王を倒してくださった。今の平和があるのは、すべてアルバート様のおかげなんだよ」
悪役令嬢じゃなくて、まさかの勇者令嬢だったんだが!?
異世界転生してチート能力で俺TUEEE……は聞いたことあるけど、TUEEEのはお父さんでした。
「すみません、今日はプライベートなので! アリシア、行こう」
お父さんが人ごみをかき分けて、私の手を引っ張った。逃げるようにその場から離れる。
振り返るとおばあちゃんが手を振っていたので、私も手を振り返した。
子供のことで一喜一憂して、メイドさんに泣きついて大騒ぎするお父さんが勇者……かぁ。