頭がグラグラする。体中が熱い。
視界が歪んでる。誰かが代わる代わる私を覗き込んでいるけれど、顔がよく見えない。
私……生きてるの……?
でもぼんやり見える天井は、真っ白い病院のものとは違う気がする。
覗き込む人たちも、看護師さんのような白い服を着ていない。
ここ、どこ……?
「アリシア!!」
ドアが勢いよく開く音と共に、男の人の声が聞こえた。
アリシア?
初めて聞いたはずなのに、妙に耳に馴染む名前だ。
「アリシア! お父さんだ、わかるか? 傍にいられなくて悪かった! これからはずっと一緒にいるから、だからお父さんを置いていかないでくれ!」
お父さん? この人は私のお父さんなの?
でも私にお父さんなんていないのに……
『私』って誰だ? 私は桜野結理……
私は……アリシア?
『お父さん』が私の右手を両手で握りしめた。『お父さん』の手は大きくて、優しく包み込まれてる気持ちになる。
顔をそちらに向けると、涙ぐむ『お父さん』の顔が見えた。
男の人の泣くところなんて、初めて見たかもしれない。なんだか私がすごく悪いことをしているみたいだ。
泣かないでほしい。大丈夫だから。なんとなく、そんな気がする。
安心してほしくて精一杯微笑むと、『お父さん』がハッとして「アリシア……」と私の手を固く握りしめる。その眼から涙が零れ落ちた。
泣かせてしまった。安心してほしかったのに。
「アルバート様、お嬢様には我々がついておりますから」
「どうぞ職務へお戻りください」
「娘が大変なときに傍にいてやらなくて何が父親だ! お前たちは下がれ! アリシアは俺が看病する!」
そう言うと、本当に『お父さん』は周りの人たちを追い出してしまった。
それから、私の頬に手を添える。
「お父さんがずっと傍にいるからな。安心してゆっくりお休み」
こくんと頷くと、『お父さん』はようやく笑ってくれた。
まるで揺りかごの中にいるようだ。何も心配しなくていい、守られている、安心する。
目を閉じると、そのまま深い眠りに落ちていった。
夢を見た。
『アリシア』が生まれてから、今までの記憶。
桜野結理だった私は、アリシア・クローバーという6歳の幼女に生まれ変わったらしい。
母・リリアは物心つく前に亡くなり、父・アルバートと共に暮らしている。
父子家庭。前世とは逆パターンだ。
『お父さん』は裕福で、屋敷には使用人を何人も抱えている。
仕事に忙しい『お父さん』はあまり屋敷に帰れず、メイドたちが私の面倒を見てくれていた。
しかし急に高熱を出した私のために、『お父さん』は仕事を放り出して駆けつけてくれたらしい。
私……ホントに異世界転生したんだ。