今日も授業が始まった。
それは、何も変わらないいつもの日常。
今日もこれから一日授業を受けなくてはならないと思うだけで、げんなりしてくる一日が始まったのであった。
しかし、隣の席の有栖川さんだけは様子が違った。
何が違うのかと言うと、今回は分かりやすい。
寝不足三日目に突入した有栖川さんは、まだ一限だというのに既に眠たそうな目をしているのだ。
時々コクコクと揺れる頭に、今にも寝てしまうんじゃないかと見ているだけで心配になってくる。
しかし、それは不味い事は本人も重々分かっているようで、ウトウトしてはそんな自分に気合を入れて頭を起こすのを繰り返している有栖川さん。
俺からしたら、ほら言わんこっちゃないというのが正直な感想だ。
しかし、これでは有栖川さんの勉強が更に遅れてしまうのは間違いないだろう。
そう思った俺は、一回咳ばらいをする。
すると、そんな俺に反応した有栖川さんが、こちらにすっごく眠たそうな目を向けてくる。
――色々言いたくなる顔してるけど、一旦ここは我慢
それを確認した俺は、有栖川さんから見えるようにスマホを取り出すと、それからメッセージを送信する。
『寝たらもう、漫画は貸しませんよ』
そんな俺からのメッセージを見た有栖川さんは、急にピンと背筋を伸ばす。
そして、「全然眠くなんてないですけど?」みたいな顔をしながら慌てて取り繕い出した。
いやいや、流石に無理があるでしょ……。
そう思いつつも、一生懸命取り繕いながら黒板の文字をノートに書き写す有栖川さんの姿に、俺はまたしても笑いを堪えるので必死だった。
まぁ、幸いそれで本当に目が覚めたみたいなので、今回は結果オーライという事にしておこう。
そして、授業が終わり休み時間。
有栖川さんは、ようやく授業が終わったというように机に伏せて眠る体勢を取る。
まだ一限が終わったばかりだというのに、既にクライマックス状態の有栖川さん。
しかし寝不足なのは確かだから、そうして休むのが正解だろう。
それが、今じゃ無ければね――。
「有栖川さーん、次体育だよ行こう?」
駆け寄って声をかけてくれたのは、橘さんだった。
そう、橘さんの言う通り次の授業は体育なのである。
よって、残念ながらこの休み時間、次の授業開始までに移動と着替えを済まさなければならないため、当然寝ている暇など無いのであった。
「……ふぇぇ、はい……」
そんな残念な有栖川さんはというと、顔を上げるとそれはもう物凄く嫌そうな表情を浮かべており、その顔に橘さんは吹き出すように笑い出してしまう。
まぁそんなこんなで、今日は朝からある意味アクセル全開な有栖川さんなのであった。
◇
そして、二限の体育が始まった。
今日は男子が卓球、女子がバレーだった。
だからお互い場所が体育館だった事に、クラスの男子達は盛り上がっていた。
何故かなんて、そんな野暮な事は言わない。
それは勿論、体操着姿の有栖川さんを見れるからに他ならないのだから。
出る所はちゃんと出ていて、スタイル抜群の有栖川さん。
そんな有栖川さんの姿を、男子達は隙あらば横目でチラチラと見ているのであった。
そしてそれは、別に有栖川さんに限られた話でもなく、橘さんやその友達集団も世間一般で見れば十分美少女の部類なため、そちらにも視線は向けられているのであった。
まぁ、それが俺達男子高校生ってもんなのだ。
見ちゃうのが自然、見ないのは不健全まである。
こうして開始された体育の授業だが、実は俺も有栖川さんの事が気になってしまいチラチラと見てしまっており、全くもって人の事が言えないのであった。
それは別に、有栖川さんの体操着姿を見たいだけとかではなく、ちゃんとした理由もあるのだ。
クラスでいつも一人だった有栖川さんが、上手く皆と体育の授業を受けられているかどうか、知り合ってしまった今その事が気掛かりで仕方ないのであった。
だが、どうやらそれもただの杞憂に終わりそうだった。
何故なら、ここでも橘さんの神対応により、橘さんのグループに有栖川さんも誘い入れてくれたようで、無事バレーのグループから取り残されるなんて事態は回避出来ているのが確認できたからだ。
ほっと一安心した俺は、あんまり見すぎていても悪いよなと思い、それから卓球に集中する事にした。
実は昔ちょっとだけ卓球スクールへ通っていた俺は、別に上手くは無いが素人相手には余裕で勝てる程度には出来る方なのだ。
だから俺は、ここぞとばかりにそのスキルを発揮する。
その結果、お前やるなと出てきた卓球部相手には流石に負けてしまったが、それでもそれなりに試合になっていた事に周囲の視線を集めてしまっていた。
それから何となく視線を感じて後ろを振り返ると、そこにはボール避けのネット越しにこちらをガン見してきている有栖川さんの姿があった。
そして、俺が振り向いた事に気付いた有栖川さんは、いつもの無表情でクールな様子でありながらも、卓球で健闘した俺に対して手でグーポーズをしてくれたのであった。
だから俺は、同じポーズを返すと目立ってしまうだろうから、代わりに笑って応えておいた。
すると、それが嬉しかったのか無表情を崩すと普通に微笑んだ有栖川さんは、そのまま橘さん達の輪へと戻って行ったのであった。
そして俺はというと、そんな有栖川さんに今日もドキドキさせられてしまう。
本当に、表情一つでこんな気持ちにさせられてしまうのだから敵わないよなと思いながら――。