キャァァァ! うひぃぃ! 悲鳴がホールを埋め尽くす――――。
魔法陣がバチバチとスパークを上げる中、巨大構造物はようやく止まった。
頭上を覆いつくす巨大構造物がヴゥンと不気味な重低音を上げ、さすがのヴィーナの額にも冷汗が
「いやぁ、失敗失敗! きゃははは!」
シアンは楽しげに笑いながら指先で空中に不思議な模様を描き、構造物を上空へと浮かび上がらせていく。その表情には一片の反省の色もない。
「あんたねぇ! 危ないじゃない! ……。あれっ!?」
その浮き上がって行く巨大構造物が新雪のような純白の輝きを放っているのを見て、ヴィーナの声が裏返る。そこには無数の宝石が散りばめられ、傾く日差しを受けて七色の光を
「あんた! これ、私ん
ヴィーナの
なんと、この構造物は女神の宮殿だったらしい。一つの街が宙に浮かんでいるかのようなとてつもない規模の豪奢な宮殿。それがゴウン、ゴウンという地響きのような音を立てながら、まるで雲の間を
「あれ? 間違えちゃった。きゃははは!」
「嘘つきなさい! ワザとでしょ、もうっ!」
ヴィーナはジト目でシアンをにらむが、シアンは全く気にせず楽しそうに宮殿を操作している。
「ハード・スターボード!」
ノリノリのシアンの掛け声に合わせ、宮殿はゆったりと南アルプスの上空を旋回していく。色づき始めた夕陽の輝きを背景に、その姿は一層神々しさを増していた。
前方上部は、まるで天空の
下半分と後部は、純白の輝きを放ち、ちりばめられた無数の宝石がキラキラと瞬く。それはまるで銀河の星々を集めてきたかのような壮麗さである。さらに、純白の外壁を優美に走る黄金のラインは、天空を駆ける
これこそが女神の住まうところ――――。
その
「キャーーーー!」「素敵ーーーー!」「うわぁ! すごぉぉい!」「夢の中みたい!」
一時はどうなるかと思ったものの、女性たちから黄色い歓声が次々と上がる。
「んもーーーーっ! しょうがないわねぇ……」
ヴィーナは歓声に気を良くして、まんざらでもない様子である。扇子で口元を隠すしぐさに、密かな
「マゼンタ! 彼女たちをもてなしてくれるかしら?」
ヴィーナは宮殿に向かって声を上げた。その声に応えるように、宮殿全体がぼうっと
すると、宮殿の底についていた四角い建物がスーッと降りてきて、ホールの上空で止まった。まるで生きているかのような、しなやかな動きだ。そして、
「おもてなしの用意はできております、皆さまどうぞ。本日は女神様の宮殿にて、心ゆくまでお寛ぎください」
うやうやしく女性たちに頭を下げる
しかし、いきなりこの豪奢な宮殿へどうぞと言われても、すぐには動けない。女性たちは顔を見合わせて困惑していた。
ヴィーナはそんな彼女たちを優しく見回すと、
「美味しい食事とお酒、それに温泉もあるわよ! 今日はゆっくり休んで!」
と、優しく微笑みかけた。
「お、温泉!?」「キャ----!」「やったぁ! お姉さまたち、行きましょう!」
歓喜の声には、これまでの苦難が嘘のように消え去った明るさがあった。
次々と
何百人もの女性のもてなしをあっという間に用意する執事、いったいどれ程の修羅場を超えてきたのだろうか? その完璧な
宮殿の中から漂う甘い香りと、女性たちの笑い声が、夕方の空気に溶けていく――――。