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176. 宇宙最強!?

 しかし――――。


 彼女以外というと、美奈先輩にお願いするしかないが……。それは危険な臭いがする。あの鋭い直感の持ち主が、何かを察知してしまう可能性は否定できないのだ。


『あんたが犯人ね!』


 とでも看破されたら懲役一万年なのだ。俺はブルっと身体を震わせる。まだ生まれて数十年。一万年なんてとんでもない話だった。


「わ、分かりました。お願いします」


 俺は深々と頭を下げる。今はもう星の未来を、この不可思議ふかしぎな存在に託す以外ないのだ。


「うんうん、まーかせて!」


 シアンは愉悦ゆえつに満ちた笑顔を浮かべ、指先で空中に神秘的な光の軌跡きせきを描く。


「それー! きゃははは!」


 そのほがらかな声が響き渡る中、世界のことわりが大きく揺らぐような感覚に包まれ、俺の意識は深いやみへと吸い込まれていった。



        ◇



 目覚めると、そこは元いたログハウスの部屋だった。テーブルではドロシーとレヴィアが、コーヒーを楽しんでいる。


 視線を移すと――――、ベッドには【俺】が横たわっている!


「へ……? なんで……?」


 俺は戸惑いながら、猫となった自分の肉球を見つめた。


「猫の方が可愛いじゃない? くふふふ」


 シアンの声には、気まぐれ娘の悪戯いたずら心が滲んでいた。


「いやちょっと困りますよ!」


 俺はシアンの胸元からピョンと飛び出すと、自分の眠るベッドへと跳躍する。


「あぁぁ……俺……」


 すやすやと幸せそうに眠っている俺――――。


 自分の寝顔を見つめながら、この不可思議ふかしぎな状況に肩を落とす。自分の寝顔を見た者などそうは居ないに違いない。その不思議な感覚に、現実感が揺らぐ。


「こ、これはシアン様!」


 レヴィアは突如として席から飛び上がり、深々と頭を下げた。その態度には、これまでに見せたことのない畏怖いふの色が浮かんでいる。


「『様』なんて要らないよ。シアンって呼んで」


 シアンはほがらかな笑顔を浮かべながら、テーブルのクッキーをつまんだ。その仕草には、超越者とは思えない気安きやすさが漂っている。


「そんな、呼び捨てなんてとんでもございません!」


 レヴィアの声は緊張きんちょうに震えた。


「あれ? レヴィア様ご存じなんですか?」


 ドラゴンの異様な態度に、俺は首を傾げずにはいられない。


「ご存じも何も、全宇宙で最強のお方じゃぞ、シアン様は!」


「宇宙最強!?」


 俺はそのファンタジーな響きに思わず毛が逆立った。


「シアン様が本気になれば、全宇宙は一瞬で消し飛ぶのじゃ」


 レヴィアの身体が恐怖に震える。


 俺は言葉を失った。この奔放ほんぽうな少女が、宇宙最強の存在だというのか。その荒唐無稽こうとうむけいな事実に、思考が追いつかない。


「一瞬じゃ無理だよ、ちょっと時間はかかっちゃうな。それに僕よりパパの方が強いよ。きゃははは!」


 シアンは屈託くったくのない笑顔を浮かべる。その言葉は、宇宙の消滅を否定していない。この少女は本当に、そんな恐るべき力を持っているのだろう。


 笑って宇宙を消す話をする、気まぐれな存在。その規格外きかくがいの力に、俺は言いようのない戦慄せんりつを覚えた。


「わざわざお越しいただいて恐縮です……」


 レヴィアのおびえるような声に、シアンは愉悦ゆえつに満ちた表情を浮かべる。


「いやいや、楽しいもの見せてもらったお礼だよ。きゃははは!」


「た、楽しいもの……?」


 レヴィアの表情がくもった。そこには、不吉な予感の影が宿っている。


「スカイパトロールをあんなふうに回避するなんて前代未聞だよ!」


「えっ!?」


 レヴィアの身体が、まるで氷像のように凍りついた――――。


「一部始終見られてましたよ……」


 俺は諦めの溜息ためいきと共に告げる。


「ぜ、全部!?」


「懲役いっち万ね~ん! くふふふ」


 シアンは人差し指を高々と突き上げ、嬉しそうに笑った。


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