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152. 新たな謎

「試しに繋いでみるってのは?」


 俺は沈黙に耐えられず、口を開いた。


「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃぞ? お主、それでも試すか?」


 ドスの効いたレヴィアの声に、俺はブルっと身を震わせる。


「いやっ……、そ、それは……」


 間違えたら死亡確定なロシアンルーレットなど到底引けない。 


「カーーーーッ! 電源さえ戻れば光る物はあるんじゃがなぁ!!」


 レヴィアがバン! と操作パネルを叩いた。


「魔法……とかは?」


「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」


「そうだ! ヴィーナ様呼びますか?」


「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? それこそ星ごと抹殺されるわい!」


 恐ろし気に首を振るレヴィア。金髪が暗闇でれた気配がする。


「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」


「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」


「え? 別人ですか?」


「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」


 レヴィアの説明は全くもって意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか? 混沌こんとんとした疑問が渦巻うずまく。


 その時だった。


 コォォーーーー。


 何やら船体前方から音がし始めた。わずかに振動も伝わってくる。


「マズい……。大気圏突入が始まった……」


 後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。命運めいうんを分ける時が近づいていた。


「ど、どうするんですか!?」


 心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。脈拍みゃくはく耳朶じだふるわせる。


「なるようにしかならん。必ず時は来る……」


 レヴィアは覚悟を決めたようにケーブルを持つと、静かに明るくなる瞬間を待った。長年生きてきた龍の威厳いげんが戻ってきたように感じる。


 確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。二人の、我が星の幸運を信じるしかない。


 徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。船体を震わすガタガタという音が、次第に激しさを増す。


 重苦しい沈黙の時間が続いた。漆黒しっこくの闇の中で、二人のいのりが交差する――――。



        ◇



 いきなり船内が真っ赤に輝いた。紅蓮ぐれんの光が漆黒しっこくの闇をいきなり引き裂く。


「うわっ!」


 恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されていた。威圧的いあつてきな文字が、宇宙空間に浮遊ふゆうする。


「よっしゃー!」


 レヴィアは嬉々としてケーブルに工具を当て、作業を開始する。その手捌てさばきには数千年の経験がにじんでいた。


「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」


 軽口を叩きながら手早くケーブルを修復していくレヴィア。


 その時だった――――。


 パン! パン!


 威嚇いかく射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじけた。閃光せんこうが|船体を包む。ついに実力行使が始まってしまった。


「ひぃぃぃぃ! レヴィア様ぁ!」


 俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。この極限状況きょくげんじょうきょうで、声が裏返うらがえってしまう。


『くふふふ。頑張れ頑張れ』


 急に若い女性の声が頭に響いた。優美で楽し気な声が、まるで風のように心の中を通り抜ける――――。


 へ……?


 俺は急いで辺りを見回してみるが、誰もいない。血の気が引く思いで、船室の隅々まで目を凝らす。


「だ、誰……?」


 俺はキツネにつままれたように呆然としてしまう。



 その悪戯っぽい声のあるじは、この危機的状況を楽しんでいるかのようだった。


 赤い光の中で、見えない存在の気配が漂う。命懸いのちがけの逃走劇に、新たな謎が加わった瞬間だった。


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