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76. 三人の絆

「仲間を呼んで、美味しいものでも食べよう」


 そろそろアバドンもねぎらってあげたいと思っていたのだ。ドロシーにも紹介しておいた方が良さそうだし。


「え? 仲間……? い、いいけど……誰……なの?」


 ちょっと警戒するドロシー。


「ドロシーが襲われた時に首輪を外してくれた男がいたろ?」


「あ、あのなんか……ピエロみたいな大きな……人?」


 眉をひそめるドロシーの声には緊張の色が混じる。


「そうそう、アバドンって言うんだ。彼もちょっと労ってやりたいんだよね」


「あ、そうね……助けて……もらったしね……」


 ドロシーはうつむく。その様子に、俺は少し心配になった。


「大丈夫だって! 気の良い奴なんだ。仲良くしてやって」


 俺はにこやかに言う。


「う、うん……」


 ドロシーは小さくうなずいた。


 俺はアバドンに連絡を取る。アバドンは大喜びで、エールとテイクアウトの料理を持ってきてくれるらしい。その反応に、俺は少し安心する。



       ◇



 日も暮れて明かりを点ける頃、ドロシーがお店に戻ってきた。夕暮れの柔らかな光が、店内に優しく差し込む。


「こんばんは~」


 水浴びをしてきたようで、まだしっとりとした銀髪が新鮮に見える。その髪が夕陽に照らされ、まるで銀の糸のように輝いている。


 俺はテーブルをふきながら椅子を引いた。


「はい、座った座った! アバドンももうすぐ来るって」


「なんか……緊張しちゃうわ」


 ちょっと伏し目がちのドロシー。出会いへの不安と期待が垣間見える。


 カラン! カラン!


 タイミングよくドアが開き、夕暮れの風が店内に爽やかに流れ込む。


「はーい、皆さま、こんばんは~!」


 アバドンが両手に料理と飲み物満載して上機嫌でやってきた。その姿は、まるで祭りの道化師のようだ。


「うわー、こりゃ大変だ! ちょっとドロシーも手伝って!」


「う、うん」


 俺はアバドンの手からバスケットやら包みやらを取ってはドロシーに渡す。三人で協力し合う姿に新しい絆の芽生えを感じ、思わず笑みがこみあげてきた。


 あっという間に料理で埋め尽くされるテーブル――――。


「うわぁ! 凄いわ!」


 ドロシーは超豪華なテーブルに目をキラキラさせる。


「ドロシーのあねさん、初めて挨拶させていただきます、アバドンです。以後お見知りおきを……」


 アバドンはうやうやしく挨拶をする。魔人なのに彼の優しさと誠実さが伝わってくる。


 ドロシーは赤くなりながら、ペコリと頭を下げた。


「あ、あの時は……ありがとう。これからもよろしくお願いします」


 俺はそんな様子を微笑ましく眺め、大きなマグカップに樽からエールを注いで二人に渡した。


「それでは、ドロシーとアバドン、二人の献身に感謝をこめ、乾杯!」


 声に心からの感謝を込める。


「カンパーイ!」「カンパーイ!」


 三人の声が重なり、店内に温かな空気が広がった――――。


 ゴクゴクとエールを飲み、爽やかなのど越し、鼻に抜けてくるホップの香りが俺を幸せに包む。


「くぅぅ!」


 俺は目をつぶり、今日あったいろんなことを思い出しながら幸せに浸った。ドラゴンとの出会い、世界の真実、そして今ここにいる大切な仲間たち。複雑な思いが胸に去来するが、この瞬間の幸せが何よりも大切だと感じる。


「姐さんは今日はどちら行ってきたんですか?」


 アバドンがドロシーに話題を振る。


「え? 海行って~、クジラ見て~」


 ドロシーは嬉しそうに今日あったことを思い出す。その目は、キラキラと輝いている。


「クジラって何ですか?」


 キョトンとするアバドンの質問に、ドロシーの目がさらに輝く。


「あのね、すっごーい大きな海の生き物なの! このお店には入らないくらいのサイズよね、ユータ!」


「そうそう、海の巨大生物。まるで泳ぐ島のようだったな。こーんな!」


 俺は少し大げさに両手を広げた。


「へぇ~、そんな物見たこともありませんや。見たかったなぁ……」


 アバドンの声には、驚きと羨望が混じっている。


「それがね、いきなりジャンプして、もうバッシャーンって!」


 ドロシーは両手を高く掲げ、クジラのジャンプを再現する。その嬉しそうな仕草に、見てる方もついほほ笑んでしまう。


「うっわーー! そりゃビックリですね!」


 アバドンも両手を広げながら上手く盛り上げる。


「で、その後、帆船がね、巨大なタコに襲われてて……」


「巨大タコ!?」


 驚くアバドン。その表情には、冒険物語を聞く子供のような純粋さが見える。


「クラーケンだよ、知らない?」


「あー、噂には聞いたことありますが……、私、海行かないもので……」


「それをユータがね、バシュ!って真っ二つにしたのよ」


 ドロシーの声には、誇らしさが溢れている。


「いよっ! さすが旦那様!」


 アバドンのヨイショが炸裂。


「いやいや、照れるね……、カンパーイ!」


 俺は頬が熱くなるのを感じながらジョッキを掲げる。


「カンパーイ!」「カンパーイ!」


 三人の声が重なり、だいぶ飲み会も盛り上がってきた。



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