「そろそろランチにしよう。お腹が空いただろ?」
俺はそう言って、ドロシーの手を取って陸へと泳ぎ始めた。
海から上がると、真っ白な砂浜に空の太陽が
「海はどうだった? 楽しめたかい?」
俺はドロシーの手を引いてカヌーへと歩きながら聞く。砂の感触が足裏をくすぐり、ゆったりとした気分になる。
「まるで別世界ね! こんな所があるなんて知らなかったわ! ユータ、本当にありがとう」
眩しい笑顔でにこやかに笑うドロシー。
俺は自然と湧き上がってくる笑みのまま軽く首を振った。『ありがとう』は自分の言葉なのだ。
木陰に折りたたみ椅子を二つ並べると、俺は湯を沸かしてコーヒーを入れていく――――。
準備をしながら、ふと懐かしさが込み上げてくる。かつてこの島で過ごした日々が、走馬灯のように蘇る。もう二度と会うことはできないけど、民宿のおじちゃん、おばちゃんは元気だろうか……?
全く同じ石垣島に居ながら、この世界には誰も住んでいない。その不思議な感覚に俺は深いため息をついた。
◇
「はいどうぞ」
俺はサンドイッチを切ってドロシーに渡した。
「ふふっ、ありがと!」
ザザーンという静かな波の音、ピュゥと吹く潮風……。ドロシーはサンドイッチを
「美味しい! ユータ、このサンドイッチ、どこで買ったの?」
「買ってないよ。俺が作ったんだ。昔、この島で覚えたレシピなんだ」
「すごい! ユータって料理も上手なのね」
ドロシーの目が輝く。その言葉に、少し照れくさくなる。
「サンドイッチに上手いも下手も無いよ」
俺は苦笑し、サンドイッチを頬張った。
◇
コーヒーをすすり、苦みが口の中に広がっていくのを感じながら、いったいこの世界はどうなっているのか、俺はボーっと考えていた。
仮想現実空間であるなら誰かが何らかの目的で作ったはずだが……、なぜこれほどまでに精緻で壮大な世界を作ったのか全く見当もつかない。地球を作り、この世界を作り、地球では科学文明が発達し、この世界では魔法が発達した。一体何が目的なのだろう?
そもそも、こんな世界を動かせるコンピューターなんて作れないのだから、仮想現実空間だということ自体間違っているのかもしれないが……。では全知全能なヌチ・ギや、プランクトンが個体識別され管理されていたのは何だったのか?
俺が
「どうしたの? 何かあった? さっきから深刻な顔してるわ」
俺はふぅと大きくため息をつき、首を振った。
この悩みはドロシーに言ったところで理解すらされないだろう。
俺はドロシーの肩を抱き、背中に顔をうずめると、
「何でもない、ちょっと疲れちゃった……」
そう言って、ドロシーの体温を感じた。その温もりが、俺の不安を少しずつ和らげていく。
ドロシーは肩に置いた俺の手に手を重ねる。
「ユータばかりゴメンね、少し休んだ方がいいわ……」
その声には、申し訳なさが滲んでいた。
「ちょっとだけ……肩を貸して……」
俺はそう言って、身体をドロシーに預ける。
ドロシーは優しく俺の腕をなでた。
伝わってくる温もり――――。
なぜかこの温もりがある限り、どんな謎も解き明かせる気がしていた。
よく考えたら地球で生きていた俺の魂が、この世界でも普通に身体を得て暮らせているということは、地球もこの世界も同質だという証拠なのだ。では、魂とは何なのだろう……?
分からないことだらけだ。頭の中で疑問が渦を巻く――――。
「この世界って……何なんだ?」
疑問の渦の中、俺は独り言のようにつぶやいた。
「あら、そんなことで悩んでるの? ここはコンピューターによって作られた仮想現実空間よ」
ドロシーがうれしそうに答えた。
そのあまりにも唐突な言葉に頭が真っ白になる。
「え!? な、なんでそんなこと知ってるの?」
思わず声が裏返る。ドロシーの表情には、どこか
「なんだっていいじゃない。私が真実を知ってたら都合でも悪いの? ふふっ……」
いたずらっ子のように笑うドロシー。その笑顔に、俺は戸惑いを覚えた。なぜ異世界に生まれた孤児がコンピューターなんて知っているのか?
「いや、そんなことないけど……、でも、コンピューターではこんなに広大な世界はシミュレーションしきれないよ」
俺は必死に自分の知識を総動員して反論する。
「それは厳密に全てをシミュレーションしようとなんてするからよ」
「え……? どういうこと?」
俺の頭の中で、疑問符が踊る。
「ユータが超高精細なMMORPGを作るとして、分子のシミュレーションなんてするかしら?」
「え? そんなのする訳ないじゃん。見てくれが整っていればいいだけなんだから、見える範囲の物だけを適当に
俺の中で、何かが