「断れなかったの?」
ドロシーは眉をひそめる。
「ドロシーの安全にもかかわることなんだ、仕方ないんだよ」
俺はそう言って、諭すようにドロシーの目を見た。
ハッとするドロシー。
「ご、ごめんなさい……」
うつむいて、か細い声を出すその姿に、胸が痛んだ。
「いやいや、ドロシーが謝るようなことじゃないよ!」
ちょっと言い方を間違えてしまったかもしれない。
「私……ユータの足引っ張ってばかりだわ……」
「そんなことないよ、俺はドロシーにいっぱい、いっぱい助けられているんだから」
なんとかフォローしようとしたが、ドロシーの目には涙があふれてくる。
「うぅぅ……どうしよう……」
ポトリと涙が落ち、その一滴にドロシーの心の重みを感じた。
「ドロシー落ち着いて……」
俺はゆっくりドロシーをハグした。どうしようもない震えが伝わってくる――――。
「ごめんなさい……うっうっうっ……」
嗚咽する背中を俺は優しくトントンと叩いた。
「ドロシー、あのな……」
俺は自分のことを少し話そうと思った。これは長い間隠してきた真実を明かす時なのかもしれない。
「俺、実はすっごく強いんだ」
俺はドロシーの瞳をまっすぐに見た。
「……?」
「だから、勇者と戦っても、王様が怒っても、死んだりすることはないんだ」
「え……?」
いきなりのカミングアウトに、ドロシーは理解できてない様子だった。その表情に、戸惑いと混乱が見える。
「……、本当……?」
ドロシーは涙でいっぱいにした目で俺を見つめた。
「本当さ、安心してていいよ」
俺はそう言って優しく髪をなでる。
「でも……、ユータが戦った話なんて聞いたことないわよ、私……」
「この前、勇者にムチ打たれても平気だったろ?」
俺はニヤッと笑った。
「あれは魔法の服だって……」
「そんな物ないよ。あれは方便だ。勇者の攻撃なんていくら食らっても俺には全く効かないんだ」
俺は笑顔で肩をすくめる。
「えっ!? それじゃあ勇者様より強い……ってこと?」
「そりゃもう圧倒的ね」
俺はドヤ顔で笑った。
「う……、うそ……」
ドロシーは
人族最強の名をほしいままにする勇者。それより強いというのはもはやドロシーの想像を超えてしまっていた。
「あ、今日はもう店閉めて海にでも行こうか? なんか仕事する気にならないし……」
俺はニッコリと笑って提案する。
ドロシーは
◇
俺はランチをバスケットに詰め込み、ドロシーには水着に着替えてもらう。
短パンに黒いTシャツ姿になったドロシーに、俺は日焼け止めを塗った――――。
白いすべすべの素肌はしっとりと手になじむほど柔らかく、温かかった。その感触に、俺は思わずドキリとする。
「で、どうやって行くの?」
ドロシーがウキウキしながら聞いてくる。
「裏の空き地から行きまーす」
少し悪戯っぽく言いながら裏口を指さす。
え……?
ドロシーは何を言っているのか分からずに、けげんそうな顔で小首をかしげた。
◇
俺は空き地のすみに置いてあったカヌーのカバーをはがした。朝露に濡れたカバーの感触が、これから始まる冒険を予感させる。
「この、カヌーで行きまーす!」
買ってきたばかりのピカピカのカヌー。朱色に塗られた船体にはまだ傷一つついていない。その艶やかな色が、二人の気分を盛り上げる。
「うわぁ! 綺麗! ……。でも……、ここから川まで遠いわよ?」
どういうことか理解できないドロシー。その
俺は荷物をカヌーにドサッと乗せ、前方に乗り込むと、
「いいから、いいから、はい乗った乗った!」
と、後ろのシートをパンパンと叩いた。
首をかしげながら乗り込むドロシー。
俺は
「本日は『星多き空』特別カヌーへご乗船ありがとうございます。これより当カヌーは離陸いたします。しっかりとシートベルトを締め、前の人につかまってくださ~い」
「シートベルトって?」
「あー、そこのヒモのベルトを腰に回してカチッとはめて」
「あ、はいはい」
器用にベルトを締めるドロシー。その真剣な表情に、俺はつい微笑んでしまう。
「しっかりとつかまっててよ!」
「分かったわ!」
ドロシーは俺にギュッとしがみついた。ふくよかな胸がムニュッと押し当てられ、その感触に俺は思わず顔が熱くなるのを感じた。