エドガーのパーティにはアルとエドガー以外に盾役の前衛一人、魔術師と僧侶の後衛二人がいる。俺を入れて六人でダンジョンへ出発だ。朝
俺は荷物持ちとして、アイテムやら食料、水、テントや寝袋などがパンパンに詰まったデカいリュックを担いでついていく。その大きさが、これから始まる冒険の実感を俺に与えていた。
ダンジョンは地下二十階までの比較的安全な所を丁寧に周回するそうだ。長く冒険者を続けるなら安全第一は基本である。無理すれば良い報酬が期待できようが、背伸びして死んでしまったらお終いなのだ。
街を出て三十分ほど歩くと大きな洞窟があり、ここがダンジョンになっている。入口の周りには屋台が出ていて温かいスープや携帯食、地図やらアイテムやらが売られ、多くの人でにぎわっていた。
(これがダンジョン!)
活気に満ちた光景に、俺の心も高鳴る。
ダンジョンは命を落とす恐ろしい場所であると同時に、一攫千金が狙える夢の場所でもある。先日も宝箱から金の延べ棒が出たとかで、億万長者になった人がいたと新聞に載っていた。なぜ、魔物が住むダンジョンの宝箱に金の延べ棒が湧くのだろうか? この世界のゲーム的な構造に疑問がない訳ではないが、俺は転生者だ。そういうものだとして楽しむのが正解だろう。
周りを見ると、皆、なんだかとても楽しそうである。全員目がキラキラしていてこれから入るダンジョンに気分が高揚しているのが分かる。その雰囲気に、俺も
俺たちは装備をお互いチェックし、問題ないのを確認し、ダンジョンにエントリーした。
地下一階は石造りの廊下でできた暗いダンジョン。出てくる敵もスライムくらいで特に危険性はない。ただ、ワナだけは注意が必要だ。ダンジョンは毎日少しずつ構造が変わり、ワナの位置や種類も変わっていく。中には命に関わるワナもあるので地下一階とは言えナメてはならない。その事実に、俺は身が引き締まる思いがした。
「ユータ君、重くない?」
黒いローブに黒い帽子をかぶった魔法使いのエレミーが、気を使ってくれる。流れるような黒髪にアンバーの瞳がクリッとした美人だ。その優しさに、俺の心は少し和らいだ。
「全然大丈夫です! ありがとうございます」
俺はニッコリと返す。
「お前、絶対足引っ張るんじゃねーぞ!」
盾役のジャックは俺を指さしてキツイ声を出す。
四十歳近い、髪の毛がやや薄くなった筋肉ムキムキの男は、どうやら俺の参加を快く思っていないらしい。その視線に、俺は一瞬たじろぐ。
「気を付けます」
俺は素直にそう答えた。全員に気に入られるのは無理だから、ここは我慢する以外ない。どうせ今日一日だけなのだ。
「そんなこと言わないの、いつもお世話になってるんでしょ?」
エレミーは俺の肩に優しく手をかけ、フォローしてくれる。ふんわりと柔らかな香りが漂ってくる。胸元が開いた大胆な衣装からは、たわわな胸が谷間を作っており、ちょっと目のやり場に困る。俺は慌てて視線をそらした。
ジャックはエレミーのフォローにさらに気分を害したようで、
「勝手な行動はすんなよ!」
そう言いながら、先頭をスタスタと歩き出してしまう。
どうやら俺がエレミーと仲良くなることを気に喰わないみたいだ。困ったものだ。俺は複雑な思いを胸に秘めながら、みんなについて暗い廊下を進んでいく。
◇
途中スライムを蹴散らしながら、早足のジャックにみんな無言でついていく。暗闇の中、足音だけが響き渡っていた。
その時だった――――。
カチッ。
床が鳴った。その音は、死神の囁きのように不吉にダンジョンに響き渡る。
何だろう? と思った瞬間、床がパカッと開いてしまう。落とし穴だ。
「うわぁぁぁ」「キャ――――!!」「ひえぇぇ!」
叫びながら一斉に落ちて行く一行。
エレミーがすかさず魔法を唱え、みんなの落ちる速度はゆっくりとなったが、床はガチリと
「何やってんのよあんた!」
ゆるゆると落ちながら、ジャックに怒るエレミー。その声には、恐怖と怒りが入り混じり、震えていた。
「だ、だって……、あんなワナ、昨日までなかったんだぜ……」
しょんぼりとするジャック。その姿には、先ほどの威勢はみじんもなかった。
しばらく落ち続ける一行――――。
「ちょっと待って、これ、どこまで落ちるかわからないわよ!」「くぅ……マズい……」
いつまでも出口につかない縦穴に、みんな恐怖の色を浮かべている。その表情は、闇の中でも
「みんな! 終わったことはしょうがない、なんとか生還できるよう力を合わせよう」
エドガーはパニックになりそうなみんなにしっかりと強く言った。さすがリーダーである。危機の時こそ団結力が重要なのだ。その言葉に、みんなキュッと口を結んだ。