くっ! さあ、来い!」
汗と緊張で滑る手を剣の
「ぬおぉぉぉ!」
しかし、剣は微動だにしない。レベル千の怪力でさえ、この一本の剣を動かすことができないとは――――。
「な……なんでだよ!」
俺は焦った。いまだかつてこんな無力感に襲われたことはない。俺の怪力は無意味なのか……?
だがその時、俺の脳裏に奇妙な発想が閃いた。
「引いてダメなら……押してみろ!」
ためらいなく、俺は剣を地面へと全力で押し込んだ。
「うおぉりゃぁ!」
「やった! こ、これで……」
勝ち誇る声が途切れる。台座の割れ目から、黒い霧が
「うわぁ!」
反射的に後ずさる――――。
その瞬間、背筋を凍らせるような低い笑い声が響いた。
「グフフフ……」
霧の中から現れたのは、優雅なタキシード姿の小柄な魔人。その姿、禍々しく放たれるオーラは、俺の予想をはるかに超えていた。
「我が名はアバドン。少年よ、ありがとさん!」
黒い口紅を塗った唇が歪み、不気味な笑みを浮かべる。
「お前が……封印されていた悪い魔人?」
「魔人は悪いことするから魔人なんですよ、グフフフ……」
アバドンの言葉に、俺はフン! と気合を入れる。
「じゃぁ、退治するしかないな」
グッとファイティングポーズを取ると、アバドンは嘲笑で応える。
「少年がこの私を退治? グフフフ……笑えない冗談で……」
その瞬間、ユータの姿が消えた。
「え……?」
アバドンが驚きの声を上げる前に、ユータの拳が魔人の顔面に叩き込まれていた。
ぐほぁ!
壁に叩きつけられ、無様に転がるアバドン。
俺は鼻で嗤うとそれを見下ろした。
「笑えない冗談? そうかもしれないね。でも、それは弱いお前の妄言が、だけどね」
怒りに燃えたアバドンの叫びが、狭い空間に
「何すんだ! このガキぃぃぃ……」
ゆっくりと立ち上がる魔人の目は、
「レベル千の俺のパンチで無事とは……さすがは魔人か……」
アバドンの指先が、ユータに向けられる。呪文が
パウッ!
室内に乾いた音が響く。
しかし――――。
ユータの姿が霞む。
「そんなノロい攻撃、当たるかよ!」
瞬歩で光線をかわしながら間合いを詰め、渾身の一撃をアバドンの腹に叩き込む。
ぐふぅ!
再度間合いを詰めるユータに、アバドンは慌てて金色に輝く魔法陣のシールドを展開した。
ほぉ……?
その美しさに、ユータは一瞬、
だが――――。
「俺のこぶしを止めてみろ!」
放たれるレベル千の強烈右フック――――。
魔法陣は粉々に粉砕され、こぶしはそのままアバドンの顔面を捉える。
ガハァッ!
再び壁に叩きつけられる魔人。
しかし、それでも魔人は起き上がってくる。
「マジかよ……。その耐久力だけは一流だな……」
そのしぶとさに俺は舌を巻いた。
「このやろう……俺を怒らせたな!」
紫色の液体を口から
ぬぉぉぉぉ!
おわぁぁぁぁ!
その姿は、まさに悪夢そのものだった。
「見たか、これが俺様の本当の姿だ。もうお前に勝機はないぞ! ガッハッハ!」
「へぇ、その姿が本当の姿か。でも弱いことは変わらんよね」
ユータは、静かに微笑んだ。
「な、なんだとぉ……。小僧め、肉団子にしてやる!
両手を突き出す魔人の指先から、紫色の
「二十倍の重力だ、潰れて死ね! グワッハッハッハ!!」
アバドン勝ち誇った声が響き渡った。
「なるほど、これが二十倍の重力か……」
腕を組み、微笑むユータの姿に、アバドンの表情が曇る。
「あ、あれ?」
焦りを隠せない魔人は、全身の魔力を振り絞り、さらなる魔法を繰り出す。
「百倍ならどうだ! ギッ、ギッ、