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24. 朝まで……

 俺は大きく息を吐いた。緊張の糸が切れ、安堵感が全身を包み込む。隣には、うつむいたままのドロシー。彼女の小さな手が、俺のジャケットの袖口をキュッと掴んでいた。


「ドロシー、もう十分だろ、帰るよ」


 ドロシーの耳元で囁く。


 無言でうなずくドロシーの姿に、俺は胸が痛んだ。


 店主が青ざめた顔で駆け寄ってくる。


「え? どうなったんですか? 困りますよトラブルは……」


 俺は落ち着いた様子で微笑み、金貨三枚を店主の手に握らせた。


「バランド様にはご理解いただきました。お騒がせして申し訳ありません」


 金貨の輝きに、店主の目が見開かれる。


「えっ!? こ、こんだけいただければもう……。ど、どうぞ、彼女と朝までお楽しみください!」


「うん、朝までね」


 俺はニヤリと笑った。


 ドロシーの手を優しく引き、二人で静かに店を後にした。夜の街に出ると、冷たい風が頬を撫でる。


 空を見上げれば、星々が二人を見守るかのように輝いていた。


「ユータ、私……」


 ドロシーの声が震えている。


「大丈夫だよ」


 俺は優しく彼女の手を両手で包んだ。


「もう安全だ」


 ドロシーはコクリと静かにうなずいた。


 冷たい夜風が二人の頬を優しく撫でる中、ユータとドロシーはゆっくりと歩を進めていた。街灯に照らされた石畳の道は、二人の影を長く伸ばしている。


「少し……肌寒いね……」

「うん……」


 賑やかな声が溢れている繁華街で、二人の間には静かな空気が流れていた。


「ユータにまた助けてもらっちゃった……」


 ドロシーの声は小さく、申し訳なさそうに首をかしげる。


「無事でよかったよ」


 俺はニコッと微笑み、優しく返した。


「これからも……、助けてくれる?」


 街灯の明かりに照らされたドロシーの瞳が、不安と期待を滲ませて輝いていた。


「……。もちろん。でも、ピンチにならないようにお願いしますよ」


 俺は少しだけ厳し目のトーンでくぎを刺す。


「えへへ……。分かったわ……」


 ドロシーは両手を夜空に伸ばし、星を眺めながら答えた。


「結局……、どこで働くことにするの?」


「うーん、やっぱりメイドさんかな……。孤児が働く先なんてメイドくらいしかないのよ」


 ドロシーの言葉には、諦めが混じっていた。


 俺は深呼吸をし、決意を固め、提案する。


「良かったら……うちで働く?」


「えっ!? うちって?」


 ドロシーは驚きで足を止めた。


「うちの武器屋さ。結構儲かっているんだけど一人じゃもう回らなくってさ……」


 俺は店の状況を説明し、経理や顧客対応の手伝いを求めた。


 その言葉を聞いたドロシーの目が、まるで星のように輝く。


「やるやる! やる~!」


 ドロシーは腕を突き上げ、嬉しそうにピョンと跳びあがった。


 俺は少し照れくさそうに続ける。


「良かった。でも、俺は人の雇い方なんて知らないし、逆にそういうことを調べてもらうところからだよ」


「そのくらいお姉さんに任せなさい!」


 ドロシーは胸を叩き、自信に満ちた表情を見せる。その姿に、俺は心強さを感じた。


「ありがとう。では、ドロシーお姉さんにお任せ!」


「任された! うふふっ」


 見つめあう二人の間に、新たな絆が芽生えるのを感じる。


「じゃあ、就職祝いに美味しい物でも食べようか?」


「えっ!? 私そんなお金持ってないわよ?」


 ドロシーは両手を振った。


「な~に言ってんの、お店の経費で落とせば大丈夫。初の経理の仕事だゾ」


「お、おぉ……。それはちょっと緊張するわね……」


「ふふっ、何が食べたいの?」


 俺の提案に、ドロシーの目が輝いた。


「うーん、やっぱりお肉かしら?」


「よーし、今晩は焼肉にしよう!」


 夜の街を歩きながら、二人の会話は弾んでいく。


「ドロシーの時間は俺が朝まで買ったからね。朝まで付き合ってもらうよ? くふふふ……」


「えっ!? エッチなことは……、ダメよ?」


 ドロシーの頬が赤く染まり、俺は慌てて言い訳する。


「あ、いや、冗談だよ。本気にしないで……」


 一瞬の沈黙の後、二人の笑い声が夜空に響いた。


 この夜の出来事が、彼らの関係をどう変えていくのか。それはまだ誰にも分からない。ただ、二人の心の中には、確かな温かさが広がっていた。






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