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13. 紅蓮虎吼剣

 市場の喧噪の中、一人のおじいさんが山のような荷物を背負って現れた。白いひげを蓄えた人懐っこそうな顔が、人だかりの中から覗く。


「あー、すまんが、ちょっとどいてくれ」


 おじいさんの背負う荷物からは、剣のつばが覗いている。武具の販売者だろうか? だが、明らかに錆びだらけの手入れの行き届いていないものばかりだった。


 ユータはため息をつきながらも、半ば反射的に鑑定スキルを発動させる。


ワンド レア度:★

木製の杖 攻撃力:+8


スピア レア度:★

大剣 攻撃力:+9


紅蓮虎吼ぐれんこほう剣 レア度:★★★★

大剣 強さ:+5、攻撃力:+8/40、バイタリティ:+5、防御力:+5


「キターーーー!!」


 俺は思わず叫んで立ち上がってしまった。隣に置いていたお茶のカップが転がり、地面を濡らしたが、もはやそんなことは気にならない。


 紅蓮虎吼ぐれんこほう剣は、他の武器と一緒に無造作に箱に突っ込まれていた。


 錆びつき、刃こぼれした姿に、俺は胸が痛む。★4の武器がこんな扱いを受けているなんて……。


「攻撃力8/40か……」


 俺は首をかしげた。


(きっと手入れすれば、本来の力を取り戻せるはず)


 おじいさんは丁寧に武器を並べていく。その中には★3の武器も混じっていた。


「すごい……」


 俺は息を呑んだ。レア武器を二本も出すなんてただものではない。いったいこのおじいさんは何者なのだろうか?


 早速、おじいさんに近づいた――――。


「あの、すみません……」


 俺は緊張しながら声をかける。


「この剣、売ってもらえませんか?」


「あぁ?」


 おじいさんは白ひげをなでながら、ユータをけげんそうな目で見上げる


「坊主か、驚いた。まだ小さいのに武器になんて興味あるのか? ん?」


 おじいさんはそう言って相好を崩した。


「この剣と、あのびた大剣が欲しいんですが、いくらですか?」


「え!? これは一本金貨一枚だぞ! 子供の買えるもんじゃねーぞ!」


 おじいさんは困ったような顔で言い放った。


「お金ならあります!」


 俺はポケットから金貨を取り出して見せた。


「ほぅ、こりゃ驚いた……」


 おじいさんは金貨を受け取ると、本物かどうかじっくりと確かめる。


「……。いいですか?」


「そりゃぁ金さえ払ってくれたらねぇ……。よし! じゃ、びた奴はオマケにしといてやろう!」


 そう言って笑うと、剣を丁寧に紙で包み始めた。


 なんと、★4の称号付きの名剣がオマケになるという。俺はちょっと申し訳なく思いながらも厚意に甘えることにした。


「もしかして、こういう武器、他にもありますか?」


 俺はさりげなく聞いてみる。きっとここにあるだけではないに違いない。


「あー、うちは古い武器のリサイクルをやっとってな。倉庫にはたくさんあるよ」


 おじいさんは開店するなり武器が売れてニコニコと上機嫌だ。


「それ、見せてもらうことはできますか?」


「おいおい、坊主。お前、武器買いあさってどうするつもりかね?」


 怪訝けげんそうなおじいさん。


「あー、実は冒険者相手に武器を売る商売をはじめようと思ってて、仕入れ先を探してたんです」


「え? 坊主が武器商人?」


「武器ってほら、魅力的じゃないですか」


 おじいさんはフッと笑うと、肩をすくめる。


「そりゃぁ武器は美しいよ。でも、儲かるような仕事じゃないぞ?」


「大丈夫です、まず試したいので……」


 きっと在庫は宝の山に違いない。俺は必死にプッシュした。


 おじいさんはユータの目をジッと見る。そして、根負けしたように年季の入ったカバンを漁る。


「分かった、じゃぁ明日、ここへおいで」


 そう言って、おじいさんは小さなチラシを差し出した。


「ありがとうございます!」


 ユータはお礼を言うと、剣を抱え、ウキウキしながら孤児院の倉庫へと走った。



          ◇



 倉庫の隅で、俺は必死に紅蓮虎吼ぐれんこほう剣と向き合っていた。水を汲んできて早速研ぎ始めたものの、思うように進まない。錆びは落ちるが、刃こぼれの修復には頭を悩ませる。


「なんて硬いんだ……」


 額に汗を浮かべながら、必死に砥石を動かす。しかし、★四つの剣は簡単には砥石を受け入れない。その頑強さに、俺は身をもって紅蓮虎吼ぐれんこほう剣の質の高さを実感させられた。


 諦めかけた瞬間、ふと目に入ったのは庭に転がる石垣の崩れた石だった。それは砥石よりももっと粗野な硬さで、砥石ではなんともならない紅蓮虎吼ぐれんこほう剣にはいい荒療治になりそうだった。


「これなら……!」


 平らな面に剣を当ててみると、ジョリジョリと手応えのある音が響いた。


「よし、いける!」


 俺は確かな手ごたえを感じながら必死に研いでいく――――。


 しかし、すぐに息切れし始めた。子供の小さな体にはレア武器の手入れなど重労働だ。


「ふぅ……何やるにしても身体鍛えないとダメだなぁ……」


 ボーっと休憩しながら呟いたその時、倉庫の扉が開いた。



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