小川のせせらぎがチロチロと心地よい音を立て、鳥がチチチチと遠くで鳴いている。その
「よしっ! 行けるぞ!」
思ったより順調に距離を稼いでいく俺。
子供の身体は軽い分、こういう時は有利である。だが、それでも落ちたら死ぬのだ。ふと、下を見た瞬間、予想以上の高さに心臓がキュッと
(ゲームの中なら、こんなの朝飯前なのに……)
何度も諦めそうになったが、アベンスの可憐な紫の花はもうすぐその先で揺れているのだ。とても諦めきれない。
苦闘の連続の末、最後にはなんとかアベンスまで手が届く場所にたどり着くことができた。
「くぅぅぅぅ……。やった……。やったぞ!!」
肩で息をしながら俺は達成感に包まれる。
落ちないように慎重に薬草を採集し、バッグに突っ込む。思わずにやけてしまう。
(きっと銀貨一枚くらい……日本円にして一万円くらいにはなるに違いない)
だが、喜びもつかの間。今度は降りなければならない。降りるのは登る何倍も難しい。チラッと下を見ると、地面ははるか
くぅぅぅぅ……。
俺は
どのくらいの時間が経っただろうか。永遠とも思える時間の後、ようやく山場を越えることができた。
「ふぅ……、あともう少しだ。良かった良かった……」
安堵の
ゴロッ――――。
足元の岩が崩れ、俺の体が宙に浮く。
「へっ……?」
間抜けな声を上げながら、俺は転落していった。目の前で景色が
「ぐわぁ!」
思いっきりもんどりうって転がる俺。世界が目まぐるしく回転し、背中に鋭い痛みが走る。
(安心した瞬間が一番危険……か)
俺は身をもってその教訓を
ゴロゴロと転がり、小川に落ちる寸前でようやく止まる。全身が
「いててて……」
身体をあちこち打ってしまった。
体を起こそうとした時、目の前の倒木の下に
何気なく鑑定をかけてみると――――。
「ええっ!?」
マジックマッシュルーム レア度:★★★★★
マジックポーション(MP満タン)の原料
「キタ――――!」
俺の声が森に
「やったぞ! いける! いけるぞぉ! ぐわっはっはっはー!」
思わず叫び、そして大きく笑う。その笑顔は、今までの人生で見せたことのないような、
フリーターでゲームに逃げていた俺が、今、異世界で新たな人生をつかみ取ったのだ。ただの孤児では終わらない、成功への道を一歩踏み出した実感に全身が
その後、★3のハーブをいくつか採集し、陽も傾いてきたので帰路についた。院長に教わった通り、来た道には短剣で木の幹に傷を付けてきてあるのだ。帰りはそれを丁寧にトレースしていく。
森の中を歩きながら、俺は今日の出来事を
◇
夕焼けに染まる空を仰ぎながら、ユータは早足で街へと戻っていった。
この街、正式名称を『
ごつごつとした石造りの建物が立ち並ぶ中、夕陽が作り出す陰影が街並みを立体的に浮かび上がらせ、まるでアートの様な美しさを放っている。
遠くから聞こえてくる教会の鐘の音が、カーン、カーンと静かに時を告げた。
「早く帰らないと、院長が心配してしまうな……」
俺の目指す先は薬師ギルドだ。採った薬草はギルドで換金してくれると院長に聞いていたのだ。
裏通りにひっそりと佇む薬師ギルドの扉を開けると、独特の香りが鼻をくすぐった。壁一面に並ぶ色とりどりの薬瓶、そしてカウンター越しに見える無数の小さな引き出しが並んだ棚。まるで魔法使いの研究室のような雰囲気だ。