俺は
遊びまわる金もなく、ゲームばかりの毎日。それも無課金。プレイ時間と技で何とか食らいついていくような
カップラーメンや菓子パンを詰め込んで朝までゲーム、そして金が尽きたら親に泣きついて嘘を重ねて仕送りしてもらう。
狭いワンルームで、モニターの青白い光に照らされる生活。友人との付き合いも徐々に減り、気がつけば完全な
そしてある日、ついに不摂生がたたり、ゲームのイベント周回中に運命が牙を剥いた。
「うっ」
いきなり襲ってきた強烈な胸の痛み。まるで
「ぐぉぉぉ!」
俺は椅子から転げ落ち、床の上でのたうち回った。苦しくて苦しくて、冷や汗がだらだらと流れてくる。マズい――――頭の中が真っ白になる。
(きゅ、救急車……呼ばなきゃ……ス、スマホ……)
しかし、あまりに苦しくてスマホを操作できない。指先が思うように動かないのだ。
(ぐぅ……死ぬ……死んじゃうよぉ……)
目の前が真っ暗になり、急速に意識が失われていく。最後の瞬間、脳裏に浮かんだのは、両親の顔。そして、かつて抱いていた大きな夢。
(え、これで終わり……? そ、そんなぁ……)
これが現世での最後の記憶である。二十三年間の人生が、走馬灯のように駆け巡る。
そして突然、不思議な感覚が全身を包み込む。キラキラと輝く黄金の光の渦の中に飲み込まれ、溶け込んでいくような感覚。痛みは消え、代わりに心地よい温もりが広がる。
(これは……なに?)
意識が
人生ゲームオーバー。
しかし、それは新たなゲームの始まりでもあった。
俺の魂は、光の中を漂いながら、未知の世界へと旅立っていく。そこには、きっと新たな冒険が待っているはずだ。
ゲームで培った技術と知識。現実では役立たずだったそのスキルが、もしかしたら――――。
意識が完全に闇に飲み込まれる直前、俺の心に小さな期待が芽生えた。
◇
「……豊さん……」
「……豊さん……」
何だ? 誰だ? 俺はゆっくりと重たい
「あ、豊さん? お疲れ様……分かるかしら?」
目を開けると、そこは光あふれる純白の
「あ、あれ? あなたは……?」
俺は急いで体を起こし、目をこすりながら聞いた。頭がクラクラする。
「私は命と再生の女神、ヴィーナよ」
そう言って、女神はにっこりと微笑んだ。その笑顔に、なぜか
「え? あれ? 俺、死んじゃった……の?」
現実を受け入れられない俺の問いに、ヴィーナは優しくうなずいた。
「そうね、地球での暮らしは終わりよ。これからどうしたい?」
ヴィーナは俺の目をのぞき込む。その瞳に映る自分は、何と情けない姿だろう。
「え? どうしたいって……、転生とかできるんですか?」
俺の声には、希望と不安が入り混じっていた。
「そうね、豊さんはまだ人生満喫できていないし、もう一回くらいならいいわよ」
やった! 俺は目を輝かせ、両手を合わせて祈るように言った。
「だったら……チートでハーレムで楽しい世界がいいんですが……」
すると、ヴィーナはまたかというように、首を振り、うんざりした表情を見せる。その仕草が、どこか見覚えがある。
「ふぅ……最近みんな同じこと言うのよね……。チートでハーレムなんて提供する訳ないじゃない! 馬鹿なの?」
不機嫌になってしまったヴィーナ。確かにチートハーレム勇者を送り込むメリットが女神側にあるわけがない。ちょっと贅沢言い過ぎたかもしれない。しかし、これは次の人生に関わる重要なポイントだ。なんとかいい条件を勝ち取らねばならない。
「じゃ、チートだけでいいのでお願いしますぅ」
俺は必死に頼み込む。その無様な姿を、ため息をつきながら見つめるヴィーナ。
「ふぅ……、しょうがないわねぇ……じゃぁ特別に『鑑定スキル』付けておいてあげましょう」
そう言ってヴィーナは何やら空中を操作してタップした。その仕草は、スマホを操作する現代の若者そのものだ。
「え~、鑑定ですか……」
「何よ! 文句あるの?」
ギロっとにらむヴィーナ。その
「い、いえ、鑑定うれしいです!」
急いで手を合わせてヴィーナに
「……、よろしい! では、準備はいいかしら?」
ニッコリと笑うヴィーナ。その笑顔に、ある人物の面影を見た気がした。
「も、もしかして……
そう、ヴィーナは大学時代のサークルの先輩に似ていたのだ。あの優しくも厳しい先輩。
「じゃぁ、いってらっしゃーい!」
俺の質問を無視し、強引に見切り発車するヴィーナ。テーマパークのキャストのように、ワザとらしい笑顔で手を振る。その仕草があまりにも
「いや、あなた、やっぱり
言葉の途中で、俺の意識はすぅっと遠のいていった。最後に見たのは、ヴィーナの少しいたずらっ子のような笑みと、意味深なつぶやき――――。
「豊くん。今度こそ、楽しませてよ?」
俺の魂は、新たな世界へと旅立っていった。そこでどんな冒険が待っているのか、まだ全く分からない。ただ、一つだけ確かなことがある。この『鑑定スキル』が、俺の運命を大きく変えることになるということだ。