巨大な火炎キノコ雲が立ち上り、その光景に俺の心は凍りつく。
「ドロシー……?」
かすれた声で愛する人の名を呼ぶ。勇者の無慈悲な行為に、怒りと絶望が胸の中で渦巻いた。
「ドロシー! ドロシー!」
瓦礫をどかすと、見慣れた白い手が現れた。
「ドロシー!?」
慌ててつかんだ手だったが――――。
スポッと抜けてしまった……。
腕しかない。
「あぁぁぁぁ……」
崩れ落ちる俺。なぜ彼女がこんな目に遭わなければならなかったのか。心の奥底から怒りと悲しみが込み上げてくる。
「勇者……絶対に許さない」
ドロシーの腕を胸に抱きしめ、涙を流しながら、俺は復讐を誓う。その瞬間、これまでの温かった自分が崩れ去り、新たな決意に満ちた自分へと生まれ変わったのだ――――。
◇
俺の胸の中で、怒りと悲しみが渦巻く。悪は成敗されねばならない!
『さぁ皆さんお待ちかね! 我らが勇者様の登場です!』
司会の声に合わせ、観客席から
「ウワ――――ッ! ピューィィ――――!」
金髪を
勇者は観客に向かって
その笑顔の裏に隠された
続いて、俺の入場――――。
「対するは~! えーと、武器の店『星多き空』店主、ユータ……かな?」
呼び声に応え、俺は淡々と舞台に進み出た。地味で冴えない中世ヨーロッパ風の服を着こみ、ハンチング帽をかぶった、ひょろっとしたただの商人。ポケットに手を突っ込んで、武器も持っていない。まるで会場の作業員と見紛うばかりの
観客席がざわめく。なぜ丸腰の商人が勇者と戦うのか、何かの間違いではないのかと誰もが首を
「なぜ……? お前がここにいる……」
勇者はムッとした表情で、俺を見下しながら言う。その目には軽蔑の色が
「お前に殺された者、襲われた者を代表し、お前に泣いて謝らせるために来た」
俺は勇者をにらみながら淡々と返した。その声には、これまでの苦しみと怒りが
「貴族は平民を犯そうが殺そうが合法だ。俺に殺される? 名誉な事じゃないか!」
勇者は悪びれず、いやらしい笑みを浮かべる。
「このクズが……」
激しい怒りが俺を貫く。ドロシーの笑顔が脳裏に浮かび、さらに闘志が燃え上がる。
「お前、武器はどうした?」
何も持っていない俺を見て、
「お前ごときに武器など要らん」
バカにされたと思った勇者は、聖剣をビュッと振って俺を指し、叫んだ。
「たかが商人の分際で、勇者の俺様に勝てるとでも思ってんのか!」
その声には格下のものに軽んじられた怒りが混じっている。
俺はニヤッと笑い、静かに言葉を紡ぐ。
「勝つよ。勝ったら土下座して俺たちに二度と関わるな…… リリアン姫との結婚もあきらめろよ?」
勇者を指さす俺の指先に、これまでの怒りと悲しみのすべてが込められていた。
勇者はあきれた表情で肩をすくめる。
「いいだろう…… だが、生意気言った奴は全員殺す…… これが俺様のルールだ。くふふふ……」
いやらしく
「約束だからな。こちらも殺しちゃったら…… ごめんね」
俺は勇者にニッコリと笑いかける。
「貴様……」
闘技場の中心で火花を飛ばし合う両者――――。
闘技場に緊張が
◇
「はい、両者位置について~!」
レフェリーの声が闘技場に響き渡る。その瞬間、ざわめいていた観客席が水を打ったように静かになる。空気が一瞬凍りついたかのように感じられた。
勇者は指定位置まで下がり、聖剣を目の前に立てると、フンッと気合を込めた。その姿は、まるで古代の
すると、刀身に青く光る
「ウォ――――!」
一方、俺は青白く浮かび上がる『
「勇者様~!」「いいぞー!」「カッコい――――!」「抱いて――――!」
観客から熱狂的なかけ声が上がる。
俺は観客席を緩やかに見回し、観客の盛り上がりに申し訳なさを覚えた。彼らは真実を知らない。この勇者こそが、多くの罪なき人々の人生を破壊してきた
観客の期待を裏切るようで悪いが、二度と悪さができないように叩きのめしてやる。それが、犠牲になった全ての人々へのレクイエムだ。
準備が整ったのを見て、レフェリーが叫ぶ。
「レディ――――ッ! ファイッ!」
勇者は俺を
「ゴミが! 死にさらせ――――!」
と、
人族最高レベルの攻撃、確かに見事だ。しかし――――。
「ガッ!」
俺は顔色一つ変えず、聖剣の刃を左手で無造作につかんだ。その瞬間、会場全体が息を呑む。
「えっ!? あ、あれ!?」
勇者は
あわてて聖剣を
「ちょ、ちょっとお前……、何すんだよ!」
勇者は冷や汗を垂らしながら、俺に文句を言う。その声には、これまで聞いたことのない焦りが混じっている。
「武器なんかに頼っちゃダメだな」
俺は勇者の手から聖剣を
「うわっ! 返せよ!」
聖剣を取り上げられて
「約束は守れよ」
俺はそう言うと、刃をつかんだまま、素早く聖剣の
「ぐぉっ」
勇者は
どよめく観衆。その
俺は聖剣を投げ捨て、勇者を
「いたたた……」
「き、貴様! 怪しい技を使いやがって!」
そう叫ぶと、勇者は口から流れる血を指先で
「へぇ……立てるんだ。さすが勇者様」
俺の一撃を食らっても立ち上がれることにちょっと感心して、軽く口笛を吹いた。
「許さん! 許さんぞぉ! ぬぉぉぉぉ!」
勇者はわめきながら、全身に気合をこめ始めた。身体は徐々に黄金色に輝き始める。
「ぐぉぉぉぉ!」
勇者の叫び声は闘技場に響き渡り、金色に光り輝く姿は神々しくすら見えた。しかし、その輝きの中に
そして、ドヤ顔で俺を見下した。その表情には、最後の
「見せてやろう、勇者の……選ばれた者の力を!」
勇者は両腕をクロスさせると指先をまぶしく光らせた。その姿は、まるで古代の魔法使いのようだ。
「え? 見せて」
俺はワクワクし、ニヤッと笑った。初めて見る勇者の奥義……どんな技だろうか? つい俺の好奇心がムクムクと湧き上がってしまう。