「マジかあの女…?! アレスさんに喧嘩売りやがった…!」
「何者なんだあの女…!?」
ギャラリーがざわつき始め、張り詰めた空気が
こう改めて向かい合うと威圧感が凄ェ…ただの構えからリーダーを任されるに相応しい強さを本能的に感じる…。
筋力差では圧倒的不利だし背丈も私より高ェ…
とは言え不利ばかりじゃねェ…、
「カカ本気で
「オマエもだぞアレス。そもそもオマエがまともに話を聞かないからこんなことになったんだぞ? もう一回冷静にだな…」
「うるせェ! 先に喧嘩売ってきたのはあっちだ! 説教すんならあの
「
言うに事欠いて
怒りを原動力に私は
流石に防御されてしまったが…一時的に視界は塞がり、椅子が邪魔で
とりあえず顔面に2、3発喰らわして…その後は待ちに徹して
“──キーン…!!”
「…っ?! うおォ…!!?」
攻撃しようとした矢先、突然さっきの椅子が勢いよくぶっ飛んできた…。〝音〟のおかげで回避できたが…椅子は後ろの壁に激しくぶつかった…。
投げてきたわけじゃねェ…コイツ突きだけで椅子ぶっ飛ばしやがった…。キメェ…ニキ
これは本気にならないと危険だな…、
奴の動きと〝音〟…目と耳に神経を注ぎながら、今度は慎重にじりじりと距離を詰めていく。
すり足で距離を詰めていき、ついに互いの間合いまで近付いた。いつ仕掛けるか…どう攻撃するか…、極限まで神経を研ぎ澄ます。
狙いはある…ただじりじり距離を詰めてたわけじゃない…。何となく間隔は分かってる…──ここだ…!
私が力を込めた右腕を伸ばすと同時に、
如何に手練れと言えど虚を突かれては防御が間に合う筈もなく、私の右拳は
初撃は成功…っとなれば可能な限り追撃を叩き込むのみ…! 左拳で顔面を殴りつけ、右脚で思いっ切り腹を蹴りつけた。
手応え十分、常人なら悶絶して倒れてもおかしくないほどだった。だがあろうことかこの男…蹴りつけた私の足首をガッシリ掴んできた…。
そして隙だらけの
だが痛みに浸る間もなく…
私は痛みを奥歯を噛み殺し…床を蹴って強烈な蹴りを跳び躱した。そのまま左脚で
代わりに右脚は解放されたが…強烈な痛みを残された…。コイツにもそこそこ攻撃はしたが…効いてるのかどうか分かんねェ…。
「オイオイ…なんか凄ェぞあの女! アレスさんと互角に
「めちゃくちゃ強ェ! マジで何者なんだアイツ…?!」
「頑張ってください! 絶対勝てますよっ!」
「
ギャラリーがうるせェな…、あとさらっとアクアス混じってんな…何ちょっと観客として楽しんでんだオマエは…。
オイオイオイ…ニキに至っては何かつまみながらジュース飲んでんな…。アイツは後でお仕置きだな…今日の夕飯は豆オンリーしたろ。
楽しみが1つできたところで…早いとこ決着つけちゃわねェとな。周りの連中の私を見る目が変わりつつある現状、もっと強い印象を植え付けてやれば…仮に負けても私を仲間に引き込もうとするかもしれない。
そうなればリーダーは孤立し…必然的に魔物討伐は叶わなくなり…私達サイドに
そうと決まればさっさとこの喧嘩を終わらせちまおう…、多少強引にでもガンガン攻めて〝猛者〟の印象を植え付ける…! もちろん勝ちを見据えた上でだ…!
私は一気に距離を詰め、
当然黙って受け続ける筈もなく、隙を狙って
そこから先は息もつかせぬ攻撃の応酬…。
私の攻撃は確実に顔や腹にヒットしているが…私も避け切れず腕や肩に攻撃を受けている…。クリーンヒットは避けれているが…それもいずれ…──
激しい攻撃と反撃の嵐…、精神と集中力が次第に削れていく中…ついに
左二の腕がまるで鈍器に殴られたように痛み…手に力が入らない…。だが今怯めば連撃の隙を与えてしまう為…私は痛む左腕を無理やり突き出した。
体重を乗せた左ストレート…だがギリギリで顔を後ろに反らされて躱された…。っがそこまではまだ予想の範疇…!
私は攻撃の勢いをそのまま利用して体を捻り、
十分すぎる手応えは感じた、だがこれでも
そしてそのまま背負い投げを決められ…私は床に背中を強打した…。一瞬目の前が真っ白になり…呼吸を忘れるほどの衝撃が全身を巡った…。
それでも何とか体を起こそうとすると…ズシッと体に重みが増した…。
腕を動かそうとしても足で押さえ付けられ…、ダメもとで蹴りを試みるも…それより先に
“バキィ…!!”
「カカ様…?! 大丈夫ですか…?!」
「ハァ…ハァ…──これでもまだ…俺達だけじゃ勝てねェってのか…?」
「──ああ…確実に負けるよ…。たとえ術があっても…高い実力を持つ者が少ないんじゃ…勝機は五分かそれ以下…。私達は術がある…でも頭数が心許ない…、オマエ等は人数がある…だが術を持たない…。何を言いたいか…もう分かるだろ…?」
この協力関係は互いの足りないものを補い合うもの…つまりは利害の一致だ。頭の固いリーダーでも…このくらいは理解できるだろう。
だが中々返答が出てこない…、ここまで言われてまだ何か悩んでんのか…!? もういいだろ女でも…! いい加減戦力として数えろや
「もういいだろうアレス…、オマエの葛藤はよく分かる…けど今優先すべきは魔物だろう…? またいつ魔物の被害が双子町を襲うか分からない以上…選り好みしてる場合じゃない…。彼女達は戦力になる…、手を組むべきだよアレス…」
「──分かったよ…」
「分かったんならそろそろどいてもらえるかな…? いつまでも女の上に跨っておくものじゃないぞ…?」
「ああ…悪い…」
ゆっくり体を起こすと…背中がズキズキと痛む…。加えてさっきまで我慢してた腕や脚のあちこちが痛む痛む…。
クソったれェ…、ちょっと話しに来ただけで…なんでこんなことになんだよ…。
※喧嘩売った本人
「大丈夫ですかカカ様…?
「こんなしょうもないことに使ってられるか…、でも肩貸して…」
肩を借りて立ち上がると…いつの間にか優男君は椅子を戻していてくれた。私が最初に蹴り飛ばしたやつ…、すみません…。
軽く左脚を引きずりながら椅子に座ると、右頬にガーゼを貼った
「それじゃ今後について色々話し合う前に、まずは交流を深める為にも自己紹介から始めようか。僕は〝ロイス〟、よろしく! っでこっちの堅物がアレスだ」
< 二等星ハンター〝
「ふんっ…!」
< 二等星ハンター〝
私達も手短に自己紹介を返し、早速話を前に進める。聞きたいことは色々あるが…まずは何から聞いたものか…。
「あっ、そういや気になってたんだが…この町の住民達は魔物の存在をどうやって知ったんだ? 町のすぐそばにでも現れたのか?」
「結構前に兵士がここを訪れてね、王都で起こった悲劇を説明しに来たんだ。っでその時に魔物の存在を知ったんだけど…実際町の近くにも現れたんだよね…」
「えっ…マジで…?」
聞けばすぐそばにある森、そこを闊歩する巨大で黒い謎の生物を町民数名が目撃したという。兵士から聞いた特徴と一致していた為、それが魔物だと判ったそうだ。
幸い町まで来ることはなかったそうだが…それから間もなくしてマルベイがあの病に侵され始めた…。魔物の仕業だと思うには十分な理由だ。
「でも間近で目撃したわけじゃないんだな…、戦う前にせめて姿だけでも知っておきたかったが…」
「今回も大変な戦いになりそうですね…」
ネコにワニときて次はどんな魔物なのか…、全く想像できない…。カバやカエルでもおかしくない…ヒトデとかでも驚かない…。
でもどうせ苛烈な戦闘になるのは間違いないし…頑張ってアレス達を仲間にできて良かったよ…、今回は大勢で挑めそうだ。
「それより…そろそろ魔物を倒す手段を教えろよな…」
「そういえばそうだったな、忘れてたわ」
「テメェ…」
呆れるアレスに、私は短剣を取り出して倒し方を詳しく説明した。ついでに今まで戦った魔物についても説明し、共通する特徴などを伝えた。
魔物にはあらゆる攻撃が通用せず、すぐに再生すること。原理不明な
「短剣でしか殺せないっつったが、首刎ね飛ばしても無理なのか?」
「さあねェ…あんな規格外な化け物の首ぶった切れるかよ…、黙って確実な方法だけを追っかけてくれ…」
「そうだよアレス、なにせ失敗が許されない重大な戦いなんだから。っとは言っても…まずは魔物を見つけるところから始めなきゃだけどさ…」
「そうだそうだっ、その件についても話しとかなきゃいけないんだった!」
私はネブルヘイナ大森林に落下した石版のことと、それに付随する魔物の奇妙な習性についてを2人に話した。
石版を餌にすれば、魔物を指定の場所まで誘導できること。そして行方知らずな石版を探す手伝いをしてほしいこと…。あとそれを狙う
「ややこしい話になってきたな…、要するにどういうこった…?」
「魔物と戦闘になれば広範囲に影響が出るから、できるだけ町から離れた場所に魔物を誘導したい。その為には石版が必要だけど、どこにあるか分からないし、厄介な邪魔者がいる。だから手を組んで邪魔者よりも早く石版を手に入れたい、ってことかな?」
「おおっ…その通りです…」
ロイスの高い理解力のおかげで、あっという間に話が簡略化された。アレスは少し面倒くさそうな表情を浮かべたが、そこも協力してくれると言ってくれた。
これでようやく話がまとまった…頑張って痛い思いした甲斐があったというものだ…。まあ最初に喧嘩吹っ掛けたのは私だが…。
「じゃあ準備出来次第、早速石版探しに赴こうじゃないか。こんだけ人数居るんだ、人海戦術で案外サクッと見つかるかもしれねェな」
「オイちょっと待て
「
「今俺達〝
私ともそう離れてはいない筈…、じゃあそのベテラン達はどこに居るんだ…? っつうか何で意見が割れてんだろうか…?
「経験豊富なベテラン達がね…僕達
「俺達はもう立派にハンターやってんのに…いつまでも老いぼれ共がしゃしゃってんだ…! 腹立つ話だが…石版探しの前に連中を説得しねェと、人知れず魔物討伐に出向いちまう…。それはオマエ等も望む所じゃねェだろ…?」
まったくもってその通り…どうにかして阻止せねば…。勝手に行かれて知らぬ所で死なれては…こっちも目覚めが悪い…。
実に面倒くさいが…説得しに行かざるを得ない…。せめて話が通じる相手であってくれと願いながら…私は重たい腰を上げた…。
──第100話 譲れぬ想い〈終〉