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第99話〝ウザ〟

ミクルスの功績により、無事支度町マルベイの住民達は救われたが…ここ数日間私達の目的は一歩たりとも進んでいない…。


特効薬が完成した現状いま、これ以上魔物病まものやまいの被害は拡がらないだろうが…直接町を襲撃してこないとも限らない…。


魔物の脅威は未だ変わらずだ…。加えて毎度現れる獣賊団クズ共の存在も気掛かりだし…悠長にしてる暇はない…。


早いとこニキを拾って行動に移りたいが…ニキは別の場所で隣町の住民達からの感謝を一身に受けてるらしいので、私達はそこに向かっている。


「──見えてきました、あそこです」


「おーおー、人だかりのおかげで分かり易いったらないな」


アクアスの居た広場とは別の広場、そこに遠目でも目立つ人だかりが出来ていた。…っがアクアスの時の人だかりとは少し様子が違う…。


アイツまさか…、そう思いながら私達は人混みを搔き分けてグイグイ奥に進むと…やはりあの紫頭巾は商売をしていた…。


感謝を言いに集まった人達を客に商売か…、つくづく商売上手だよなコイツ…。人当たりも良いし…陽の気だしなコイツ…。


「カカ起きたんニね、おはようニ~!」


「オマエのそのどこでも商売癖どうにかしろよ…。そろそろ私達も目的の為に動くぞ、さっさと片付けろ旅商人」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




喫茶店カーファハウス


ニキを回収し、これで久々に3人で落ち着いて話しができる。最近はず~っと病だの特効薬だので頭いっぱいだったからな…なんか新鮮な気分だぜ…。


「それでまず何から取り組むのですか? いつも通り情報収集からですか?」


「そうねェ…面倒だけど情報収集は大事だよなぁ…。つっても石版の落下地点は果てしなく広がる森ん中…、どれだけの情報が得られるものか…」


「それについてだけどニ、さっきの商売中に気になる情報を仕入れたニ!」


でたよ有能…恐ろしい奴…。私とアクアスはカーファをすすりながら、恐ろしい奴から気になる情報とやらを聞いた。


まず前提として、ニキが仕入れた情報に石版の手掛かりは無かった。客のほとんどに聞いて情報はゼロ…、今までで一番大変かもしれん…。


ニキの言う気になる情報とは、石版ではなく魔物についてのものらしい。


聞けばここ〝支度町したくまちマルベイ〟の隣町イントレイスは〝狩猟町しゅりょうまち〟と呼ばれるほどのハンターが集う町らしい。


普段であれば実に頼りになる響きだが、現実は少々複雑な方向へと流れてるらしい…。それもかな~り厄介な方向に…。


マルベイとイントレイスは双子町と呼ばれているほど交流が深く…簡単に言えば物凄く仲良しなのだ。


その片割れが病に侵され…あわや全滅寸前にまで追い込まれた。全滅は免れたが、その安堵は怒りへと変わり…矛先は案の定魔物へ向いた…。


今イントレイスではハンター達が復讐の刃を光らせてるらしい…。頼もしい限りだが…相手が魔物となれば事情が違う…。


いくらハンター達が集おうとも…私の持つこの短剣が無いんじゃ魔物は倒せない…。無駄死だ…全員もれなく…。


「どうにか止めなくてはなりませんね…」


「ああ…石版の情報収集よりもよっぽど重要だな…。早いとこ狩人商会ハンターギルド行って、血気盛んなハンター達を説得しねェとな…」


そうと決まれば、私達はグイッとカーファを飲み干して足早に喫茶店カーファハウスを後にした。イントレイスは川を挟んだ向こう側にあり、橋を渡れば目と鼻の先にある。


道行く人々からの感謝を受け取りながら通りを進んで行くと、やがて川の上に架かる橋と、その奥にイントレイスへの入り口が見えた。


飛空艇で上空から見た時にも感じたが、マルベイよりもずっと立派な町をしている。流石は狩猟町といったところか。


さてさて…ここは屈強なハンター達が多く集う町なのだし、女だからと舐められないようにしなくてはな。


「よっこいしょっと! なんか久々だなオマエに乗るの」


「カカ様? どうして突然クギャ様の背に?」


「この前調教商会テイマーギルドに行った時に知ったんだが…偽竜種レックスってハンター達からチョー人気なんだぜ? ってことはそれを手懐けている私は凄いってことだ! つまり絶対に舐められない!」


「変な理屈ニ…」


私達の言葉が女の戯言と一蹴されてしまう可能性も無くはない。そうなると余計面倒なので、町に入る前から只者じゃないオーラを全開にしていく。


偽竜種レックスに跨る衝棍シンフォンを背負った女──うん、我ながら強そうだ。明らかに他を圧倒している。


「ほんじゃ狩人商会ハンターギルドを目指しますかねーっと。──んっ?」


門をくぐって町に入り込むと、すぐ何かが目に留まった。路地からそーっとこちらを覗き込んでいるあの人影は…子供だァー♡


5~6歳の少年達が4人、路地から顔を出してこっちをジーッと見つめてるぅ♡ めちゃ可愛いー♡ クギャが気になるのかなァ?


試しに手招いてみると、子供達は素直に寄って来てくれた。注目を集めているのはやはりクギャで、物珍しそうにちょっと離れた位置から見つめている。


「もっと近付いても大丈夫だよ~、クギャこの子は噛んだりしないからね~。触ってもいいんだよ~、ほらおいで~♡」


「カカ様…」


そう言うと子供達は恐る恐る歩み寄り、まだまだ小さなお手手でクギャの頭部をペタペタ。よほど興味があるのか、飽きることなく何度も触っている。


クギャはクギャで、下手な事をすれば私に処されると思ってか一切微動だにせずされるがままに徹している。利口な奴だ、偉いぞクギャ。


「ねえねえ、これおねえさんの?」


「そうだよ~、大人しくて良い子でしょ~。今は怪我しちゃって飛べないけど…元気になれば空も飛べるんだよ~」


「いいな~! ぼくもはんたーになったらなかまにするんだ~!」


「ぼくも~!」

「ぼくもっ!」


どうやら偽竜種レックスは大人だけでなく子供からの人気も凄まじいらしい。マジで凄ェのに懐かれたもんだな私は…。


これなら最悪飛空技師を辞めちゃっても、ハンターに転職すれば余裕で食っていけそうだ。まあ辞める気ないけど。


「ねェねェ君達、狩人商会ハンターギルドがどこにあるか知ってる? お姉さん達そこに行きたいんだけど、教えてくれるよって人~!」


「「「 はーいっ! 」」」


「子供の扱い上手いニねー…」


子供達の必死の説明を聞き、狩人商会ハンターギルドの大まかな場所が分かった。心を癒し、更には目的地まで特定する──私ってば有能で困るぜ。


子供達とバイバイして、早速教えてもらった通りに道を進む。あっち曲がってこっち曲がってそっちも曲がって…、何回か無駄に曲がった気もするが…まあいい。


最終的には無事到着することができた。これが狩人商会ハンターギルドか…、思えば入るのはこれが初めてだ。


調教商会テイマーギルドの時もそうだったが、初めて入るんだと意識すると変に緊張してしまう…。私は頬を叩いて気合いを入れ、扉を力強く開いた。



-イントレイス狩人商会ハンターギルド


大きな建物なだけあってロビーはとても立派。全体的に落ち着きのある照明、天井から掲げられたエンブレム付きの旗、中々良い雰囲気じゃないか。


だがそんなロビーには、これでもかと言うほどのハンター達が勢揃いしていた。扉を開けた途端集める視線…、うぐっ…怯みそう…。


しかし勇気を出して中に踏み込むと、1人のハンターがこっちに向かって来た。この空気感のせいで少し怖いが…、私は心を奮わせて向かい合った。


「おうおう姉ちゃん達! 生憎今ここは取り込み中でな、依頼なら後にしてくれ!」


「悪いが客で来たわけじゃねェんだ。アンタ達が魔物と戦おうとしてるって話を聞いてな、その件でアンタ等のリーダーと話がしたいんだ。通してくれるか?」


私がそう言うと、少し沈黙が流れた後…突然ハンター達は大笑いしだした。なんだコイツ等…気持ち悪ぃな…。それになんかムカつく…。


「何を言い出すのかと思えば…俺達のリーダーに会わせろォ? 一体何の為にだ? まさか俺達の作戦に参加したいって言うんじゃないだろうなァ?」


「ああそうだ、私達は参加したいわけじゃない…アンタ等のその作戦ってのに一言物言いに来たんだ…! 分かったらさっさとリーダーに会わせろ…!」


その一言で、たちまち空気が重苦しいものに変わった。さっきまで馬鹿笑いしてた連中の目つきが鋭くなり…目の前の男も険しい表情になっていく。


ムカついた? ムカついちゃったのかな? 女に言い返されてムカついてか今にも殴り掛かってきそうだ、別に構わないけど。


「よーし…3つ数えてやるっ! 3つ数え終える前にここから立ち去らねェと、その綺麗な顔に傷が付くことになる! 嫌ならさっさと出ていけっ!」


怒号を浴びせてきた男は、睨み付けながらゆっくり指を立てて数え始めた。1本…2本…、男はギュッと握り拳を固めた。


そして3本目の指を立てた瞬間、男は容赦なく右拳を顔面目掛けて振るってきた。っが事前予告もあり、〝音〟も聞こえたから余裕で躱せた。


躱しついでに素早く鳩尾みずおちに一撃叩き込み、おまけで脛に蹴りを入れると、男はよろよろとその場にうずくまった。


「綺麗な顔と褒めてくれたことに免じて、この程度で勘弁してやろう。だが躊躇なく女に手を出す精神は直した方がいいぞ? 絶対モテないから」


私は殴り掛かってきた男の背中をポンポン叩いてアドバイスまでくれてやった、私ってばいい女だぜまったく。


さて、今ので空気感がガラッと変わった。馬鹿笑いしてた連中の表情かおから余裕が消え、明らかに私を見る目がさっきと違う。


ちょっと手荒になっちまったが…これでようやくまともに話ができそうだ。この先は穏便に話が進めばいいが…。


「それで? リーダーは?」


「──俺がそうだ…」


その声の主は、集うハンター達の一番奥…テーブルの上に腰掛けている深緋こきあけの髪をした男。私とタメか少し上くらいの歳に見える。


他の連中とは違い、微塵も動揺していない。リーダーってのは嘘ではないらしいな…、相当強ェぞコイツ…。


「何か意見してェらしいが…簡潔に言ってくれ、俺達も暇じゃねェんだ」


「ああ分かった、なら率直に言わせてもらうよ。──魔物討伐を前提に私達と協力関係を結んでほしいんだ」


「却下だ、話は終わりだな、出ていけ」


大して聞かずに速攻で切り捨てやがった…、コイツ端からそのつもりだったな…。ウゼェ…嫌いだわコイツ…。


言われなくとも今すぐ出ていきたいが…、引き下がればコイツ等は全員確実に死ぬ…。ウゼェけど見殺しにはできねェ…、何とか首を縦に振らせないとな…。


「待て…! 勝算はあんのか…?! アンタ等全員魔物と戦ったことねェだろ…?! 経験してる立場から言わせてもらうが、現状アンタ等の勝機は0だ…!」


「だから…? テメェ等を仲間に引き込めば勝てると…? そんな戯言誰が信じる…? 寝言は寝て言うもんだぞアホ女…!」


「簡潔に言って理解できねェお粗末な脳みそしてんなら…初めっから詳細聞いとけよ無能マン…! リーダーが聞いて呆れるぜ…!」


ついいつもの癖で口撃を返してしまうと…周りの連中がざわつき始めた。穏便に話進めたいのにぃ…なんでこうなっちゃうかな…。


でも今から発言は取り消せないし…取り消したくないし…、うーん…どうしたものかな…。参った参った…。


「ストップストップ、一旦冷静なりなよ2人共。まったく…子供みたいに罵り合っちゃって…、冷静でなきゃ話し合いはできないぞ?〝アレス〟…オマエも少しくらい話を聞いてやれ…、重要な情報を持ってるかもしれないだろ?」


この苦しい空気感の中…助け舟のように口を開いたのはムカつく〝アレス〟とかいう男のそばに居た、黒と青のツートンカラーな髪が特徴的な男。


ウザアレス君とは違って物腰柔らかな印象だ。この人を挟めば円滑に話し合いが進むかもしれない…っと言うかそうするしかない…!


「っるせェな…コイツ等は女でしかも部外者だぞ…? 足手纏いは他の奴等にとって命取りの要因になる…! 協力関係なんざ死んでもごめんだ…!」


「オマエの言い分も分かるけどよ、さっきの見たろ? ありゃ素人にできる動きじゃねェ、きっと相当の手練れだぜあの姉ちゃん。俺達にしたって実力者は欲するところだろ? 話だけでも聞こうぜ? 追い返すのはその後でもいい」


「──勝手にしろ…」


「悪いね…ウチのリーダーは見ての通りの頑固者なんだ。話は俺が聞かせてもらうから、詳しく聞かせてもらえるかな?」


「もちろんだ、こっちとしても助かるよ」


ウザレス君は大きくため息をつくと、テーブルに肘を乗せて頬杖をついた。話が終わるまでずっとそうしててくれないかな…。


優男君は3つの椅子を用意して、ゆっくり話をする準備をしてくれた。私達を歓迎しない周囲の目線は気になるが、直に変わってくるだろう。


「それじゃ聞くけど、僕等と協力関係を築きたいのはどうして?」


「1つ、魔物討伐の成功確率を上げる為には、十分実力のある頭数が必要だから。2つ、一度ひとたび戦闘が始まれば周囲への被害は未知数…だからできる限り町から遠い場所に魔物を誘導したい、その手伝いをしてほしい。3つ、現状アンタ等だけじゃ…魔物には100%勝てないから」


2つ目は最悪断られてもいいが、1と3はとても重要だ。1は向こうにとっても重要な筈…、だからこそ3が交渉の鍵になる。


魔物に普通の攻撃は効かず、謎の短剣しか効かない…この情報をここの連中が持っているとは到底思えないし、同様の代物を持っているとも考えられない。


言うなれば短剣コレは切り札…! デタラメな魔物を切り裂くことのできる…知性生種ちせいせいしゅに残された唯一の対抗手段だ…!


「ふぅむ…1は僕等と同意見だけど…3はどういう意味だい? この場に居るハンター達じゃ歯が立たないってこと…?」


「そういう意味で言ったわけじゃない、アンタ等の力は魔物戦でさぞ輝くものだろう。ただそれだけじゃ足りない…、魔物相手に十分抵抗はできれど…倒すことはできない…。だが私達は倒す術を知っている…! だから協力して一緒に戦おうって話だ…!」


嘘は言っていない…、だが全てを明かすわけにもいかない…。この優男君が先導なら明かしてもいいが…問題はやはり…──


「──よく分かった…なら簡単な話だ、術を教えろ…! そしてテメェ等は帰れ…! それで下らない交渉は終わりだ…!」


そう言うと思ったよウザス君…、全てを明かさなくて本当に良かった…。不用意に情報を手渡していればどうなっていたか…、まったく怖い怖い…。


「もちろん教えてやってもいいが、それは私達と協力関係を結んだ後でだ…! これだけは譲れねェ…!」


「テメェの都合なんざ知った事かよ…! さっさと教えやがれクソアマ…!」


これはどれだけ言っても平行線だな…、何言ったって折れねェだろう…私含め…。こうなりゃ方法は1つだけだ…。


向こうが私達を…っと言うより女を頑なに拒絶してんのは、男尊女卑からくる勝手なイメージのせいだろう。女は男よりも弱い──そんな下らない妄想のな。


それなら方法は簡単だ、分からせてやればいい…目の前の女がただのか弱い乙女じゃねェと。守られるだけの存在じゃねェと。


幸いウザ君は私の話を聞いていないようでしっかり聞いている…。追い返そうとするくせに…対抗の術だけは聞き出そうとしている。


信憑性を確かめもせず情報を欲するのは…私が〝経験してる立場〟だからだろう。一見話の通じない猿みたいな奴だが…その実かなり冷静で慎重な男。


──これは直感だが…コイツはただ必死なだけだ…、どうにか私達を魔物危険から遠ざけようとしている。


それが男尊女卑からくる考えなのか…それとも単に女性を気遣うのが下手糞過ぎる不器用野郎だからなのかは知らんが、こちらにも意地がある…。


私はスッと席を立ち、アクアスに衝棍シンフォンを手渡して肩を回した。穏便に進めたいとは思っていたが…こっちの方が気が楽だ。


「立てよリーダー、どうせ話し合いじゃ何も進展しねェだろ? ならもうこれしかねェ! 拳で語り合おうってやつだ! やろうぜ喧嘩! 得意だろこういうのっ?! こいよ…お姉さんがいい子いい子してやっからよォ!!」


「──悪いが俺は女相手に加減できるほど紳士じゃねェ…傷物にしちまっても知らねェぞ…?! それでもいいならやってやるよ…! せいぜい俺の一人語りにならなきゃいいがな…!!」



──第99話〝ウザ〟〈終〉

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