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第93話 囚われの少年

「盗賊ルナール…?! 奪いに来ただと…?! 何を訳の分からないことを言ってやがる…! ふざけてんのか…!」


「ふざけてんのはどっちだ…!! 正しくあるべき憲兵を買収し…人を奴隷のように扱い…嗜虐的な見世物で己の利益を貪るゴミ共め…! 違法には違法…無法には無法だ…! いくぞ…!!」


私とニキは塀から飛び降り、剣を構えて接近してくる守衛に真っ正面から向かっていく。開幕はニキの一撃でと決めていたので、私は一歩後ろからついていく。


ニキは思いっきり前に飛び出すと、一番前を走っていた守衛の顔面に強烈なドロップキックをお見舞い。後ろの守衛達を巻き込んでぶっ飛んだ。


やりすぎレベルの威力を誇る先制攻撃に、守衛達は思わず動揺して体を硬直させた。その隙に守衛の1人に接近し、私も容赦なく攻撃を加える。


右拳を左頬に叩き込み、それと同時に左手で剣のガードを掴んで反撃を殺し、そのまま守衛を蹴り飛ばした。


とりあえず剣を入手、得意じゃないが素手よか良いだろう。かつて才能ナシと評された剣術だが…あれから幾度も死線を越えたし、多少は使える筈だ。


ジド兵長の剣捌きは何度も見てきた…要は見様見真似だ。記憶の中の動きを自分に投影する…そうすりゃ私でも上手く扱える筈…!


「〝鋒鋩斬ほうぼうぎり〟!!」


「ギャアアアアッ…?! ──あっ…あれ…? 切れて…ない…?」


「えっ? …?〝鋒鋩斬ほうぼうぎり〟!!」


「ギャアアアアッ…?! ──あっ…やっぱ切れてない…」


あれェ? おかしいな…完璧に動きを真似た筈なんだけどな…。私は刃先に指を当ててちょこっと引くと…ちゃんと切れた…。切れ味は問題ない…。


じゃあ何で…? 才能…? これが酷評された私の才能…? 剣使い達は皆スパスパ切ってるから…結構簡単だと思ってたんだけどなぁ…。


「うーん…──〝鋒鋩打ほうぼううち〟!!」


「ギャアアアアッ…?! 開き直ったァ…!!」


鋭利な鈍器を手に入れた私は、体術と併用して守衛を薙ぎ倒していく。コイツ等は剣こそ持っているが、その実力は実戦経験の無い素人そのもの。


しかも手の届かない塀の上から的確に矢が飛んでくるという圧倒的苦境…守衛が全滅するのに時間はかからなかった。


「思ったよりすんなり倒せましたね。中に侵入しますか?」


「いや、この騒ぎを聞きつけてもっと増援が来る筈だ、腐った憲兵共も来る。私が1人で潜り込むから、2人はここで増援を潰しといてくれ」


「承知致しました…!」

「…!」


ニキは親指を立ててグーのハンドサイン。ニキは語尾で正体がバレる危険がある為、乗り込んだら一言も喋るなと指示してある。


2人にこの場を任せて、私は正面入口から内部へと侵入した。内部は一切灯りが無く、月明りもほとんど差し込まない為とても暗い。


目が慣れるまで物陰に身を潜めていると、奥の方から複数の足音が近付いて来た。恐らくは増援…そのままジッとしていると、足音は外へと消えていった。


徐々に目が慣れ、周囲が夜目にもくっきり見えてきた。どれだけ奴隷が居るか分からないが…大勢を隠しておくのなら…恐らくは地下だろうか…。


下り階段を探して行動再会、他の守衛に気を付けて建物内を探索する。かなり大きな建物だし…探索箇所は多そうだ…。


ステージのそばにあった鉄格子のゲート、あの奥には確実に奴隷達が居る筈だが…私の剣術じゃ破壊は難しそうだ…。


必ず別ルートが存在する筈だけど…骨が折れそうだぜ…。こんな時アクアスの能力チカラが使えれば楽なのに…私の能力チカラときたらホント…。


良くも悪くも特化というか…マジで応用効かねェな…。できる限り隠密に済ませたいのに…守衛に見つかってから本領発揮するんよな…。


自分の能力チカラに愚痴をこぼしながら、幾つかの部屋を探して回った。途中武器を保管してる部屋を見つけ、よりカッコいい剣にチェンジした。


試し斬りしてみたい気持ちをグッと抑えて探索を続けると、ついに地下へと続く階段を発見。ランタンの明かりがついているし…絶対にこの先だ。


気持ちを整え…慎重に階段を下っていく…。いつ隠れ忍んだ守衛が斬りかかってくるか分からないからな…、まあそんな時ほど能力チカラが活きるんだけど…。


階段を下りきると、その先には薄暗い通路が続いていた。所々苔むした石レンガ…ひびが入って光が弱くなった灯源鉱とうげんこうランタン…、薄っすら不気味だ…。


アクアスが怖がりそうな雰囲気の通路を進んで行くと…予想通りそこにはお目当てのものがあった…。


突き当たりから左右に通路が続いており…その通路の左右には牢屋が設けられていた…。苔むした通路とは違い…鉄格子はよく手入れされている。


中をこっそり覗いてみると…硬そうな2段ベットが2つ置かれおり、そこで囚われている人達が静かに寝息を立てて眠っている。


そんな牢屋がいくつもある…奴隷として虐げられている人達は想像の倍ほど居るみたいだ…。今全員を解放することはできるかもしれないが…全員を守りながら逃げ切れる保障はない…。


胸が痛むが…今はあの子を助け出すことだけに集中しよう…。直に兵士達が駆けつける…そうすれば全員助かる…。苦しみも今夜で終わりだ…。


私は超能疾患クァーツの子供を捜し通路を進むが…牢屋が隣接した通路はまるで迷路のようになっており、奥へ進むごとに方角が分からなくなる…。


とりあえず直感で適当に進んでいるが…一度通ったような気がしないでもない…。マズいぞマズいぞ…時間をかけるほどアイツ等の負担が大きくなっちまう…。


焦燥感を募らせながら捜索を続けていると…通路が左右に分かれる突き当りの壁に、他とは違う牢屋があるのを発見した。


もしやと思い牢屋に近付くと…そこにはあの時見たあの子が寝ていた。他の人達とは異なり…1人で隔離されていた…。


この独房には硬そうなベッドすらもなく…ボロ布1枚だけを被って冷たい床の上で眠っている…。


可哀想に…今すぐにでも助け出してあげよう…。流石に扉には鍵が掛かっているが…ニキが持たせてくれた鍵開け道具の出番だ…!


えーっとォ…? どれ使えばいいんだ…? 何かそれっぽいツールが何本もあるけど…これ全部使えばいいのか…? 順序とかあるのかな…?


とりあえず適当に突っ込んでグリグリしてみるが…手応えは何もない…。焦燥感がまた募ってきた…どうしようどうしよう…。


──しょうがない…絶対に正しくないけど強引に突破しよう…。一番太くて頑丈そうなツールを鍵穴に突っ込み、私は助走をつけて蹴りつけた。


大きな音と共にツールは壊れてしまったが…鍵穴も同様に破壊でき、扉は半開きの状態になった。


ゆっくり扉を開けると、さっきの音で起きてしまったあの子が布を抱きしめて怯えていた…。涙を浮かべて今にも泣き出しそうだ…。


「ああっ泣かないで…! 私は怖い人じゃないよ…! 君を助けに来たギリ善良なお姉さんだよ~…!」


私は小さく両手を上げて、敵ではないことを必死にアピールした。それでもこの子は怯えたまま…よっぽど心に傷を負っていると見える…。


「──オイっ! こっちの方から音がしたぞっ!」


「ヤベ…!? えっと…ボク、ちょっとここで待っててね…? すぐに戻るから大人しくここで待ってるんだよ…?」


優しく喋りかけ、私は独房を離れた。声は通路の先の曲がり角付近から聞こえた…、足音も聞こえる…近くに居る…!


私は曲がり角のところでしゃがみ、敵が来るのを待ち構える。やがて2人の守衛が曲がり角に差し掛かり、私と目が合った。


「〝鋒鋩斬ほうぼうぎり〟!!」


「うわああああっ…?!!」


ぎょっとして体が固まった守衛に先制攻撃、強烈な斬り上げが胴にヒット。残念ながら切れなかったが…鈍器の一撃としては十分な威力。


よろついて背中から倒れ、もう1人の守衛の意識が一瞬そこに流れた隙をつき、回し蹴りを下顎にクリーンヒットさせた。


傀儡師かいらいしを失った人形のように力なく地に伏し、私はまだ意識のあるもう1人に馬乗りになった。


しっかり両脚で守衛の両腕を押さえ、気絶するまでフルボッコにした。気の毒だね、でも自業自得だしね、仕方ないね。


どっちも気絶しているのを確認し、私は急いで独房へと引き返す。


「ごめんねボク…待たせちゃ──居ない…!? えっどこ行っちゃったの…!? ボクー?! 返事してボクー!」


返事はない…連れ去られた…!? それとも1人で逃げ出しちゃった…!? まだ守衛が居るかもしれないのに…あまりに危険過ぎる…!


牢から見て正面の通路はさっき私が居た…流石に見逃してはいない筈…。っとなれば左右のどっちか…どっち行ったんだ…!? クソ…扉閉めておけばよかった…。


いや考えろ…あの子の立場になって考えるんだ…。扉は外開き…中からだと左の通路を塞ぐようになっているから…、自然と右に行くんじゃないか…?


1人で逃げ出しちゃうほど精神的に余裕がない子供だ…わざわざ扉の裏に回って左側に行くか…? 行くかもな…! 分かんねェよもう…!


とりあえず予想通りであってほしい願いを込めて、私は右の通路を選択した。早く見つけ出さなきゃ…守衛に見つかってしまう前に…。


「──うおっ…!? オイ待てこのガキ…! いつの間に牢屋から出やがった…! 薄汚ねェ悪魔の使いめ…!」


遅かった…今進んでる通路の奥から、恐らくあの子を捕らえたであろう守衛の声がする…。マズいな…人質にされたんじゃ手が出せない…。


言葉で…虚勢とハッタリで切り抜けるしかねェ…。あんまり気は進まないが…超能疾患クァーツであることを利用するしかねェ…。


「オイそこの守衛…!」


「な…なんだテメェは…!? 表で暴れてる奴等の仲間か…?! よ…寄るんじゃねェぞ…! 寄ればこのガキの命は無ェ…!」


やっぱり人質にしてきたか…。守衛の数は3人…ゴリ押しは不可能…、どうにかあの子が人質として価値が無いと思わせないとだ…。


「その子供が何だ…? 知っているぞ…超能疾患クァーツだろう…? 悪魔の使いと呼ばれるその子供の命が…何なんだ…?」


「くっ…! テメェ等…! 何が目的だ…?! 何の為にこんな襲撃を…?!」


よしよし…あの子に向いていた剣が私に向いた。まだ安心はできないけど…このまま圧し続ければあの子に気を掛ける余裕もなくなる。


「何の為…? 地下ここに広がるいくつもの牢屋を見てもまだ分からないのか…? 余程お頭が足りてないと見えるな」


「奴隷が狙い…? ──まさか…テメェ等…〝イルガド〟か…!?」


「イル…──その通りだと言ったら…?」


聞いたことのない単語が出てきたが…明らかに3人は動揺し始めた。テメェで〝イルガド〟…何かの集団か組織かな…?


悪事に手を染めるゴミ共が恐れおののく組織か…よしよし…。


「直に私の仲間達がここを包囲するだろう…。そうなればオマエ達は全員終わりだ…、それが嫌なら今すぐ…──」


「うわあああっ…! 許してくれェ…! 俺達はただ雇われただけなんだァ…!!」


私の言葉を遮って…守衛共は剣も放り捨てて一目散に逃げ出した…。めっちゃハッタリ効くやん…バカな奴等だぜ。


しかし何なんだイルガドって…? 大の大人がかなり怯えていたが…そんだけヤバい組織ってことなのか…? うーん…関わらないようにしよう…。


「ボク、もう大丈夫だからね。怖がらなくても大丈──ってちょっと待ってよォ…?! 待ってってばァ…!」


優しく歩み寄ろうとするも…あの子は突然走り出してしまった…。言葉を掛けるも…一切振り返ることなく一目散に通路を駆ける…。


急いで後を追うが…右に左に逃げるもんだから中々追いつけん…。子供らしさ全開のすばしっこい動き…可愛いぜ…。


見失わないよう必死に追いかけると、あの子は曲がり角の先にあった階段を上がっていった。私がここに来た時の階段とは別のやつ。


1段飛ばしで駆け上がると、その先にはあの鉄格子のゲートがあった。ゲートは閉じている為、行き止まりになっている。


あの子はどうにかゲートを持ち上げようとしているが…流石にびくともしない。やがて諦め…ゲートに背をつけて泣き出してしまった…。


何とか安心させて泣き止ませないと…逃げ出すどころじゃない…。私は周囲をよく見渡し、誰も居ないのを確認して仮面を外した。


私はそっと近付き、優しく抱きしめて頭をなでなでする。しばらくそうしてると、気持ちが落ち着いてきたのか…泣き声が止んだ。


「大丈夫…? 落ち着いた…? お姉さんは怖い人じゃないんだよ~、君を助けに来た優しいお姉さんなんだよ~。怖がらなくても大丈夫、酷い事はしないよ~」


「 “スンッ…” ──ほんとぉ…?」


ようやく口を利いてくれた…、顔を見て安心したのかな? 確かにこの仮面ちょっとデザイン不気味だもんね…、後でニキに文句言うか…。


「本当だよ~、代わりになでなでしてあげようね~♡ 君名前は何て言うの?」


「ぼくぅ…?〝アノン〟…」


「アノン君かぁ、カッコいい名前だね…! それじゃあアノン君、お姉さんのことを信じてくれるかな…?」


私の問いに、アノン君はこくりと頷いてくれた。私は指でアノン君の涙を拭ってから、仮面を着け直して立ち上がった。


さてさて、私が来た時のルートを引き返してもいいが…このゲートを開けて出た方が早いんだよな…。やれるかな…?


一応ゲートを開ける為の仕掛けはある。このハンドルを回して縄を巻き取っていけば、恐らくゲートが上がっていく筈だが…。


試しにやってみたが…重いねェこれねェ…。大きさ的に絶対1人で回すやつじゃねェ…、どうせこれも奴隷達に回させてたんだろうな外道共は…。


「ふぐぐ…! ぐぎぎ…! ガァァァ…! ダメかぁ…──んっ?」


「うー…! うー…!」


アノン君が突然私の右脚を掴んだかと思えば、必死に右脚を引っ張り始めた。可愛いー♡ 手伝ってくれてるのかなぁ? 全然意味ないけど健気だね~♡


この可愛さでむしろ力が抜けてしまった…ショートカットは諦めよう…。壁を伝って歩けばそのうち出口に着くし…それで地道に外へ出よう。


「カカー! そんなとこで何してるニー?」


諦めて階段を下りようとすると、後ろからニキの声が聞こえた。向こうからこっちに走って来る…外はもう大丈夫なのか…?


「オマエ…作戦終了までは一言も喋るなって言っただろ…? 名前で呼ぶのも禁止だと言った筈だが…?」


「もう敵は居ないから大丈夫ニよ、気絶して倒れてる守衛以外は突然全員逃げ出しちゃったからニ。何か「イルガドが~」っとか叫んでたニ」


さっきの3人組だなきっと…、イルガドが何なのか問いただしたかったが…障害が消えたのは儲けもんだな。


しかし急がないといけない状況には変わりない…急いで元来た道を引き返さねば…。──いや…? もしかしたらコイツなら…。


「なあニキ…このゲート持ち上げられるか…?」


「これニ? ほいっとニ!」


力技でゲートが開き、私はアノン君を抱っこしながらゲートをくぐる。まるで空の木箱のように軽々と持ち上げやがった…、こっっわコイツ…。


そんなニキが怖かったのか…落ち着いていたアノン君がまたガタガタ震えだした…。私はギュッと抱きしめ、背中を優しくポンポン叩いた。


ひとまずこれで私達の目的は1つ果たした。後は兵士達に任せて、私達はさっさとこの場から立ち去ろう。


でないと襲撃犯として私達まで捕まってしまう…。捕まったらアノン君の安全を保障できない…絶対に捕まるわけにはいかない…。


私達は足早に外へと出て、万が一に備えて塀の上で周囲を警戒していたアクアスを拾って建物を後にした。


「カカ様、無事で何よりです」


「オマエ等もな、目立った怪我もなさそうで良かったよ。──アノン君、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ? この人達も怖い人じゃないよ」


そう言っても、アノン君は相変わらず怯えたままで…私のローブを強く握り締めている。やっぱり仮面が怖いのかな…?


周囲には誰も居ないし、2人の顔も見せて安心させてあげよう。ずっと怯えたままでいさせるのも忍びない…。


「オマエ等、この子に仮面外して顔見せてやってくれ、きっと安心するから」


「分かったニ! よいしょ…どうニ?!」


「やぁぁぁ…」


「仮面外しても目がないから怖いとよ…」

「ニュイー…」


ニキはてんでダメだったが…アクアスとは目を合わせることができた。残念がるニキだったが…それでもフードは脱がないらしい…。


「…っ! カカ様あれを…!」


「おっと…思ったより早ェな…」


アクアスが指を差す方向には、夜の闇に浮かぶ飛空艇の明かり──国軍様のお出ましだ。来てくれると信じてたぜ。


だが国軍艇はもうすぐ発着場へと着いてしまう…。できればアノン君は兵士達の目に入れずに保護したい…私の飛空艇に匿いたい…。


追手がいないから使うつもりはなかったが…仕方がないな…。アノン君はまた怯えてしまうだろうが…我慢してもらおう…。


「 “ピィィィ!” 」


「── “クギャー!” 」


指笛を鳴らし、事前に待機させていたクギャを呼んだ。本当は足止め要員として待機させていたが、まさかこんな使い道になるとはな…。


「アクアス、アノン君を連れて先に飛空艇へ戻れ…! クギャの脚なら、国軍艇が着くより早く飛空艇に着ける筈だ…!」


「かしこまりました…!」


アノン君をアクアスに移し、アクアスはクギャに跨った。アノン君はやはりガクガクブルブル…、可哀想だけど我慢しててね…。


クギャは2人を乗せて猛ダッシュし、私とニキは兵士達に見つからないよう遠回りして飛空艇へと戻ることにした。







「──ただいまぁ…、何とか見つからずに帰って来れたぜ…」


「神経使ったニ…、襲撃より疲れたニ…」


「おかえりなさいませカカ様、ニキ様」


路地に身を隠したり…壁のフリをしたり…、何度見つかりそうになったことか…。無事に飛空艇へ辿り着いた時の喜びときたらもう…。


マジで疲れた…、ニキの言う通り襲撃作戦よりもだいぶ疲れた…精神削れた…。だが囚われている人達は全員保護されるだろう…これで一安心だ…。


「あれ…? アノン君はどこ行った…?」


「カカ様、こちらに」


アクアスは微笑みながらソファーに目線を落とした。私とニキはそっとソファーに近付き、背もたれからひょこっと顔を覗かせた。


そこにはうつ伏せでスヤスヤ眠りについているアノン君の姿が。先にお風呂に入れてあげようと思っていたけど、この寝顔を前にしたら起こせないな…。


一体どれほどの期間…あの硬い床で寝ていたのかは分からない…。けど今の穏やかな寝顔かおを見るに…久々に安眠を堪能してくれているのだろう…。


私はそっと手を伸ばして…優しく頭を撫でた…。騒がしい夜になってしまったが…、この寝顔が見れたのなら…頑張った甲斐はあったな…。


「おやすみ…アノン君…」



──第93話 囚われの少年〈終〉

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