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「無事到着~! おーっし、そしたら適当に飯食ってアイリス女王に報告しに行くかー。ほら起きやがれ紫頭巾!」
ソファーでスヤスヤと気持ちよさそうに眠るニキを叩き起こし、私達は飛空艇から降り立った。空は快晴で日差しは降り注いでいるが、まるで暑く感じない。
長く砂漠に居て感覚ぶっ壊れちゃったか…地面に寝転がりたいほど気持ちが良い。そよそよと吹き抜ける風も涼しくて心地良い。
「おーうっ、見覚えのある飛空艇だと思ったが、アンタ等だったか。どこに行ってたのか知らんが、観光は楽しかったかい?」
「ええまあ、色々ありましたけど良い思い出はできましたよ」
気さくに話し掛けてきたのは、以前ここへ来た時にも声を掛けてきた空艇整備士のお兄さん。手には何やら安っぽい槍を抱えている。
空艇整備士には必要ない代物な筈だが…何に使うのだろうか? まあ
「アンタ等ちょっと離れてなよ、飛行中にうっかり乗せて来ちまったみたいだな。今は大人しくしてるが、いつ襲ってくるか分かんないからなぁ」
うっかり乗せて来た? 今は大人しくしてる? 何を言ってるのかさっぱり分からないが、お兄さんは私の飛空艇を見上げて槍を構えている。
離陸も着陸もちゃんと護煙筒は焚いたから…魔獣が寄ってきたりはしてない筈なんだけどな…。危険な鳥類もたかが知れてるし…一体何を警戒してんだ…?
「やけに大人しいな…あの〝
「 “クギャッ!” 」
「ハァァァァァァァ…!!? えっはァ…!? 何で乗ってんだオマエ…!?」
ひょこっと顔を覗かせたのは、なんとまさかのクギャ。向こうでバイバイした筈のクギャが…何故かさも当然かのように飛空艇に乗っている…。
えっいつから…!? だって離陸する時はベジル達と一緒に居ったやん…?! 翼膜ボロボロで飛ぶこともできないのに…──イリュージョン…?
「何だい? アンタ等の見知った
そう言ってお兄さんは小走りで行ってしまった。そんなことはどうでもいい…!
私達は一度下りた梯子を再び上り、クギャのもとへ駆け寄った。翼膜はボロボロ…
「オマエどうやって乗った…?! 飛べない筈だろ…!?」
「カカ様…! クギャ様の足の指に何か紙のようなものが…!」
「何ィ…?! まさか…」
指に結ばれていた紙をほどき、中を確認してみると…それは手紙だった。
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クギャの主 カカへ
この手紙を読んでいるということは さぞ驚いた後でしょう(笑)
実は昨日退院した後、私のファン達にお願いしてサプライズを用意してたのだ! カカがクギャを想って本気で泣いたの知ってるからね☆
カカ達が飛空艇に乗り込んだあと、怪力自慢の男達の協力でクギャを甲板に押し上げて、代わりに精巧な偽物を置いといたのだ!
なんかね、中に人が入れる構造になってて、ある程度自由に動かせるんだって。凄いよね職人の業、私も初めて見た時ビックリしちゃったよ。
あっそうだ一応有識者の人に聞いたんだけど、偽竜種って適応力が凄いらしいから、割とどこの環境でも生きれるんだって。やったね (〇 ▽ 〇 )/♪
まあそんなわけなので、ご自分の舎弟はご自分でお世話してください。
PS. クギャの返品は受け付けないけど、アクちゃんはいつでも送ってどうぞ☆
超絶気の利く人気No.1踊り子 リーナちゃんより♡
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「あの小娘ェ…! クソッ…仕組まれたか…!」
「確認するけど別に悪い事じゃないニよ…?」
あの街の住民達を侮っていた…まさか私の為だけにここまでしてくるとは…。飛空艇から見えたあのクギャが偽物だったァ…?! 本人に見えましたけどォ…?!
世界渡れるよあの技術…! 曲芸師向いてるね…?!
冗談はさておき…本当に大丈夫なのか…? どこの環境でも生きられるとか書いてあるけど…仮にも灼熱の砂漠出身だぞ…?
私達が涼しく感じるくらいだし…チョー寒いんじゃないか今…。明日には凍え死んでるんじゃなかろうか…。
「オマエ本当に大丈夫か…? 毛布いるか…?」
「 “ギィ?” 」
首を傾げるクギャの反応を見るに、本当に平気そうだ。スゲーな
「どうされますかカカ様?」
「どうするったってなぁ…。砂漠まで送り届けるのも面倒だし…そもそも返品不可って書かれてるし…仕方ねェな…。──私達と一緒に来るか?」
「 “クギャーー♪” 」
< カカのペット〝
驚きが勝っていたが、またこうして一緒に居られるのは素直に嬉しいことだ。たっぷり愛でてやるからな…フフフッ…。
ただそうなると一層環境問題が心配だな…、アイリス女王に報告しに行った帰りにでも
「んじゃこの件は終わったってことで、予定通り城に行くぞ。クギャは留守番だ、甲板から出ずに大人しく待ってるんだぞ」
クギャを飛空艇に残し、私達はアイリス女王のもとへと向かった──。
─ ウーラノス城 4F 女王の寝室 ─
城へと赴いた私達は、ロダン兵長の案内でアイリス女王の寝室に通された。玉座の間をスルーしていきなりの寝室…いいのだろうか…。
緊張しながら待っていると…侍女と共にアイリス女王が入ってきた。高まる緊張を淹れて貰った紅茶で落ち着かせ、砂漠でのあらましを話した。
「──っといった流れで、サザメーラ大砂漠に巣食う魔物は跡形も残らず塵となって消えました。サザメーラ大砂漠はもう安全です」
「なるほどのぉ、話を聞く限り…魔物を討つまでに想像を絶する苦労があったと見えるの…。何と礼を申せばよいものか…、とても言葉では言い表せぬ…」
そう言ってアイリス女王は感謝の言葉を添えて深々と私達に頭を下げてきた。それを見て私達はあわあわ…どうにか頭を上げてもらおうとテンパった…。
どうすればいいか考えた結果…私はベジル達の報酬の件を切り出した。これなら言葉に表せなくとも、目に見える形で礼を示せる。我ながらナイスアイデア。
ひとまず分かり易いベジルの報酬をお願いした。魔物討伐貢献の報酬金はいくらが妥当なのか見当も付かないが…とりあえず大金と言っておいた…。
「相分かった。この国の為に戦った者は誰であれ英雄じゃ、活躍に相応しい額を用意しよう。してもう1人の踊り子は何を欲しておる? やはり金か?」
リーナ…うーん…ぶっちゃけアイツ結構稼いでるっぽいからなぁ…。いくらあっても腐らぬ物ではあるが…どうせなら最大限喜ばれるものがいいよな…。
アイツは何でもいいって言ってたが…何か欲しがってる物はなかったっけ…? アイツとのやり取りを必死に思い返して、何かないかを考える…。
──ダメだ分からん…。アクアスを欲しがってたけど却下だし…それを除くとマジで浮かばない…。やっぱ金が無難か…?
“あ~やっぱりメイドさんっていいなぁ♡ 恰好から立ち姿まで全部可愛い~♡”
“メイドさんが淹れたお茶を飲めるなんて夢みたいだよ~♡”
ふっと脳裏によぎったのはリーナと初めて会った日の思い出。これは天啓…! 思いついたぜリーナが最も喜びそうな報酬…!
「アイリス女王、リーナへの報酬ですが…メイドを1人派遣してはもらえないでしょうか? できれば砂漠でも問題なくて…できるだけ愛想のいいメイドを…」
「メイドを? 砂漠でも問題ない愛想のいいメイドか……、中々居らんとは思うが…相分かった…必ずや手配しよう…」
無理言ってしまったが…アイリス女王は何とか許諾してくれた…。文句はリーナに言ってください…あのエキセントリックなメイド狂いに…。
「それで其方等は何を欲す?」
「えっ? ああ~…そうですねー…」
全っ然考えてなかったぁ…、ぶっちゃけまだ要らないんだよなぁ…。お金貰ったとしても…まだ5体も魔物が残ってるから依然お先真っ暗なのよね…。
いつ死ぬか分からない状況下だし…、まあ最低限の額だけ貰えればそれで十分だ。その旨を伝えると、女王は「夢が無いのー…」っと言いながら許諾してくれた。
それでも1人あたり10万Rくれるそうだ、太っ腹だね。使う当てがあんまり無いのが残念だけど…、積荷山程貰ったから…。
その後少し女王と雑談していると、いつの間にか居なくなっていた侍女が袋を3つ持って部屋に入ってきた。
中には1万オルド硬貨がぎっしり…なんて神々しい景色なんだ…! スゲー…これが億万長者の見る景色か…。
「そしたらば──まずこの前借りてた8000Rと、今月の給料を合わせまして…締めて3万8000Rをアクアスの袋にドーンッ!!」
「わわわっ…?! 別に大丈夫ですよカカ様…! せっかく女王陛下から頂いた報酬金なのですから…全てカカ様が使ってください…! お返しドーンッ!」
「おわっバカタレ…! 多めにリバースしてくんなよ…! 数分かんなくなるだろうが…! えっとー…オマエいくら入れた今…? ちょっと全部数えてみ…?」
「何をしとるんじゃ其方等は…」
アイリス女王との対談を終え、私達は城を後にした。ひとまずレヴルイスでの用は済んだので、後はもうファスロに帰還するだけなのだが…クギャ関連で
ファスロにもあるとは思うが…街の復旧に忙しい現状じゃ満足に対応してもらえない可能性もあるし、ここで済ませた方が早そうだ。
「私ちょっと
「かしこまりました、お任せください」
城前で2人と別れ、私は1人
ハンターでもない限り大して利用する施設じゃないし、ペット飼いたいとかも今まで思った事なかったもんな。
ついでだし子犬とか子猫とかいたら、買わないけどちょっと眺めて癒されようかな。生き物は小さければ小さいほど可愛いからな、子供も一緒。
そんなことを色々考えながら、地図を頼りに大通りを進む。母親と手を繋いで楽しそうに喋っている子供を眺めながら歩いていると、あっという間に着いた。
かなりデカい建物だったから気付けたが…危うく通り過ぎて家まで付いて行ってしまうところだった…。危ねェ危ねェ…。
─ ファラット
ちょこっと緊張しながら中に入ると、その広いロビーに驚いた。こんなにロビーが広い
奥の方には別の部屋に続くゲートがあり、そこから生き物の鳴き声が聞こえてくる。ゲートの前には
辺りを見渡すと、やはりガチガチの装備に身を包んだハンター達がいっぱい居る。ちらほら一般客の姿もあるが、8割以上ハンターが占めている。
受付に向かって歩くと、
「いらっしゃーせー、ご用件は何でしょうー? 使役獣・ペットのご購入ですかー? 調教依頼ですかー? それとも使役獣の登録申請ですかー? もし登録申請の場合はあちらにある窓口の方からの対応に──」
「ちょちょっ…長い長い…、用件を話させて…。最近砂漠の方で
「
何だか説明が長くなりそうだったので途中で止めた…。概ね手紙通りだったが、火山地帯や凍土地帯でも大丈夫なんだ…見た目爬虫類に近いのに…。
「ところでその
「あっそうなんですか…? まだ登録してないんですけど…今日中にできます…?」
「あまり混んでいないので大丈夫だと思いますよー。登録申請はあちらの窓口からになりますので、お忘れずに登録なさってくださいー」
席を立って受付嬢が指し示した窓口に行こうとしたが、既に全て埋まっていた。幸い並んでいる人は居ないし、比較的すぐに登録できそうだ。
座って静かに番を待っててもいいが、せっかくだしどんな生き物が居るのかをゲートの外から眺めることにした。
ゲートの向こうは思った通りの広い空間があり、沢山の生き物がそこに居た。子犬や子猫も居るし、蝙蝠に兎に鹿と種類も豊富。
そんな中で一際ハンター達の注目の的になっているのは、クギャとは別種の
首に値札が掛けられているが…角度的に見えないな…。こっち向いてくれないかな…、あっ向いた…! どれどれ…──8万R…!!?
エェェェェェェ…!!? そんな高いんか
あまりの値段に頭が痛くなってきた…私とんでもない生物に懐かれたんだな…。大事にしよ…価値云々関係なく…。
その後無事に登録を済ませ、クギャは正真正銘私の使役獣兼ペットになりました。赤い首輪を買い、飛空艇へと戻る道中…しばらく頭の中にはあの値札のことが浮かんでいた…。
──第90話 小娘の一計〈終〉