魔物を倒す方法は至ってシンプルだ。1.背に乗る 2.鱗破壊 3.トドメ この3つの段階を踏めば、この理不尽極まる戦いは今すぐ終えられる。
っが言うは易く行うは難し…1と2の難しさが半端じゃなく…結果的に3も超高難度に化けている…。
2さえなければ…さっきの一撃でケリをつけれたのに…。おかげさまで全身死にかけ…立つのがやっとなぐらいだ…。
最低限動けるようになるまではもう少しかかるだろうか…。急いでくれ私の体…皆に伝えなきゃならねェんだ…、水晶体を守る鱗のことを…。
恐らくニキの怪力でも無理なんだ…。鱗は何とかなっても…水晶体までは届かない…、最低でも2人…魔物の背に乗らなきゃならない…。
片方が鱗を何とかして…もう片方が即座に短剣を突き刺す…。──自分で言ってて気が遠くなるようだ…それがどれだけ難しいことか…。
鱗をどうにかできるのはニキの怪力くらいだが…2人を背まで飛ばすにはニキの力が必要だ…。つまり…ニキの怪力以外で鱗を破壊する手段が要る…。
その答えに辿り着かなければ…私達は一生勝てない…。考えるんだ方法を…見つけ出すんだ手段を…、皆の命が燃え尽きる前に…。
「アクアス…私はもう大丈夫だ…、オマエはサポートに戻ってくれ…」
「ですが…──承知致しました…!」
アクアスを役割に戻し、私は屈伸して体を痛みに慣らす。まだまだ「動くな危険」のスレスレだが…静かに傍観ってのは性に合わねェ…。
私はまず代わりに前線へ出てくれているリーナのもとへ行き、手短に情報を伝えた。そしてそれをニキとも共有するようにと指示を出した。
リーナはすぐにニキのもとへと駆け出し、私は魔物の動きを注視しながらベジルへの接近を試みる。
「 “グゥロロロォ!!” 」
「〝
「〝
戦いは更に激化しており、魔物は一層攻撃性が増している。ニキとベジルも負けじと反撃を繰り返しているが…やはり形勢は一方的に不利…。
予想以上に猶予はなさそうだ…、誰かが欠ける前に早いところ突破口を見つけねェと…そこからどんどん崩されちまう…。
素早くベジルと情報共有したいが…ぶつかり合いが激しすぎてそれどころじゃねェ…。私も参加したいが…まだそこまで回復できてない…。
今激しく動いたら絶対吐血する…内臓すらも出る勢いで血反吐巻き散らしかねん…。いつでも死ねるぜェ…。
「〝
「 “グゥルゥ…!!?” 」
アクアスの
「おうっ飛空技師、生きてたか。背中で何があった…?!」
「今から説明する…手短に言うからよく聞いてくれ…!」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「なるほどな…ようするに現状俺達の勝機は限りなく少ねェってわけだ…」
「違ェねー…一周回って面白くなってきただろ…? この絶望的状況から生還して飲む酒はさぞ格別だろうよ…!」
「そりゃあいい…ならまだ希望は捨てずに持っておくとするぜ…。魔物討伐の策…オマエに託すぞ…!」
情報共有を終え、ベジルは大剣を担いで再度魔物へと走る。私もさっきより回復したし、足手まといにならない程度に加勢する。
氷が溶けて視界が戻った魔物は、接近するベジルに見向きもせず、向きを変えて猛進を始めた。狙いはアクアス…
私達も後を追うが…足では当たり前に追いつけない…。魔物は大口を開け、丸吞みにする勢いでどんどん距離を詰めていく…。
だがそんな魔物をリーナは背後から追い越し、アクアスを抱えてその場から離れた。力強く閉じる口から間一髪逃れた2人は、方向を変えてこっちに来る。
そのまま逃げるリーナと入れ違うように前衛組が前に出て、振り返る魔物と向かい合う。これなら私達を無視して2人を追えまい。
ニキとベジルを軸に据えつつ、私はサブとして2人の手助けをしながら討伐の策を考える。頭がパンクしそうだが…それでもやらねばならない…。
「…っ?! また潜る気ニ…!!」
魔物は前脚で砂を掘り、みるみるうちに砂中へ潜っていく。そこまでしてアクアスを仕留めたいのか…それとも他の狙いがあるのか…。
リーナと一緒に居ればひとまずアクアスは大丈夫だろうし…何をしてきてもある程度対応がしやすい窪地中央に向かう。
“ズボォ!!”
四方を囲う砂壁…、比較的近い距離で走っている私達の左側から顔だけ覗かせた魔物は…口を開けて
今私達はほぼ横一列…3人一遍に仕留める腹積もりだ…。潜ってすぐに溜めを始めたからか…すでに光は強い輝きを発している…。
マズい…まだ俊敏に動けるだけの回復が間に合ってない…──避けれない…。
「…っ! オラァ!!」
「うおおおっ…!?」
突然首根っこを掴まれ、次の瞬間に私の体は後方に投げ飛ばされた。私の隣にはベジルが居た…私を投げたのもきっとベジルだ…。
その直後…私の目の前を衝撃ブレスが通った…。そばに居るだけで衝撃の余波が肌を叩いてくるが…そんなことはどうでもよかった…。
衝撃ブレスが通り過ぎて軽く抉れた砂地の上に…倒れ込んだベジルの姿があった…。辛うじて意識はあるみたいだが…やはり大量に吐血している…。
「ベジル…!!」
ニキは何とかブレスを避けれたらしく、急いでベジルのもとへと駆け寄った。クソッ…案の定私が足を引っ張った…、私を庇ったせいでベジルがやられた…。
魔物の方に目をやると…魔物はベジルが倒れたのを確認して、再び砂の中に消えた…。まだ攻撃は終わっていない…悔やんでいる暇もない…
「ニキ…! いつでもベジルを担いで動ける用意をしとけ…! 周囲の警戒もだ…!」
「了解ニ…!」
ベジルのことはニキに託し、私は2人から距離を取った。今みたいにまとめて攻撃されたんじゃ堪ったもんじゃない…最悪3人まとめて砂地に伏せていた…。
誰か1人倒れるにつき…更に誰か1人が応急処置に割かれることになる…。同時にやられればそれだけ一塊になる危険がある…、それだけは避けねェと…。
“ズドーーンッ!!”
「今度はあっちか…!」
魔物が次に狙ったのはアクアスとリーナ。勢いよく砂から飛び出し、2人を踏み潰さんとしている。
しかしまだリーナはアクアスのことを抱きかかえており、その走力で余裕を持って2人は魔物の攻撃から逃れた。
“──キーン…”
微かに頭の中に響いた〝音〟…、それで気付く…私達の位置関係…。アクアス達は今…魔物と私を結んだ対角線上に居る…。
そんな私に危機の〝音〟…それは明らかに私を狙ってのものじゃない…。衝撃ブレスではないが…もう一つ遠距離攻撃を魔物は持ってる…!
「リーナ! 離れろォ…!!」
「 “グゥロロァ!!” 」
私の言葉はリーナの耳に届いたが…それと同時に魔物は大量の砂を吹いた…。その場を離れる暇もなく砂は2人を覆い隠し…後方にも広がっていく…。
こうなっては手出しできない…、2人が無事であることを祈り…私は後ろに居るニキ達の前に移動し、被害が出ないよう
距離があるからか、ここまで飛んでくるのは精々小さな骨片程度。凌ぐのは造作もないが…それでもかなりの速度で飛んでくる…。
やがて攻撃は止み、目前で立ち込める砂煙がぱらぱらと下に落ちていく。その様を眺めながら2人の安否を懸念していると…砂煙からリーナが出てきた。
しかしアクアスを抱え走るリーナは大きくよろめき…そのまま派手に転んだ…。良からぬ状態にあるのは明らか…すぐに2人のもとへ駆けつける。
無傷で脱出とはいかないと思っていたが…やはり酷いものだ…。アクアスは左腕に…リーナは背中に太い骨が刺さっていた…。
「ごめん…逃げれなかった…、アクちゃん…守れなかったよ…」
「バカ言うな…十分やってくれたよオマエは。2人共
小骨は手で払い、太い骨を力いっぱい引っ張って抜き取った。すかさず
恐らくアクアスはもう…この戦いの最中で満足に
リーナは脚こそ無事だが…如何せん傷が深い…。痛み止め込みでも…どれだけ動けるかは本人次第ってところだ…。
魔物はそんな満身創痍な私達に聞かせるように…まるで勝ち誇ったかのような咆哮を上げ…天を仰いでいる…。
ムカつくが…この現状じゃ受け入れざるを得ない…。一矢報いてやりたいが…打開策がまるで浮かばない…。
もう皆限界だ…仮に方法があったとしても…作れるチャンスは精々一度…。皆ボロボロなこの状況化で…どうやって水晶体を守る鱗を突破すればいい…。
「 “グゥロロロロロロッ!!!” 」
「うるせェな…。まだ終わってねェのに…デカい声出しや…がっ…──って…」
──へへっ…見つけたぜ…! テメェの邪魔な鱗を跡形もなく破壊できる…最っ高にイカれた方法をよォ…!
成功確率は五分ってところだ…今までに比べりゃ破格だな…! やらなきゃどうせ死ぬんだ…一か八かやってやろうじゃねェか…!
「2人共…動けるようになったらニキ達のところに行け、私は魔物を倒す為に必要な物を持ってくる…!」
2人にそう言い残し、私は急いで飛空艇に向かって走り出した。魔物はまだ吞気に勝利の咆哮を上げている…今なら邪魔も入らないだろう。
残ったダメージで足が縺れ…何度か転びそうになりながらも飛空艇に到着。梯子を上がって艇内へと入り、居間をきょろきょろ見渡す。
「あった! ニキ…
私はニキの特大リュックに手を突っ込み、ガサゴソ中を漁ってお目当ての物を取り出した。
用が済んだら素早く撤収、すぐに皆のもとへと戻る。アクアスとリーナもニキ達のところに移動していて、ベジルも大剣を杖替わりにして立ち上がっていた。
肝心の魔物は体を砂につけてじーっと見つめたまま動かない。まるでハゲタカ…満身創痍な私達の死を待ち望んでいるかのよう…。
「全員無事…ではねェよな…、半死人が言い得て妙か…。──なぁ皆…正直このまま戦いを長引かせれば私達は死ぬ…。それなら…最後にいっちょ私を信じてみないか…? 成功するか分からない賭けに命張る気はねェか…?」
「魔物を倒す方法が浮かんだニ…?! どんな方法ニ…?!」
「コレよ…!」
私はさっき持ってきた物を皆に見せた。リーナとベジルは首を傾げ、アクアスは額に手を当てて考え、ニキは全てを察したっぽい。
一応使っていいかニキに聞くと、ニキっと笑ってグーサインをくれた。これで罪悪感を覚えずに使える…なんせ最後には何も残らないだろうから…。
「ニキはカカに命預けるニ…! 上手くいきそうな気がするニ…!」
「それが何だったか思い出せませんが…
「やらなきゃどうせ死ぬしな…俺もオマエを信じて最後まで足搔くとするぜ…」
「私も…! 可能性があるならとことん付き合うよ…!」
満場一致──これが私達の答えだ。私達は死ぬまで諦めない…命ある限り挑み続ける…! これが最後だ…これが最後の攻撃だ…!
余裕綽々なテメェに手向けてやる…ちっぽけな人の底力を…覚悟を…狂気を…!
「 “グゥルル…!” 」
こっちがまだ諦めていないのを察知してか、魔物も体を持ち上げて唸り声を上げ出した。威圧感は相変わらず…だがもうちっとも怖くはねェ。
威嚇する魔物に対し、私達も武器を構えて闘志全開。このまま一斉に魔物へ向かって行きたいが、その前に渡す物があった。
「アクアス、
「はいっ! 必ずや果たしてみせますっ!」
これで今度こそ準備完了、後は各々が最善の行動をするだけ…そうすればきっと成功する。私達の勝ちが待っている。
魔物の攻撃を凌ぎ、こっちが攻撃を与え続ければ…奴は必ず衝撃ブレスを放とうとする。こっちは一度失敗してるんだ…奴は大して危険視してない筈。
それでもチャンスは一度だ…もう限界がすぐそこに迫っている…。悲鳴を上げる体に鞭を打ち、私達は魔物へと前進を始めた。
──っがすぐさま窮地に立たされた…まさかの衝撃ブレスを溜め始めた…。早々にケリをつけにきた…これはちょっと想定外…。
阻止しようにも距離が空き過ぎてるし…回避はそもそも成功した試しがねェ…。二手に別れたって…どっちかは必ずやられる…。
めちゃくちゃピンチじゃねェか…──どうすりゃいい…?!
──第86話〝アレ〟〈終〉