「私・ニキ・ベジルが前衛、アクアスは後方支援、リーナは状況を見ながら全体のサポートだ…! それでいくぞオマエ等…!!」
「 はいっ!
ニッ!
うんっ!
おうっ! 」
クギャを失い…予期せぬ形で5人が窪地の中に集合。当初の予定とは違うが…やることは何も変わらない…──クソ魔物をあの世に送ってやるだけだ…!
怒りを動力源に私達は攻撃を開始。アクアスは援護射撃の為に後ろへ下がり、合わせてリーナも距離を取った。
私達は反対に魔物へ向かって前進する。先頭を走るニキの後ろに続き、確実に攻撃を叩き込める隙を窺う。
「よくもクギャを…よくも
ニキ怒りの一撃が魔物の顔面に炸裂。あの巨体が少し後退る程のえげつない威力…これには流石の魔物も怯みをみせた。
その隙にベジルを連れて右半身の方に移動、どうにか脚をよじ登って背中に乗りたい。だが魔物はかなり警戒心が増しており、すんなり近付かせてはくれない。
私達を踏み潰そうと、一番後ろの二本脚で自身の巨体を持ち上げた。私とベジルは接近を即座に断念し、すぐに魔物のそばから離れた。
その直後…容赦なく繰り出された全体重プレス…。風圧で私達の体はぶっ飛ばされ…魔物の体に沿うように高く昇った砂はまるで壁のよう…。
威力もそうだが攻撃範囲の広さが恐ろしいな…、シヌイ山の魔物も似たような攻撃してきたが…比にならないヤバさだ…。
すぐに辺りを見渡し、ニキとベジルも無事であることを確認。ひとまず安心したが…あんな攻撃を何度を仕掛けられちゃ堪ったもんじゃない…。
倒すには必ず近付かなきゃならないし…もし多用してくるようなら何か対策を考えねェとな…。そうならないことを祈りたいが…。
「…っ!? 魔物が居ねェぞ…?!」
「また潜りやがったか…、全員足元に注意しろ! 僅かな砂の変化を見逃すなァ!」
まだ砂煙は立ち込めたままだが…そこに魔物の姿はなかった。攻撃ついでに砂中へ潜ったか…、もう上には誰も居ないし…次は純粋に攻撃を仕掛けてくるだろう…。
私はその場でしゃがみ、掌を砂に置いた。掌からには微かに振動を感じられる…魔物が砂中で蠢いているのが分かる…。
だが距離の近遠も…誰を狙っているのかも分からない…、それがむしろ恐怖を煽っている…。やらなきゃよかったかもしれん…。
「──クソッ…!」
突然ベジルが走り出した。それを見てすぐに察した…魔物はベジル狙っている…! 私とニキもすぐさま動き出し、ベジルの手助けに走る。
直後大口を開けた魔物が砂から飛び出した。ベジルは事前に走り出していたおかげで、ギリギリ口内に放り込まれず済んだ。
…っが、今度はその勢いを利用してまた押し潰そうとしている。眼を裂かれてからの殺意が半端じゃないな…、まるで攻めれねェ…。
「…ぉぉぉぉおおおおおっ!!〝
「うごォ…?!!」
突如横から猛スピードで突っ込んできたリーナのドロップキックは、ベジルの体をぶっ飛ばし、リーナもそのまま魔物の下から抜け出した。
かなり乱暴な救助ではあったが…おかげで私とニキが危うい救助に走らず済んだのはありがたい。これなら攻撃に転じられる。
魔物はズシンッ!と全身を砂に叩きつけ、再び砂が舞い上がる。また砂に潜ってしまうかもしれないが…その前にどうにか一撃叩き込みたい…!
潜行攻撃と体重攻撃がこちらにあまり意味がなく、むしろ反撃のリスクに繋がると思い込ませたい…! 無駄に知性が高いんだ、思考誘導ぐれェできんだろ…!
私は
一旦様子見をするつもりなのか…それともまた何か企んでるのか…。とにかくされっぱなしはごめんだし、視界不良の中で一泡吹かせてやろう。
短剣でなきゃ傷を負わせられないのは重々承知だが、一度傷付けた箇所なら話は変わってくるんじゃないか?
普通に与えたダメージは全て再生されてしまうが、短剣の傷は塞がらない。再生しない傷口に回復可能なダメージを与えればどうなる試してやるぜ。
「 “グゥルゥ?! グゥロララッ!!” 」
「クソッ…マジか…!?」
突然魔物は体の向きを変え、太っとい尻尾が私目掛けて迫ってくる。避けようのない広範囲な薙ぎ払いに…私は打ち飛ばされてしまった…。
そこまで攻撃速度は速くなかったが…尻尾の質量が乗って物凄い威力になっている…。
左腕は
「オイ飛空技師大丈夫か…?!」
「瀕死じゃなけりゃ
尻尾でぶっ飛ばされちまったわけだが…何となくあれに攻撃の意思を感じれなかった。魔物はただ体の向きを変えただけで、それに私が巻き込まれたみたいな感じ…。
つまり魔物は何か別のアクションをしようとしていた…。それが何か分からない以上…下手に動くのは危険が多過ぎる…。
徐々に砂煙が晴れてきたし…ここは一旦冷静になって見に回るのが──
「ニィィィィ!! 内臓がキュッとするニーー!!」
「「 アイツ何やってんだァ…!!? 」」
少しずつ魔物の姿が見えてきたが、何故か尻尾をぶんぶん振り回しており、どういうわけかニキがしがみついていた…。
一番最初にも見た絵面…そん時あっけなくぶっ飛ばされてたのに何故リベンジを…!? ほんで今にも負けそうだし…!
「ニャアアアアアアッ?!!」
「あっ負けた…」
情けない叫び声と共に空高く上がったニキ…そして毎度のことながら何故かこっちに落下してきている…。磁石…?
私とベジルはアイコンタクトを取り、ニキの落下地点を目算で求めて華麗に避けた。その直後勢いよくニキが
「──いっ…いいいいい今のは絶対避けたよニ…?! ニキは結構キャッチしてるニよ…?! 砂上船然りアクアス然り…!」
「いや…本来受け止めるのってめちゃ危険なんだぞ…? 下敷きになって怪我するかもしれんしな…。でもオマエは怪力持ちだからそれが可能なんだ、それに頑丈だ。私はオマエの頑丈さを信じて避けてるんだ、つまりオマエへの信頼だ…!」
「信頼…? それならまあ~許してあげなくもないニよ~?///」
ニキは照れくさそうに頭を掻いている…満更でもなさそうだ…チョれェー…、チョロ頭巾…チョロ紫…。
「っでオマエは何をやってたんだよ…」
「いやー…視界が悪いうちに反対の眼も切り裂こうと思ったんニけど…、流石に警戒されてて尻尾攻撃されちゃったニ…」
尻尾攻撃を受け止めたつもりが受け止め切れず…結果あの惨状に至ったわけか…。ひとまず魔物が何か企んでいたわけでは無かったらしい。
っとは言え…やっぱり相当短剣を警戒されちまってる…、やっぱ無理に左側面の眼を狙うのは悪手かもしれんな…。
私達の狙いが変わらず眼だと思わせといて…反対側から直接水晶体を叩くのがベストかも…。配役を考えるか…。
現状魔物が一番危険視しているのは間違いなくニキ…その次が多分アクアスかリーナ…。私はきっとそうでもない…ベジルも同じ筈…。
「ニキ…反対側の眼は一旦保留だ。私とベジルで何とか水晶体を狙ってみるから、オマエはアクアスと協力して〝眼を狙ってます〟って感じを醸し出しててくれ」
「要するに囮作戦ニね…?! 了解ニ…! バッチリこなしてやるニよ…!」
ニキと拳を合わせ、魔物に見えないよう短剣を受け取った。私とニキはそのまますれ違うように別方向へ移動し、作戦が始まった。
魔物を中心にそれぞれ弧を描くように動いてみると、やはり魔物はニキのことを追い始めた。それに合わせて魔物は体の向きを変え、私達も同様に動きを変える。
「俺だったら囮役は死んでもごめんだが…頭巾はすげェなァ…。っでどうすんだ俺達は…? どうやって背まで登る…?」
「んー正直な話…登るのは無理だと思ってる…。ダメージ無いくせに感覚だけはありやがるからな…、警戒心が高まってる以上…黙って登らせちゃくれねェさ…」
脚にしがみついた時点で標的をこっちに移してきてもおかしくない…そしてそうなったら絶対妨害してくるだろう…。
よって
隙を見計らって、ベジルに上まで投げてもらおう。ニキと何度かやってる例の両手投げで行けるとこまで行って、その後は水晶体までダッシュする。
「できそうか? あんま言いたかねェが…アクアスよか重いけど…」
「死んでも放り投げてやるよ、頭巾と役割交代はマジで死ねるからな…」
ベジルはそう言うと、ポケットから濃く赤い液体が入った小瓶を取り出し、木栓を抜いて中身を飲み干した。
何かしらの薬だろうか…まるで血のような色をしていた…。〝
「おしっ…! いつでもいけるぜ、指示は任せたぞ…!」
準備は整った、後は舞台が整えばいつでも攻撃に出られる。焦ってはいけない…こっちの狙いを見抜かれるわけにはいかない…。
今は付かず離れず…それでいて目立たないような立ち回りが求められる。ややもどかしいが…絶好のチャンスは必ずくる…アイツ等が必ず作る…!
“──メキメキメキメキッ!!”
「なんだありゃ…!? 新手の攻撃か…!?」
「いや違う、あれは何だったか…名前忘れちまったがニキの
猫魔物との戦いでも使っていた太い蔓が、頭から尻尾にかけて物凄い速度で覆っていく。早速絶好のチャンス到来──っと思ったが…そう簡単じゃなかった…。
魔物は何事もなかったかのように蔓を破り、あっという間に自由を取り戻した。いい案だったが…あまりに相手が悪過ぎたな…。
やっぱりコイツが隙を見せるとしたら…
だがいつ隙を晒すかは知りようがないし…これといった手助けもできないのが歯痒い…。奇襲を成功させる為には…魔物の胴体右側に居続けなきゃならない…。
戦いが激化しているのは見ずとも伝わってくる…。時折魔物はよろつくし、アクアスの発砲音もしきりに聞こえてくる。
魔物は魔物で前脚で引っ搔くような動きや、プレス攻撃を繰り出している。この位置じゃ戦況がまるで見えない…だが皆を信じて耐えるしかない…。
「 “グゥルルゥ…!” 」
「…っ! 来たぞチャンスが…!!」
低い唸り声と共に、魔物は口を大きく開け始めた。あれだけバタバタと動いていた脚が大人しく整列しているのを見るに間違いない…衝撃ブレスの準備に入った…!
衝撃ブレスは脅威だが…放つまでに溜めが要り、加えてその間は無防備…! 奇襲を仕掛けるにはまさに絶好の好機…!
すぐにベジルへ合図を出し、私は真っ直ぐベジルに向かって駆け出した。ベジルは大剣を大きく振りかぶって、私の打ち上げ準備を整える。
ベジル渾身の一振りに合わせて上に跳び、大剣の側面に乗った私の体は勢いよく飛び上がった。高さはバッチリ、魔物はまだ気付いていない。
私は短剣を抜き、着地と同時に全速力で水晶体へ接近する。恐らく魔物も気付いただろう…だがもう遅い…!
衝撃ブレスの中断は間に合わない…! 私が短剣を振り下ろすのが速い…! 水晶体は目と鼻の先、私は右手を強く握り込み…短剣を勢いよく振り下ろした。
“ぐにぃ…”
短剣から伝う異様な感触…僅かに弾性を残した硬い何かを刺したような感触…。──私の短剣は…魔物の鱗に阻まれた…。
私が短剣を振り下ろす直前…水晶体の周りを囲んでいた鱗がまるで蕾のように閉じ…私の一振りが殺された…。
目の前で起きた思いがけない事態に…思考が追いつかず体がフリーズ…。すると突然私の足元の鱗が起き上がり…私は上に飛ばされてしまった…。
直下に見るは…私を見上げる皆の顔と…
その直後私の全身は衝撃ブレスに包まれた…。一瞬にして視界が塗りつぶされたかのように真っ黒となり…体の感覚も遠ざかっていく…。
ヤ…べェ…──意…識が…────みん……な…───────────────
─────────────────────────────────────
───────── “………!!” ─────────────────────
── “…カ…!!” ────────────── “……様!!” ────────
──────────── “カカ様ァ!!”
「ハァ…?! ハァ…ハァ…、アク…アス…?」
「カカ様…! うぅ…とても心配しました…、意識が戻って何よりですぅ…」
目の前には涙を浮かべるアクアスがいた…。空が見える…どうやらアクアスに膝枕をされているらしい…。
〝意識が戻って何より〟…どうやら…私は気を失ってたみたいだな…。頭が…全身が痛ェ…、最後の方の記憶が曖昧になっている気がする…。
「私は…どれくらい寝てた…?」
「それほど経ってません…ついさっき衝撃波にやられたばかりです」
衝撃波…そうだ思い出した…。私がしくじって…その後無様に衝撃ブレスを喰らったんだった…、そりゃ体中痛ェわけだ…。
だが起きれたのは運が良かった…危うくゆっくりと死んでいくところだったぜ…。ひとまず
ゆっくり左手をポーチに回すと、何故かポーチが湿っている…。その理由は何となくすぐに分かった…
「悪ィアクアス…オマエの
「もちろんです。ゆっくり流し込みますので、落ち着いて飲んでくださいね」
私はアクアスに支えられながら体を起こし…よろつきながらも何とか立ち上がった…。もう少し経てば動けるようになる…吞気に寝てる暇はねェ…。
考えろ…水晶体を刺すには…それを囲む鱗をどうにかしなきゃならねェ…。しかもあの鱗はかなり厚い…力任せにぶっ刺しても…精々刃先が少し刺さるだけ…。
確実に倒すには…あの鱗を破壊し…鱗が再生する前に短剣で刺すしかねェ…。なんちゅう無理難題…バカ過ぎるぜ…。
──第85話 蕾〈終〉