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第78話 竜騎師

<〔Perspective:‐アクアス視点‐Aqueath〕>


「──よし…これでもう少しだけカカ様の為に戦えます…」


幹部相手にからく辛勝を掴んだわたくしは、治癒促進薬ポーション塊血かいちで応急処置を済ませた。まだ敵は残っていますし…わたくしだけ休むわけには参りません。


どれほど役立たずであろうと…戦いが終わるまでは戦い続けなければ…。それすらできないでは…カカ様に合わせる顔がありません…。


「──アクちゃーん!! そっち大丈夫ー? 怪我とか…──してるゥ…?!!」


「ご心配には及びません、既に治癒促進薬ポーションを飲みましたので。それよりリーナ様の方の戦況は…?」


「こっち? こっちはもうほぼ全滅だね、口ほどにもない奴等ばっかりだったよ」


ひとまずここは片付いたみたいですね…っとなれば別の場所に向かわなければ…。きっとニキ様もベジル様もまだ戦っておられる筈…急がなければ…。


残り弾数は心もとなくなってきましたが…それを言い訳にはできない…。もっと貢献しなければ…でなければわたくしは…──


「 “キュルゥゥ…!!” 」


「…っ!? アクちゃん避けて…!!」


突如背後の砂地から飛び出してきたのは大きなクモ…。脚を大きく広げ…剝き出しの牙で今にも嚙み付こうとしてきている…。


避けようにも逃げ場がない…どこへ回避しても脚で捕えられてしまう…。そしたら瞬く間にあの牙の餌食にされる…その結末が目に見える…。


折畳銃スケールには弾が入っていない…今から装填は間に合わない…。まだ傷が塞がっていない状態であの牙を刺されたら…死…。


「 “ジャラッ” 」

“バクンッ!”


「あっ…」

「うわっ…クモ食べちゃった…」


一瞬死を悟ったのと同時に…音もなく右側から接近していたポチ様がひと口で死を平らげてしまわれた…。


毒を持ってそうな感じがしましたが…食べても大丈夫なのでしょうか…。恐るべき健啖家…流石は生ける神話級生物のポチ様です…。


「めいどのお姉さーん! こわいの全部ポチが食べちゃったよー! 人は食べちゃダメなんだったっけ?」


「そうですね…人は食べずに、ほどほどに攻撃するだけに抑えてください…!」


「はーい! じゃあ悪者たいじだっ! ポチしゅっぱーつ!」


「 “ジャララッ!” 」


そう言ってユク様&ポチ様はどこか楽しげに行ってしまわれた…。わたくしはリーナ様と顔を見合わせ、その後すぐにポチ様を追って加勢に向かった。


向こうではまだ激しく砂煙が上がっている、恐らくニキ様とベジル様が暴れているのでしょう。微力ではありますが、わたくしも尽力致します。


カカ様はまだ七鋭傑の方と戦っている…、となれば万が一にもその戦いに邪魔が入らぬようしなければならない…。


それが今わたくしのすべき務め…命を賭して挑む任務…! ネズミ一匹たりとも…カカ様のもとへは通しません…! カカ様が勝利するその時まで…!







<〔Perspective:‐カカ視点‐Kaqua〕>


「 “キシャアアアアッ!!” 」


「〝竜撃りゅうげき〟…!!」


空を飛ぶクギャの背に乗ったまま…幾度目かの強烈な攻撃のぶつけ合い…。咎王蠍デカサソリは巨体なだけあって…一撃一撃の威力が凄まじい…。


攻撃で軌道を逸らすのが関の山…あの尾が破壊できずにいた…。しかもそんな尾が3本もあるときた…、どうかしてるぜあの生き物は…。


「ンッフフ…! 防戦一方で苦しそうね~、アタシの出る幕が無さそうで残念だわ~。さっさと諦めて殺された方が楽なんじゃなーい?」


「なんとでも言えよ…! すぐにテメェを舞台上に引きずり出してやっからよ…!」


「あらそう? それならアタシも張り切って妨害しないとね…! すぅー…── “キィィィィィィィィ…!!” 」


またやってきた…この全身のあちこちで鳥肌が立ちそうな嫌な音…。筋肉が音に押さえ込まれているかのように力が入りづらくなる…。


服の切れ端を耳栓代わりにしてある程度は抑えられているが…それでもかなり支障が出てる…。本能が拒絶しているのだろう…、これ以上の対抗策はもう無ェ…。


「 “キシィィ…!” 」


「またくるぞ…避けろクギャ…!」

「 “クギャ!” 」


鋭い針をこさえた尾っぽが再び私達へと伸ばされた。クギャは翼を畳んで急降下し、ギリギリ攻撃を回避。


しかしまだ攻撃は続く…、下に逃げれば次はデカいハサミが待ち受けている…。私とクギャを重ねても余裕で剪断せんだんできるであろうご立派なハサミが…。


右腕のハサミで攻撃を仕掛けてくるようだが、左腕も準備が済んでいるな…初撃を躱させて次の一手で仕留める算段か…。


だがそこまで分かっても現時点で有効な手は無し…、ここはクギャに素直に避けてもらって…左腕は私がまた対処しよう。


クギャに避けるよう指示を出すと、今度は力強く翼を羽ばたかせ急上昇。大した飛行能力…しがみつく私の方が必死だ…。


この急上昇のおかげで初撃は見事に回避、しかし予想通り二段構えでりにきた。横に傾けたハサミを近付け、クギャを挟もうとしてくる。


「ちょっと我慢しろよ…! そんでその後ちゃんと私を回収しろ、いいな…!」


「 “ギィ…? ギャギャッ?!” 」


私は勢いよくクギャを踏み付け上にジャンプし、踏み台にされたクギャは減速。結果ガチンッと閉じたハサミに挟まれずに済んだ…危機一髪ってやつだ。


私は表面がザラつくハサミの上に着地し、効くか分からない攻撃を叩き込んだ。まるで岩の様な甲殻…だが内部への衝撃の響きに手応えを覚えた。


「 “キシャリッ…?!” 」


尾とは違ってちゃんと衝撃が沈み込んでいくのを感じる…これは効いてる…! 思わぬ収穫だ、もしかしたら胴や頭部にも効くかもしれない。


その可能性が浮上しただけで希望が湧いてきた。正直咎王蠍サソリを倒すのは無理なんじゃないかと思い始めていたから…。


「 “キャシャッ!!” 」


「おっと! そうはいくかっての!」


ハサミの上に立つ私目掛けて咎王蠍サソリは尾を伸ばしてきたが、すぐに飛び降りてそれを回避。私の体は真っ直ぐ砂地へと落ちていく。


「── “クギャギャー!” 」


「ナイスキャッチ! 流石は私の舎弟だ、頼りになるな!」


再びクギャの背に乗り、高所から咎王蠍サソリを見下ろす。さっきの一撃に腹を立ててか…執拗にハサミをガチガチッさせている…怖っ…。


割と知性あるみたいだし…同じ手が通用するとは思わない方が良さそうだ。どうにか別の手段で近付いて、頭部に一撃叩き込みたいところだが…。


「ふぅん、中々抵抗してくるじゃない…。邪魔な耳栓のせいで妨害の効きも悪いし…やんなっちゃうわねェ…」


「なんだ弱音かァ…? 吠え面だけはかかないでくれよ…? こっちが加害者みたいになっちまうからなァ…!」


「本当減らず口ね…戦況見えてる? 妨害が効かなくたって、咎王蠍この子が居れば僅かな問題、アンタ達を殺すのに支障はないわよ」


うーん…コイツ全然感情的にならねェな…。腐っても七鋭傑か…やっぱ前に戦ったイタチ女とは比べ物にならないほど格上だな…。


そんで言ってることが事実なのもムカつく…。妨害してこないのはありがたいが…だからと言って咎王蠍サソリの脅威が減るわけじゃねェ…。


動きはクギャより鈍いが、充分過ぎるだけの速さが備わってる。攻撃力は言わずもがな…攻撃範囲は広すぎ…、トドメにクソ硬いときた…頭が痛ェぜ…。


一撃で仕留めれるなら仕留めたいが…なんせあの巨体だ…絶対に無理…。少なくとも4~5発は必要だ…、全て同じ個所に当てられれば…の話だが…。


「 “キャシャアアッ!!” 」


「策を考える時間はくれねェか…」


咎王蠍サソリは私達を見上げて咆哮を上げる。尾がピクピクと動き出し、内1本の尾が矢のように正確にクギャへと伸びた。


クギャはすぐさま上へ回避、咎王蠍サソリの初撃は失敗に終わった。だがそれを見越してか…すぐに2本目の尾も伸びてくる。


左手でクギャの体をぽんぽん叩き、今度は横方向に攻撃を躱させた。上に逃げてもいいが離れ過ぎては反撃に出られないからな…少しずつ近付いて行かねェと。


横移動をする私達に、咎王蠍サソリも同様に体を回して狙いをつけ続けてくる。やがて3本目の尾が、私達の進行方向へと伸ばされた。


次はクギャの体をグッと押し込んで下へと回避させ、そのまま咎王蠍サソリへ接近するよう指示を出した。ここからが勝負…どれだけ近付けるかな…。


無論咎王蠍サソリはハサミで迎撃態勢…ここからどうクギャに指示を出したものか…。そう考えていると、突然クギャが体を翻した。


私はクギャの背中から落下し…内臓が浮き上がる間隔を覚えた…。っがすぐにクギャは下へ回り込み、足で私の両肩をキャッチ。


「うわあああっ…?! いきなり逆さになんなよバカタレ…! せめてなんか合図出せや…! 死ぬかと思ったわ…!」


「 “ギャギャッ! クギャー!” 」


「あんっ…? なんか考えがあんのか…?」


クギャは自信あり気に宙吊り状態な私の顔を覗き込んできた。この状態で何をしようとしているのか分からんが…ちょっと危険な予感がする…。


だが現状名案は浮かばないし…ここは大人しく従うしかないな…。頼むぞクギャ…こんな情けない宙吊り状態で死にたくはねェからな…。


私の両肩を掴んだまま、クギャは迎撃する気満々の咎王蠍サソリへ直進。不思議と自分で攻め込むより怖く感じる…。


クギャは素早い飛行で尾やハサミを躱していくが…中々咎王蠍サソリは隙を見せてはくれない。次々に攻撃を畳み掛けてくる…。


このままじゃ一方的に疲弊させられるだけだ…持久戦はウマくねェ…。どうにかしないとヤバいぜクギャ…。


「 “キィシィシィシィィ…!!” 」


「おうっ…? 咎王蠍アイツも攻撃当てられなくてムカついてるみたいだな、あのクソエナよりおつむが弱ェみたいで嬉しいぜ…!」


尾3本の内1本を伸ばして攻撃、その後は残りの尾かハサミでってのが咎王蠍アイツの基本戦法みたいだが…それで仕留められずストレスが溜まっているみたいだ。


最初に比べて攻撃が明らかに雑になっている…。怒りは判断力を鈍らせる…もしかすると思わぬ隙を晒してくれるかもしれない。


「 “キャシャーー!!” 」


咎王蠍サソリは我慢の限界を迎えてか…3本の尾を同時に使って攻撃してきた。クギャはその間を縫うように飛び、見事に回避してみせた。


シンプルに凄ェけど…遠心力で内臓苦しい…、クギャはこの後私に何をさせようと言うんだ…。そろそろキツいぞ…吐く5歩手前って感じ…。


尾を完璧に避け切ったクギャは咎王蠍サソリの頭上に抜けた。さァここから何をするん…──うぉぉ…?!


突然クギャは急降下…そしてまさかのリリース…! まだ空中なのに手放された私の体は…咎王蠍サソリ上に落下していく…。


その後すぐにクギャは咎王蠍サソリの目の前まで移動し、気を引いてくれている。絶好の攻撃チャンスが生まれたわけだが…何という荒技…。


だがまあ…やり方はどうあれ好機チャンス好機チャンス…! しかも頭上…! この上ない最高のポイントだ、ぶち込んでやる…!!


「〝禍玄かげん震打しんうち〟…!!」


痛みと引き替えに、渾身の一撃を脳天に振り下ろした。バキバキと音を立てて甲殻がひび割れ、ガクンッと咎王蠍サソリの体が揺れた。


本気打ちに落下の勢いが加わり、通常よりも威力は上がっている筈だが…手から伝ってくる感覚はまるで真逆…。


堅い甲殻こそひびを入れられたが…衝撃が内部に全然届いていない…。デカい図体なだけあって身もかなり肉厚…、だから衝撃が浸透しづらい…。


だが甲殻がひび割れたこの状態なら…さっきよりも攻撃は効く筈…! もう一撃本気打ちを喰らわせれば…衝撃は脳まで──


“──キーン…!!”

「〝閃鞭凶打せんべんきょうだ〟…!」


「…っ! がァ…?!」


〝音〟が聞こえた刹那…左頬に鮮烈な痛みが走った…。皮膚が弾け…血の滲む肉が剥き出しに…、叫び出したくなるほどの痛み…。


十中八九フロンクソエナの仕業…これが上澄み鞭使いの一振りか…。顎周りの筋肉がピクピクと痙攣している…、これを何度を喰らうのはマズい…。


私は素早く左手で毒ナイフを取り出し、ひび割れた甲殻の隙間に突き刺した。そしてすぐにその場を離れる、フロンに追い打ちはさせない。


咎王蠍サソリの頭上から思い切って飛び降ると、しっかりクギャが真下まで来てくれた。可愛い奴…ひとまず無事に離脱できてよかった。


咎王蠍この子ばっかり意識し過ぎて、注意散漫になってるわよ~。それくらい追い込まれてるってかしら? いい気味ねェ~!」


「いーや違うね、テメェがあまりに小者すぎて見えなかっただけだ…! いい目覚めのビンタだったぜ…親切にどーもな…!」


これで二度目だ…コイツに頬をやられたのは…。一層闘志が燃えてきたぜ…この借りは何倍にもして必ず返してやる…!


だがその為にはやはり先に咎王蠍サソリを片付けねェと…。私もクギャも疲労が溜まってきた…、悠長にはしてられねェ…。


「トーキーから聞いてるわ、これ毒ナイフよね? でも残念…咎王蠍ベラムスコーピオンに毒は効かないの…! でもせっかくの足掻きだし、記念にこのナイフはこのままにしてあげるわね、優しいでしょアタシって…?」


ウゼェェェ…マジ何なのコイツ…。私は反骨精神であれこれ物言うけど…コイツほど純粋に性格悪い奴初めてだぜ…。


体全体を血液みたいに殺意が巡っていくのを感じる…、気持ちが乱れている証拠だ…。この状態じゃ到底咎王蠍サソリは倒せねェ…。


冷静になるんだ…怒りを殺せ…。咎王蠍サソリを倒す算段はもうついてる…、あとはどれだけ上手くやるかにかかっている…。


もうすぐだ…もうすぐテメェを安全な玉座から引きずり落とせる…! 首を洗って待ってやがれよクソエナ…!



──第78話 竜騎師〈終〉

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