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第77話 忠義の弾

<〔Perspective:‐アクアス視点‐Aqueath〕>


「迅通弾…!! ──炸裂弾…!!」


勢い落ちぬ賊方相手に…気を抜く暇もなく銃撃をし続けた。装填…発砲、装填…発砲、砂漠の熱さの中でひたすら同じ行動を繰り返す。


賊方を着実に削れているとは言え…こちらの体力も膨大ではない…。少しずつ…それでいて明確に疲労が全身に溜まり続けている…。


特に折畳銃スケールを支えている両腕は…繰り返す発砲の反動で鉛のように重い…。近からず遠からず限界がきてしまう…。


その前に可能な限り頭数を減らす…それが今のわたくしに課せられた使命…。たとえ途中でわたくしの力が尽きようとも…ニキ様ならば何とかしてくださる筈…。


実弾を使用したとて…わたくしはカカ様やニキ様ほど強くはありませんので…、お手を煩わせてしまうかもしれませんが…ニキ様ならばきっと成し遂げてくださいます…。


故に体力の温存は致しません…! この身一つでカカ様のお役に立てるのならば本望…! 必ず己の責務を果たしてみせます…!


「近接は一旦退き、盾使い前へ出ろ…! 四方から押し潰し、無力化するのだ…!」


幹部の一言を受け、大盾を持った方々が前衛に出てきた。かなり丈夫そうな盾…迅通弾じんつうだんは通りそうにありませんね…。


炸裂弾さくれつだんの爆風で吹っ飛ばせるかもしれませんが…四方を囲う盾で爆炎が跳ね返ってはわたくしも負傷してしまうかもしれません…。


どうしましょうか…──はっ…! そうですアレがありました…! 異例の実弾許可と日の浅さのせいで失念していましたが…こんな時にピッタリな弾がありました…!


「〝凍結弾とうけつだん〟…!」


「ぐっ…フハハッ…! そんな攻撃効きは…──なっ…何だこれは…!?」


大盾は見事貫通を防ぎましたが、凍結は防ぎようがありません。着弾部分から膜を張るように凍てついていき、大盾を支える両腕さえも凍り付いた。


「下手に動かない方がいいですよ…! 凍てついた腕が粉々に砕けてしまいますので…! わたくしに近付く者にも容赦なく撃ち込みますので覚悟してください…!」


わたくしがそう言い銃口を向けると、囲む賊方は怯んだ様子を見せて後退った。想像以上に効果てきめんですね…。


わたくしも虚仮脅しが達者になったものです…、それだけ長くカカ様のおそばに居たということでしょうか…。──フフフッ…♪


取り囲まれては厄介でしたが、臆して攻めてこないのであればどんどん攻め立てるが吉。迅通弾じんつうだんを素早く装填し、大盾を持つ方々の足に撃ち込んでいく。


撃ち込まれた3人は、それが凍結弾とうけつだんではないにも関わらず…同様に悲痛な声をあげながら手で患部を擦っている。


摩擦熱程度で対処できるものではないのですが…凍結弾とうけつだんに対してかなりの恐怖を抱いているご様子。


っとは言えかなり好都合、邪魔な大盾持ちを全員削れたのは大きい。あの様子ではもはや使い物にはならないでしょうし、スルーで問題ありませんね。


問題はまだまだ控えている兵隊…、萎縮していても幹部が一声指示を出せば…死に物狂いで襲い掛かってくることでしょう…。


どうしましょうか…炸裂弾さくれつだんで一気に蹴散らしてしまうべきか…、それとも幹部との戦いに弾を温存すべきか…──


「──〝一角壊崩いっかくかいほう〟…!!」


「「「 ギャアアアアアッ…?!! 」」」


「ふェ…!? リーナ様…?! どうしてここに…?!」


突然風切る音と共にリーナ様が突っ込んできた…。激しく打ち上げられた賊の方々はバタバタと落下し…ピクリとも動かない…。えっ…死なれました…?


「助けに来たよ…!! 大丈夫アクちゃん…?!」


わたくしは平気ですが…えっと…ってしまわれました…?」


「いやや大丈夫だよ大丈夫…! ちゃんと加減したから…! もしこの程度で死んだら悪いのはコイツ等だから…!」


若干暴論な気もしますが…今回はそういうことにしましょう…。死んだら天罰…死んだら自業自得…、悪は滅びる運命さだめなのだと…。


リーナ様が加勢に駆け付けてくださったことで、賊方は更にどよめき始めた。剣先を交互に向けながら、じりじりと後ろに下がっていく。


「リーナ様、ここの賊方をお任せしても宜しいでしょうか…。わたくしは…あそこの幹部の方を相手します…!」


「うんっ了解…! もしヤバそうだったら私を呼んでね…! それはもうあっという間に駆け付けるから…! 気を付けてね…!!」


リーナ様は石像戦でもご活躍された確固たる実力の持ち主、あの程度の賊方に遅れをとることは決してないでしょう。


ともなれば、あとはわたくしが幹部を倒すのみ…! これ以上…カカ様の足を引っ張るわけには参りません…、汚名は返上させていただきます…!


「私とサシで戦るつもりか…。一対一なら簡単に私を倒せると思っているのなら痛い目を見るぞ…! 私は他の者達とは違うからな…!!」


「興味ありません…!!」


折畳銃スケール迅通弾じんつうだんを装填し、まずは攻撃の要である手甲鈎クローを封じる為に右肩へ狙いを定めて引き金を引いた。


弾の形状故に、他の弾丸よりも更に速く狙った先へ飛んでいく迅通弾じんつうだん。回避はおろか、防御ですら大抵の方は間に合わない程の速度。


ですがわたくしは撃ち込んだ弾は…手甲鈎つめで防がれ四散した…。迅通弾じんつうだんは引き替えに強度が脆いですので…手甲鈎つめを貫くことができない…。


いえ…問題はそこではありません…、…そこが問題…。迅通弾じんつうだんを防ぐには…引き金を引くより前にどこへ飛んでくるかを把握してなければ不可能…。


以前カカ様の指示で、カカ様を狙って撃ったことがありましたが…迅通弾じんつうだんを避けれたのはカカ様のみ…。枝に留まった鳥でさえ…避ける事はできなかった…。


カカ様が避けれたのは能力チカラのおかげ…、危機を…引き金を引く直前に〝音〟を聞いたから…。では幹部この方は…?


防御は回避よりも難しい…それを幹部この方は二度もやってみせた…。一度目は偶然と思いましたが…どうやらそうではなさそうですね…。


「ふんっ…! どうだァ…! 貴様の弾など…私にはまるで効かぬぞ…! このまま弾切れを待ち…裸同然の貴様を切り刻んでくれようか…!」

< フロン隊幹部 〝灰崖貂パリミンク獣族ビケ〟 Aacila Myliアーシラ・ミリアah >


「──作戦を変更します…」


仕組みは分かりませんが…速度任せの弾は通用しないご様子…。であれば…特殊な弾を多用し、こちらの優位を保ちながらじわじわと消耗させるのみ。


炸裂弾さくれつだんを直撃させては命に関わってしまいますので…ここは直撃させても問題のない凍結弾とうけつだんで相手の出方を見ましょう…。


「…っ! 弾を変えたな…? 爆発する弾か凍りつく弾か…、どちらにせよ…ただ黙って弾を防ぐだけだと思わぬことだな…!」


装填を終えたわたくしに向かって、幹部は真っ直ぐ接近してくる。銃口を向けてもまるで歩を止めない幹部の体の中心に狙いを定めて、引き金を引いた。


銃口から放たれた弾は瞬く間に虚空を滑っていったが…今度は見事に回避されてしまった…。装填だけなら間に合いますが…次弾を撃ち込むのは難しそうです…。


ですがわたくしも見逃しはしませんでした…引き金を引くと同時に一瞬幹部あの方の毛皮がぶわっと総毛立ったのを…!


どうやら全身を覆う毛皮が…危険を感じ取る働きをしているようですね…。それもわたくしが狙った箇所を中心に総毛立っている…、防御できた理由が分かりました…。


「〝搔切鈎センシェル・クロー〟…!!」


「うぐぅ…! 重い…」


そこまで筋肉質ではない腕なのに…想像以上に重たい一撃…折畳銃スケールで防いだこちらの腕が痺れてしまいそう…。


「そらっもういっちょ…!〝搔切鈎センシェル・クロー〟…!!」


「あぐっ…?!」


間髪入れず空いていた左腕での追撃…。咄嗟に体を仰け反ったことで大事には至りませんでしたが…掠った爪先が右頬に切り傷を付けた…。


わたくしはすぐに折畳銃スケールを半回転させ、親指で引き金を引いた。ですが銃床の炸撃ガンク・ブロズですら直前に悟られ…後方へ逃げられてしまいました…。


危機察知能力も厄介ですが…何よりあのすばしっこさが一番厄介ですね…。危険を察知してから回避行動までが凄く速い…、まるでカカ様を相手しているかのよう…。


「もう手札は出し切ったようだな…! 爆発と凍結にさえ注意を払ってしまえば…貴様など私の相手ではないわ…!」


既に勝ちを確信したかのような言葉遣い…、炸裂弾さくれつだん凍結弾とうけつだんは有効そうな発言をしているのに…何でしょうかあの自信は…。


っとは言え無根拠とも思えませんし…ここは一度試してみましょう…、幹部あの方に勝つ上でどうしても知らなければならないことを…。


わたくしはクルッと幹部に背を向け、迅通弾じんつうだんを装填して素早く体を向き直した。


これで折畳銃スケールの中に何の弾が込められているかを幹部あの方は知らない…──わたくしの予想通りであれば…幹部あの方はきっと…。


右肩に狙いを定め…ダメもとで引き金を引いた。結果は…一度目二度目と同様に手甲鈎つめで防がれた…。


「何度やっても結果は変わらんぞ…! 速いだけの弾など対処は容易だ…!」


「そのようですね…」


やはり…避けずに防御してきましたね…。今ので確定しました…幹部あの方はこちらが撃ち込もうとしている弾を察知している…。


それも危機察知能力の恩恵でしょうか…。見てもいないのに弾の危険度を察知できるなんて…カカ様以上の危機察知能力…。


回避すべき弾は回避しつつ…防げる弾にはあえてリスクを冒さず防御の姿勢…。分かり易く相性最悪の相手ですね…、こちらの強みが殺されている…。


「次はこちらの番だ…! ズタズタに切り裂いてくれる…!!」


「申し訳ありませんがご遠慮させていただきます…!」


定石通りに攻めても効果は薄い…、であれば奇手に打って出ます…! カカ様ほど機転は利きませんが…勝つ為に色々やってやります…!


まずは炸裂弾さくれつだんを装填し、砂地に向けて発砲。勢いよく巻き上がった砂煙の隔たりを利用して、奇策の準備に取り掛かる。


凍結弾とうけつだんを込めた後、ポーチから毒入り瓶を一つ取り出す。何毒なのか忘れてしまいましたが…カカ様からいただいた物なので大丈夫でしょう…。


毒入り瓶を前方に放り、すかさず凍結弾とうけつだんで瓶を撃ち抜いた。飛び散る毒液は瞬時に氷柱のように凍り付き、砂煙の中へ吸い込まれた。


即興の毒散弾どくさんだん、正直効き目はあまり期待していませんが…直撃していたらラッキー程度に思いましょう。


次弾の準備をしていると、砂煙の中から幹部が飛び出してきた。毛皮にはパラパラと氷が付いていて、防ぎきれなかったと見て取れる。


っとは言え毛皮が邪魔して大したダメージにはいないことも窺えます…。倒すにはやはり確実に弾を当てるしかないようですね…。


「くだらん足掻きは止せ、貴様では私に勝てん…! 他の幹部が相手なら可能性はあっただろうが…私はかつて本気で七鋭傑の座を狙って鍛錬していた…! 埋めようのない実力差は明確なのだ…!」


「あぐっ…?!」


恐れのない直進で一気に距離を詰めてきた幹部の手甲鈎つめが…腹部に鋭い引っ搔き傷をつけた…。咄嗟に後ろへ跳びましたが…間合いを見誤ってしまいました…。


決して浅くない傷…かなりの痛手…、ですが待ってましたよこの時を…! 傷は負いましたが…後ろに跳んだことで生まれた隙間、付かず離れずのこの距離を…!


今すぐ追撃をしたいでしょう…?! ここで勝負を付けてしまいたいでしょう…?! だから幹部あの方はきっと銃口を向けても逃げはしない…!


弾の危険度が判ってしまうのなら尚更…ここで退ける筈がない…! 現に幹部は防御の姿勢で待ち構えており…その後すぐに跳び掛かかれるように膝を少し曲げている。


その姿を見たわたくしは…安心して引き金を引いた──。


「〝志士の銃撃サーヴァ・ショット〟…!!」


「ぐがァ…?! な…何が起き…!?」


わたくしが放った弾はこれまで同様に幹部あの方の体に直撃はしませんでしたが…その代わりに幹部あの方が装着していた手甲鈎つめが、弾に押されて肩に突き刺さった。


幹部あの方は当然大混乱…一体何が起こったのか見当も付いていないご様子。無理もありませんね…今まで四散していた弾が、今回だけはそうならなかったのですから。


「貴様ァ…何をした…?!」


「何って…今まで通り〝所持している弾〟を撃っただけですよ…! お忘れですか…? 貴方自身も仰っていましたよ…!」


「何だと…?! 一体何を…──っ!」



“奴は実弾を使わないのではないのか…?! サリもトーキー様のところのエノーも…しか使わなかったと報告していたのに…”



「気が付いたようですね、もう手遅れですけど」


手甲鈎つめをクロスさせて防御していたが為に、ゴムに押された手甲鈎つめは両肩に突き刺さった。これまで同様のポテンシャルを出すのは不可能、これで大きく有利が傾いた…!


わたくしは弾を装填することなく接近し、バレル部分を両手で握りしめ、ハンマーのように幹部の両腕を打った。


より深く刺さる手甲鈎つめ…これで自力で抜くのがより困難になった。たとえ抜けたとしても…まるで脅威ではありません。


「グガァァァ…!! 舐めるな小娘がァ…!」


幹部は苦し紛れに嚙み付こうとしてきましたが、今更そんな攻撃を喰らうことはなく…サッと後ろに跳んで回避。


そして冷静に素早くゴム弾を装填し、がら空きの眉間にトドメの一撃を放った。


「〝志士の銃撃サーヴァ・ショット〟…!!」


「グギャアアアアアッ…?!!」


体が少し宙に浮き…そのまま幹部の体は仰向けに倒れた。ゴム弾とは言え、頭部に喰らえば脳震盪は必至…しばらく目を覚ますことはないでしょう。


しかし…うぅ…わたくしも手痛い傷を負わされたものです…。もし幹部あの方が自身の能力を過信していなければ…勝負は分かりませんでした…。


わたくしもまだまだですね…、まだまだ…カカ様の足を引っ張ってしまっている…。──役立たず…ですね…。



──第77話 忠義の弾〈終〉

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