<〔Persp
「──くぅ…全員怯むな…! 攻めろ攻めろ…!!」
「何人攻めて来ようが一緒だァ…!〝
「「 ギャアアアッ…?!! 」」
現在私は石像との戦いでは出番がなかった双剣を振るい、アクちゃんを攫ったクソカス共をバッタバッタと斬り捨てている最中。
ちなみに私は今めっちゃ怒ってる…ストーキングされてる事に気が付いた時を遥かに凌駕する怒り…。ずっと噴火状態…。
アクちゃんがもし無事に戻って来ていたなら、もうちょっと冷静でいられたかもしれないけど…このクソカス共は禁忌を犯した…!
アクちゃんに危害を加えた…手を怪我してた…! どうせ抵抗できない状態で好き勝手やったんだ…! 許せない…全員砂の上に寝かせてやる…!!
「〝
背後から鋭い爪で引っ搔こうと襲い掛かってきたフェネック女。でも今の私は怒りで五感フルマックス、虚なんて突かれない…!
舞うようにクルッと体を回して攻撃を躱し、がら空きの背中を双剣で斬り付けた。如何に動物の力を持つ
ってか大して強くないんだよねこのクソカス共。ニキの言ってた通り、1人1人の実力は素人レベル…私1人でも全然何とかなる…!
さっさとコイツ等全員を殺人未遂して、私は負傷しているアクちゃんのサポートに行きたい…! アクちゃんに良い所いっぱい見せたい…!
「だから早々にくたばれクソカス共ーー!!〝
助走を付けて高く跳び、柔軟な体を
でも一切可哀想とは思わない。アクちゃんがされた非道行為と比べれば掠り傷みたいなもんでしょ、コイツ等大袈裟。
「調子に乗んな角女…!〝
「うわっ…?! きったなー…何すんだボケクソブタ女ァ…!!」
「ぅべェあ…?!!」
ブタ女が口から吐きかけてきた黄色い液体をもろに浴びてしまった…。しかも結構威力があって…咄嗟に顔を守る為に出した左腕がジンジン痛む…。
何を吐きかけられたんだろう…、十中八九ただの唾じゃないとは思うけど…。もし毒だったらヤバい…私解毒薬なんて持ってない…。
そう考えた途端…漠然とした恐怖が胸中を少し蝕んだ…。ここには私1人…周りは全員敵…、毒で苦しんでも…誰も助けてくれない…。
「動きが止まったぞ…! 攻めろォ…!!」
その声で私はハッと我に返り、短剣を強く握りしめて自分に強く言い聞かせる。大丈夫…体は動く…周りが全員敵なのは皆同じ…怖いのは私だけじゃない…。
そう強く念じながら、剣を振り上げる敵と向かい合った。考え無しの単調な振り下ろし攻撃をするつもりだ、余裕で対応できる。
落ち着いて敵の動きを見て、右手の短剣で完璧に攻撃を防いだ。かなり勢い任せの攻撃…重いけどすぐに態勢は変えられない筈。
私はがら空きの腹部を狙って左手の短剣を振るった。余程の実力者でもなければ対処できない模範解答な一撃…だったのに…。
刃が敵の体に触れる寸前で…するりと左手から短剣が抜けた…。空の左手は虚しく私と敵の間を通り抜け…反撃は失敗に終わった…。
「オラァ…!!」
「あぅ…?! ぐぅぅ…!」
何が起きたか分からず…動揺で無意識に体を硬直させてしまったその隙を突かれ…腹部に思いっきり蹴りを入られてしまった…。
体が少し後退する程の力に…私は膝と両手を砂の上についた…。呼吸がしづらい…立ち上がれない…、早く立とうと意識すればする程…痛みに意識が集中する…。
私はできるだけ痛みを和らげようと…必死に他の箇所に意識を逸らす…。砂と接地している箇所のじんわりとした熱さ…、そこに全意識を傾ける…。
焼かれるような熱さが膝と右手に広がって…──…っ? あれ…? なんか…変な感じがする…、何これ…どういう…?
左手が熱さを感じない…っというより感覚が無くなってる…? 何だか力も全然入らなくてなってるし…小刻みにぴくぴく動いてる…。
「レエラの毒が効いてきたみたいね…! どう…? 痺れてウマく動かせないでしょ…!」
さっきの…あのブタ女の体液…! やっぱり毒だったのか…しかも経皮毒類の麻痺毒…、もろに浴びた左腕はもう大して使い物にならない…。
しかも徐々に悪化してきて…左腕が無くなったみたいに感じる…。少しは動かせるけど…まるで別人の腕がくっついてるみたい…。
「これで弱体化は確実…! エギル様…!! 今が絶好の
「ありがと、上出来だよ皆…!」
ソイツは立ち並ぶ敵の奥から突然姿を現した…。様付けで呼ばれてるし…見るからに他とは異なる雰囲気…、多分幹部的な立ち位置の奴…。
両手には湾曲した刃の斧…そんなに詳しくないけど多分〝
「私ね、弱い者いじめ大好きなの。だから毒で弱っている今の貴方…とても素敵、たくさんいじめてあげるね…!」
< フロン隊幹部 〝
ネズミ女は右腕を大きく振りかぶると、勢いよく
かなり速いけど充分避けられるし…下手に短剣で防がずサッと避けた。それを見越してか、ネズミ女は既に左腕も振りかぶっていた。
間髪入れず左手の
「弱ってるからって舐め過ぎたね…! これでそっちは武器無し、このまま武器を拾う隙も与えずに倒してやる…!」
「武器無し…はたしてそうかな…? そっちこそ…ちょっと私を舐め過ぎじゃない…?」
そう言いながらネズミ女は、おもむろに腹部へと手を伸ばした。するとどういうわけか…手が毛皮の中に消えていった…。
ネズミ女はすぐに毛皮の中から手を抜いたが…指と指の間にはさっきまで無かった刃物があった…。小型のナイフ…多分〝
「どう? 驚いた? 私は体の至る所に物をしまっておけるポケットがあるの。投擲武器が2つだけじゃなくてごめんね~!」
ムカつくー…それを見せたいがために
でもどうしよう…、要するにあのネズミ女は武器をまだまだ隠し持ってるし…何なら武器に限らず色々持ってる可能性があるってことでしょ…。
投擲武器は近距離武器に比べて接近戦には向いてないから、詰めれば私が有利…な筈だけど…、もし普通の短剣とか持ってたらその限りじゃない…。
「ほらどんどんいくよ~! 死ぬまで止めないから、精々足掻いて…ねっ!!」
ネズミ女は右手の指で挟んだ3本の
私は自慢の脚力で左側に駆けてそれを回避し、そのままネズミ女に向かって走り続けた。難しく考えてても仕方ない…とにかくやれることをやるしかない…!
近付いて速攻で叩きのめす…! 投擲武器主体で戦うってことは…近距離戦に自信がないって言ってるようなもん…! 近付ければ勝機がある…!
でも近付けば近付く程、投擲武器は避けづらくなるし…自分の走力が相まってより困難…。つまり…避け切れるかが勝敗の分け目…!
「危険を承知で接近ね、できるかなっ…!!」
今度は左手の3本が投げられた。刃先をこっちに向けて真っ直ぐ飛んでくる
私は無理矢理右足をグイッと内側に曲げ、できるだけ勢いを殺さずに向きを変えて
だが踏み込んだ右足が砂で想像以上に滑ってしまったが故に…
けど1本で済んだのだから安い負傷…! 私は痛みをグッと噛み殺して…脚を止めずにネズミ女に向かって行く。
アイツはまだ次の投擲武器を取り出せてない…それよりも速く私の手が届く。激痛で悲鳴を上げる右腕に力を込めて、短剣を強く握りしめた。
「〝
“ガキィィィィン…!!”
私が短剣を突き出そうとした直前…私とネズミ女の間に素早く奴の部下が割り込んできた…。ソイツは見るからに頑丈そうな金属の大盾を構え…私の突きを防いだ…。
虚しく響いた音と一緒に…私の心の中に絶望が芽を出した…。漠然とした恐怖が再び全身を駆け巡る…、忘れかけていた腹部の痛みも戻りつつあった…。
「残念だったね…! そらっ反撃だ…! 喰らえェ…!!」
上に跳んだネズミ女の手には何故かさっきの
さらに追い打ちをかけるように…間に入ったオオカミの
ろくに踏ん張れない私の体はぶっ飛ばされ…砂の上に倒れた…。ヤバい…これはヤバい…、少しずつ自分が死に寄って行ってるのが分かる…。
ここに来る前にカカから
「ふぅ…一瞬ヒヤッとしたけど、結果オーライだね。さァようやくお楽しみの時間だァ…! じーっくりいたぶっちゃおっ♪」
完全に勝ち誇ったネズミ女は、脇腹のポケットからより小さな
顔を横に倒すと…ネズミ女の手下がさっき投げられた
これから私に投げつけられるあの小さな
「そろそろ始めちゃうよーん♪ エギルちゃんのドッキドキでワックワクな的当てゲームのォ──幕開k…」
“ズドーーンッ!”
突然ネズミ女のそばで小さな砂煙が舞い上がった…。涙でぼやけて何が起こったのか分からなかったけど…何かが落ちてきたように見えた…。
「ゴホッゴホッ…! 何…一体…? ──ってシール…!? アンタ何してんの…!? 何その情けない姿は…?!」
「ヌゥゥ…、あの男…つよ…い…。血を…飲んでから…、人が変わった…みたい…ヌ…。こっちに…戦力を回してくれヌ…」
「血を飲むって何…? よく分かんないけど…しょうがないから手伝ってあげるよ…。あーあ…これからがお楽しみだったのに…、つまんなーい…」
おとこ…この場に居る男って…砂駆屋のベジルって人だよね…? 凄いなぁ…あのイヌ女もかなり強そうなのに…圧倒するなんて…。
私惨めだなぁ…、翻弄されて…斬られて…勝手にもう勝負がついたと諦めて…。また何の役にも立ててない…。
“自分が役立たずみたいに言うのはやめろ──私達にはオマエの力が要る──”
──まだ…だ…! 思い出せ…踊り子リーナ…! ここへ来た理由を…! アクちゃんを助ける為でしょ…?! コイツ等と戦う上で…私の力を必要とされたからでしょ…?!
なら応えなきゃ…! 涙を流してる場合じゃない…寝てる場合じゃない…! 起き上がれ…起き上がって戦えリーナ…!!
私はほぼ動かない左腕も無理やり動かして…ゆっくり立ち上がった。動くたびに脈打つ激痛…それすらも心を奮い立たせる燃料にする。
得物は無い…でも武器はある…! 悪とは言え…知性生種は殺したくなかったから伏せておいたとっておき…! カカから称賛された切り札…!
私は前傾姿勢で右手を砂地につけ…走る姿勢を整えた。滴り落ちる血と汗で砂が湿っていく中…荒い呼吸を無理やり整えて集中を研ぎ澄ます。
「ハァ…? まだ動けんのアンタ…? まあだから何って話だけどね、今度はちゃーんと殺してあげるわ…! 大盾部隊、前へ…!」
ネズミ女を守るように、大盾を持った手下が4人並んだ。──むしろ好都合だ…、
ぶっ飛ばされたおかげで充分な助走距離もある…覚悟も決まった…!私は脚に力を込め、そして一気に前へ解き放った。
「まさかやけくそで突進する気…? マジっ…?! 金属製の大盾が見えてないの? 頭カチ割れちゃうよ~?」
臆して速度を落としたり…突っ込む角度を誤れば本当にそうなるだろう…。だけどもうそんなの怖くない…! 覚悟は決まった…あとはぶつけるだけ…!
──カカ…私まだ見てないよ…。攫われたメイドと
「〝
「「「「 うわああああっ…?!! 」」」」
「エギャアアアアアッ…?!!」
私の決死の突進は、硬い大盾を物ともせず…邪魔な4人もろともネズミ女を撥ね飛ばした。かなり高く飛んだ5人は、そのまま力なく落下した。
誰一人として起き上がりはせず、ネズミ女は白目を剥いたまま動かない。そりゃそうだろうね…なんせカカお墨付きの一撃だもん、クソカスに耐えられるわけない。
私は頭部から流れてきた血を腕で拭って、カカから貰った
手下共はリーダー格のネズミ女が倒されたことで動転してか、
本当は今すぐ休みたいけど…皆が頑張ってるなら、私ももっと頑張らないと…! 残り全員を捩じ伏せて、私はアクちゃんのサポートに行く…!
「よーし…! ここから残党狩りだ…!! テメェ等全員半殺しにしてやっからな…!! 人気No.1踊り子舐めんなよゴラァ…!!」
「「「 人気No.1踊り子怖ェェェ…?!! 」」」
──私が絶対アクちゃんを守るから…だから絶対負けないでね…カカ…! 絶対…感動のハグ見せてもらうからね…!
「残りも全員撥ね飛ばしだァ…!〝
──第75話 応え〈終〉