─ ガガテガ遺跡 地下5階層 ─
「うわエッグぅ…めっちゃ腫れてんじゃん…」
「そりゃオマエ…骨折だぞ骨折…? 如何に
何もかもが訳の分からないキメェ石像との戦いを終え、今はホッと一息つきながら負傷者の手当て中。左腕を包帯でグルグル巻きにしてる。
普通に骨折しているなら明日には直るんだろうが…如何せん
「逆にニキは何でそんな軽傷なの…? 高い所から床に落下したんでしょ…?」
「ニキは頑丈だからニ~! このくらいへっちゃらニ~!」
あの
心の中でぶつくさ言いながら…適当に手当てを済ませた。さてさて、これから私達はどうすべきか…──そもそも何で石像と戦ったんだっけ…?
「ああっそうだそうだ、扉だ…! 結局あの扉は何だったんだ…?」
「確かに気になりますね…、
アクアスは扉へと駆けて行ったが、多分無理だと思うがな…。ニキですら開けられなかったんだ…私よりちょっと腕力ある程度のアクアスにはとても…──
「あっ、開きますね」
「マジで…?!」
えっ嘘ー…私もニキも本気で開けられなかったよ…? なんで…? 石像倒したから…? 尚更なんで…? 意味分らーん…。
ニキも驚いてんなー…何ならアイツが一番驚いてるまであるな…。これは開けられなかった私達が悪いのか…逆に開けてしまったアクアスが悪いのか…。
「アクちゃん何かあった~?」
「えっとですねー…──〝鍵〟がありましたー! それ以外には何もありせんし、進めそうな道も無かったですー!」
鍵だァ…? いやいやどこのだよ…、私達は行きつく形でこの部屋に来たんだぜ…? 鍵が必要な場所はおろか…他の道すら知らねェぞ…。
アクアスから受け取った鍵は、歯車を模した装飾が施された黄色い鍵。所々錆びついているが…まあオシャレな鍵ですこと…。
じゃあ次の目的はこの鍵が必要な場所を探すことか…。あーダルいなぁ…、マジで何なんだよこの遺跡…嫌いだわー…。
「カカ、ちょっと鍵貸してニ」
「んっ? いいぜ、ほれっ」
「わわっ…! 投げるなニ…!」
ふーぅ…そんじゃ動くとしましょうかね…。現状ここが道なりに進んで最後に行き着く部屋で間違いないだろうし、これまでの道中のどこかにまだ部屋がある筈だ。
ひょっとしたら最初みたいに入り口が隠されているかもしれないし、ここから先に進めない以上…地道に探す他ないしな…。
「カカ~…カカ~…ちょっと来てニ~…」
「あんっ…? どうしたそんな小声で…」
小っちゃく手招きしながら小声で私を呼ぶニキ。何事だろうか…アクアス達に聞かれちゃマズい話でもあんのか…? ──尿意か…?
絶対こんな所にトイレなんて無いしな…、どうしようか…いや野ションしかねェけどもさ…。私が見えないように隠せばいいのか…? でも全員同性だぜ…?
「まあ一応私が壁になってやるから…ちゃっちゃと済ませろよ…?」
「えっ何の話ニ…? ニキが言いたいのはこの鍵のことニよ…? さっきダメもとで〝繋がり〟を探ってみたら、微弱だけど感じ取れたのニ…!」
何だそういうことか…焦って損した…。だが〝繋がり〟を感じ取れたってことは、すなわち鍵が必要な場所が分かったってことだよな…?
それはナイス過ぎる…! ここまでの長い道のりを一つ一つ確認しながら戻るのはあまりに骨が折れるからな…ガチでナイスだ…。
私だけを呼んだのはリーナに聞かれない為か…。アクアスまで呼ぶともれなくついて来るもんな…あのメイドオタク…。
「それじゃさり気なく案内頼むぜ、私も上手く合わせるからよ」
「任されたニ…!」
「2人共ー、何コソコソ話してんのー?」
「ああっ気にすんな、もし痛いところがあったら隠すなよって伝えただけだ。それよりもう移動すっから、余った包帯とか忘れんじゃねェぞ」
あの石像については色々調べたかったが…多分私達に分かることは何もないだろうし、ニキ先導のもと私達は石像の部屋を後にした。
同じフロア内にあるのかな…? あればいいな…もうあのトラップまみれの通路は進みたくねェ…。そうでなくても長い距離歩きたくねェのに…。
そんな後ろ向きな事を思いながら…疲労まみれの脚でとぼとぼ歩いていく…。その途中…何やら背後から妙な視線を感じた…。
振り返ると、アクアスの腕にしがみつきながら歩いているリーナが私のことをジーッと見ていた。いや…ニキのこともか…? いずれにせよ理由は不明だが…。
「なんだよ…言いたいことがあるなら言えよ…」
「──いやさぁ…、さっきの戦い…私だけ皆の足引っ張てたなーって…。カカもニキも石像に攻撃されても戦い続けてたのに…私だけ一撃で沈んだなって…」
何を言い出すのかと思えば…随分らしくない発言だな…。私はもちろん、アクアスもニキもそんなこと思ってないだろうに…。
でもまあ…昨日 “「腕っぷしには自信ある」” って豪語してたから…、一撃で倒れた事実でちょっと自尊心が傷付いたのかもな…。
「あのな…人それぞれ強み弱みってのは違ってるんだ…。確かに私はオマエよりかは
リーナの
私の技で同じ威力を出そうとすれば…
リーナは自分にできる事を最大限こなした…ちゃんと石像討伐に貢献している、誰の目から見てもだ。
「仲間ってのは互いに補い合う為にある…間違っても自分が役立たずみたいに言うのはやめろ。私達にはオマエの力が要る、それでいいだろ?」
「──うん…」
リーナはアクアスの腕に掴まったまましおらしく頷いた。コイツも根は良い奴だよな…私並みに気性荒いとこあるけど…。
石版探しを楽しんでる様にも見えたが…何気ちゃんと役に立ちたいって気持ち強かったのかもな…。もしくはアクアスに良い所見せたかったかどっちか…。
「なんか…ズルいね…。そりゃアクちゃんも敬愛するよね…ズルいズルい…」
「何なんだよオマエは…」
励まして元気が出たからかしらんが…なんか悪態つかれた…、なんじゃコイツは…。まあ前向きに戻れたんなら別にいいけど…。
それよりニキはどこを目指してるんだ…? 確かこの通路の先は床に意味深な画が描かれていた行き止まりの部屋だった筈だが…。
─ 地下5階層 ???の部屋 ─
ニキを追って辿り着いた場所は、さっきの部屋に比べるとかなり小さい部屋。床には〝言語の様な模様が六芒星を囲む意味深な画〟がある。
六芒星の方は知らないが…それを囲むこの模様らしきものには見覚えある…。どこで見たんだったか…、朧気ではあるが確かにどこかで…。
「何でまたここに来たの? 一回来たよね?」
「それはあの…あれだろ…、再調査だよ…。あの鍵が必要な所がどこかに隠されてるかもしれねェだろ…?」
とりあえずこう言っとけば、道が見つかっても不審に思われることはないだろう。問題は道が見つかるかどうかだ…。
あるのは確かなんだが…壁にも床にもそれらしきものがない…。──スゲー既視感…なんかこれ1Fでも見たな…。
私が壁に触れたらゴゴゴォ…って道が出現したやつ…。もしかして同じか…? 壁に触れたらまた道が出現して…また奇異の目で見られんのかな…。
「アクアス…ちょっと
「えっ? はい、かしこまりました」
アクアスに指示を出し、私の時と同様に壁に触れさせてみる。できれば何か起きてほしい…アクアスも奇異の目で見られてほしい…、仲間ホシイ…。
“ペタッ”
「──特に何も起きませんね…」
「じゃあ私こっち触ってみるねー」
“ペタッ”
反対側の壁も特に変化なし、じゃあやっぱ正面の壁…? 私が左側やれば良かった…、そうしたらアクアスにやらせれたのに…。
こうなると私かニキがやらざるを得まい…。ニキも何となく私の意図に気付いてか…中々自分から動こうとしない…。
ぐぬぬ…貴様も奇異の目で見られるのは嫌だというのか…?! 確実に注目を集めるリュックと頭巾を身に付けてるくせに…?!
──仕方ない…ならば
「んっんっんっ! んーーー!!」
「あーー! 負けたニーー!」
怪力紫のグーに臆さず突き出したパーで見事勝利、正面の壁に触れるのはニキに決定。奇異の目に晒されるがよいわ…! ※目的の喪失
“ペタッ”
「──ニ…? 何も起きないニね…?」
おっとー? 一気に雲行きが怪しくなってきたな…。もしかして壁じゃなくて床…なのか…? 私は壁と床の二択を外したのか…?
クソッ…ニキの顔ムカつくゥ…! 勝ち誇ったような笑み…!「ほら触れよ」って言いたげな目…! 炙り焼いてやろうか…!
「ほらほらどうしたニ~? まさかビビってるニ~?」
「誰がビビってるだとォ?! やってやろうじゃねェかクソカスがゴラァー!!」
「あの2人ずっと何してんの…?」
「じゃれていらっしゃるだけですよ」
ニキの挑発に背中を押され、私は掌を床につけた。──っが何も起きない…! 拍子抜けだ…引かれた時の為に目潰しの準備までしてたのに…。
ってかじゃあどこにあるんだ…? もう壁も床も調べたしな…、まさかニキの勘違い…? もしそうならバチクソに煽るけど…?
「ここには何も無いんじゃない? 次行こうよ次っ」
「ちょっまっ…! もうちょっとだけ…! もうちょっとだけ調べたいニ…! この床の奇妙な模様がもしかしたら関係してるかもしれないニ…!」
この焦りよう…やっぱり勘違いとかではなさそうだ…。次に進む道は必ずこの部屋にある…、もっと詳しく調べる必要があるな…。
それもできるだけ早く…、ニキがこの部屋に執着する言動に…リーナが懐疑心を抱く前に…。何か手掛かりは無いものか…。
ニキはリュックから何やら古びた本を取り出し、ページを必死に捲りながら床の模様について調べている。アクアスとリーナは横から本をのぞき込んでいる。
その間に私は、アクアスが触れた左側の壁に近寄った。もしかしたら触れるだけじゃダメで、どこか特定の箇所じゃないといけないのかもしれない。
私は撫でるように壁を触り、上の方はぴょんぴょん跳ねながら触る。だが何も起きない…、もう既に少しめげそうだが…正面の壁も調べる…。
さっきと同様に全てを触ってみたが、やはり変化はなし…。ガッツリめげそうだが…気合いで右側の壁に移る。
リーナが触っていた壁…ここも何も起きないんだろうなぁ…。──そう半ば諦めかけていたのだが…
“──ゴゴゴゴゴッ!!”
「何でじゃァァァ…?!!」
「「 何したァ…!? 」」
再び地響きのような音と強い揺れがこの部屋を襲った…。また少しずつ壁が左右に動き…重々しい扉が姿を現した…。
何でこうなった…!? リーナが触った時は何にも起きなかったのに…何で私の時はこうなんの…?! マジで謎なんだが…。
少しの間茫然自失に陥り…我に返って皆の方に顔を向けると、ニキとリーナがめちゃくちゃ引いていた…。
「カカ…今何したの…? そこさっき私が触った壁だよね…?
「オイ引くなオマエ等…! その目やめろ…! 目潰しすんぞ…!!」
「
2人を2本指で黙らせ、こんな状況でも引かずにいてくれるアクアスに引っ付く…。もういい…2人は置いといて扉調べよう…。
取っ手の下には鍵穴があり、確実に例のあの鍵を使うのだろう。だけどこれ開くのかな…?
とりあえず鍵が開くかを試してみよう。アクアスに鍵を持って来てもらい、私は慎重に鍵穴に挿し込んだ。
ゆっくり右に回していくと、ガチャンッと低い音が響いた。一度アクアスと顔を見合わせ、私は両開きの取っ手を押した。
「ふんっ…! ──ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ァ…! 開かねェ…!!」
「引くんじゃないですか…?
「よしいくぞ…! せーの…──ぎぎぎぎぎっ…! やっぱ開かねェ……!!」
完全に錆びついてやがる…うんともすんとも言わんな…。シンプルに両腕怪我してる私が役立たずなだけかもしれんが…。
「おーい
「引いたの謝るから名前で呼んでニー…」
申し訳なさそうにとぼとぼ扉に近付き、ニキは取っ手を掴んで強く押し込んだ。ニキの怪力によって、少しずつ扉が開き始めた。
扉の向こうには薄暗い道が続いており、先の方には光が見える。結構地下まで来てるし、
トラップがないか細心の注意を払いながら、私達は薄暗い通路を進んでいく。徐々に大きくなる光──何があるのやら…。
──第69話 〝何で?〟〈終〉