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第68話 巨なる戦士

「リーナ…?!」


大斧だいふの強烈な一撃をもろに受けてしまったリーナ…。離れた壁際までぶっ飛ばされたリーナは…床に倒れたまま起き上がれない様子…。


流血した頭部を腕で押さえているから気を失ってはいないようだが…、それでも危ない状態にあるのは変わらない…。


「 “…ッ!!” 」


「あ…?! マジかコイツ…まだリーナを狙ってやがる…!」


体を起こすこともできないリーナに…石像は大斧だいふを構えて接近していく…。確実に1人1人殺していくつもりか…。


マズい…歩幅的に追い越せないかもしれないし…、仮に私の方が先に辿り着いたとしても…リーナを抱えて離脱できるかどうか…。


「──〝凍結弾アイスバレット〟…!」


「 “…ッ?!” 」


私と石像を追い越すようにアクアスの凍結弾アイスバレットが床に着弾し、みるみるうちに床の上に氷が張っていく。


床に張った氷を気付かず踏んだ石像は、ツルッと滑って後ろに倒れた。如何に高熱とはいえ…滑るものは滑るらしい。


流石アクアス、実にナイスな時間稼ぎ。石像が起き上がる前に、素早くリーナを回収して離脱しよう。


駆け寄って確認したリーナの様子は…かなり良くない…。頭部からの出血が止まらず…呼吸も浅い…、急いで治癒促進薬ポーションを飲ませないとヤバいな…。


「 “…ッ!!” 」


「げっ…! 速ェなオイ…」


倒れた際のダメージすらない石像は、何事もなかったかのように上半身を起こして、私達を掴もうと手を伸ばしてくる。


リーナを抱えた状態じゃ素早くは動けねェ…、避けられるかは五分ごぶだが…一か八かやるしか──


“メキメキメキメキッ!!”


視界の外から突如現れたぶっといつるはあっという間に伸びて、石像の体を巻き込んだ。ギチギチに絡み付き、身動きが取れない様子だ。


「カカー! 今のうちに行くニー!」


「ありがとな2人共…! 少しだけこの場を頼む…!」


私はリーナを抱え、この部屋に来た時の通路まで逃げ込んだ。ここなら流石に手は出せないだろうし、危険もないだろう。


右腕でリーナの体を支え、左手でポーチの中から治癒促進薬ポーションを取り出した。いつ意識を失ってもおかしくないし…早く飲ませよう…。


「ほらリーナ、治癒促進薬ポーションだ、飲めば楽になるぞ。──そうだ、ゆっくりでいい…少しずつ飲め」


これで頭部の出血は止まり、徐々に痛み止めが効いて楽になるだろう。血を結構失ってたから…多少眩暈とか動悸はするだろうけど…。


治癒促進薬ポーションを全て飲み干したリーナは、早速呼吸が安定してきた。痛み止めがしっかり効いてる証拠だな、良かった良かった。


私は上着を脱いで丸め、枕代わりにしてリーナを寝かせた。そしてポーチから塊血かいちを取り出し、リーナのお腹の上に置いた。


「もう少し楽になったら塊血これを食え、血が補われてもっと楽になる。後は私達に任せて、オマエはゆっくり休んどけ…いいな…?」


リーナにそう告げ、私はまた2人のもとへ戻った。部屋に入ると不思議な光景…ニキがアクアスを背負って石像から逃げている…。


振り回す大斧だいふをニキが避け…アクアスが石像目掛けて弾を撃ち込む…、なんか珍妙な連携プレーだな…。


ちょっと前までつるで拘束してた筈なんだが…長くはもたなかったみてェだな…。もっと大人しくしててほしいぜ…。


「ニキ…! さっき拘束した時に攻撃はできたか…?!」


「ひび割れた胸部を狙おうとしたけど…運悪くつるで隠れててできなかったニ…」


盲点…! 竜蔓豆ドラゴンビーンズでの拘束もあんま有効手段じゃねェんだな…、また振り出しに戻ったか…。


ひとまず私が石像の気を引いて、アクアスが遠くからサポートできる状態を作り出さないとな。一番攻撃に向いてるニキが逃げに徹してるのもウマくない…。


リーナの時と同様に背後から接近して、再び石像の右脚を狙う。今度はさっきよりも強烈な…ダメージ覚悟の本気打ちで…!


「〝禍玄かげん竜撃りゅうげき〟…!!」


震重石しんじゅうせきが激しくぶつかった瞬間…右腕に軋むような激痛が…。五指は感覚がなくなり…純粋な痛みだけを感じる…。


だが通常の威力を凌駕する本気打ちの竜撃りゅうげきは、石像の右脚に大きなひびを入れ、そのまま勢いよくへし折った。


石像はバランスを崩し、ガクンッと片膝をついた。手痛い代償ダメージを負ったが…機動力は削いだ…、痛み分けにしては上々だろう…。


「 “…ッ!” 」


「片脚失ってもすくっと立ち上がったニ…?! ──あっでも動きはちゃんと鈍くなってるニ…!」


「よーしここからは私達のターンだ…! リーナの分までボコすぞォ…!」


っと意気込んだはいいが…ぶっちゃけ戦力になれるか怪しいな私…。右腕ボロボロだけど…いざって時の為に治癒促進薬ポーションは温存しておきたいしな…。


多少威力は落ちるが…左腕で頑張るしかねェか…。決定打になる攻撃はニキに任せて、私はバックアップに回るとしよう。


「 “…ッ!!” 」


「私にくるか…? いいぜ…かかってこいよ…!」


石像は少し膝を曲げると、勢いをつけて床を蹴った。重たい体を宙に持ち上げ、振り上げた大斧だいふで攻撃を仕掛けてくる。


私は小さく息を吐いて集中を研ぎ澄ました…。全ての神経を〝音〟に注ぐ…、より鮮明により正確に…攻撃の角度さえも聞き分けられるほどに。


素早く振り下ろされた大斧だいふから目を離さず…私は最小限の動きで石像の攻撃を躱してみせた。


すかさず石像の右手に攻撃を与えて少し後退。次の…右方向からくる攻撃に備えて回避の姿勢をとる。


〝音〟の通り石像の攻撃は右、予想通り斧刃ふじんを横にした薙ぎ払い攻撃。これは床に伏せれば当たることはない…イージーだ。


そして右腕を左から右に動かしての薙ぎ払いは…自然と胴体に隙が生じる動き…! 意識が私に向いてる今なら…!


「──〝纏哭てんこくげき】〟…!!」


「 “…ッ?!” 」


がら空きの胸部にニキの蹴りが炸裂。流石の石像も今の完璧なタイミングでの奇襲には驚いたか、体を硬直させて何が起きたかを確認する素振りを見せた。


しかしそれも束の間…石像はすぐさま左腕を伸ばしてニキを捕らえようとする…。ニキはまだ空中にいて自力回避ができない…。


「〝炸裂弾さくれつだん〟…!」


“ボォーンッ!!”

「わあああっ…?!」


あわや掴まれるかと思ったその時…アクアスの撃ち込んだ炸裂弾さくれつだんが石像の左腕で爆ぜ、爆風でニキの体が飛ばされた。


おかげでニキは無事生還…危ねェ危ねェ…。これ以上欠員が出たらいよいよ勝ちの目が無くなっちまう…、アクアスには感謝だな…。


だがニキもいい仕事をしてくれた。胸部にあったひびがより大きくなっている、今みたいな強烈な攻撃を…あと一撃でも当てられれば砕けるかもしれない…!


「 “──þý‘ ólauð;; úja ðráá…!!” 」


「嘘だろォ…!? まだ何かあんのかよ…?!」


2度目となる胸部への攻撃に反応してなのか…石像はまた何かを唱え始めた。今度もまた天井の一部が開き、何やらまた大きな物が落下してきた…。


「オイオイ…マジか…。──なあニキ…アレ何に見えるよ…?」


「バカデカい〝盾〟に見えるニね…、誠に残念ながら…」


最初は両手に何も持ってなかった石像が…これで大斧だいふ大盾おおたてを構えた隻脚せっきゃくの戦士像になりましたと…。


いよいよ石像コイツを倒すって目的が現実味を損ない始めてきたぞ~? どうすんだこれ…もう手の付けようがねェぜ…。


仮にまた薙ぎ払い攻撃をされたとしても…あの盾があるんじゃ反撃は無理…。アクアスの弾丸も同様…、かなり万事休すだ…。


アクアスの炸裂弾じゃ胸部を砕くには一歩威力が足りないし…私やニキの動きじゃすぐに反応されてしまう…。


石像コイツを突破するには…〝意識の外〟から盾を構えるのが間に合わない〝速度〟で攻撃しないとならねェが…、どうしたもんかね…。


「ひとまず私とニキで攪乱しつつ、アクアスのサポートを受けながら攻撃の機会を狙っていく方針でいこうか…! 好きに暴れていいぞニキ、合わせてやる…!」


「ニキキッ…! それならお言葉に甘えて暴れちゃうニよ…!! ちょうど面白い事を思いついたからニ…!!」


ニキは不意に右手を掲げると、床に思いっきり叩きつけた。何を思いついたのか知らんが…指がめり込んでいる…。コイツも大概だなマジで…。


「〝握哭あっこく〟…!!」


指がめり込んだまま力を込めると、バキバキと音を立てながら床に亀裂が入った。ニキは砕けた床の一部を手に取ると、それを持って石像に飛び込んだ。


石像は大盾おおたてを構えて防御の姿勢を取るが、ニキは瓦礫を大盾おおたてに投げつけ、構わず拳を振るう。


「くらえニ…!!〝零距離ゼロきょり──哭砲こくほう〟…!!」


「 “…ッ?!” 」


ニキが繰り出した渾身の一撃は…小さな衝撃波を発生させる程の威力…。あの重たい石像の体が一瞬ふわっと浮き上がった…。


とんでもない威力だが…今のでも壊れないあの大盾おおたても相当だ…。あれを壊すのは無理そうだな…。


「よしよしイケるニ…! 瓦礫を間に挟めば熱くないから、これで殴り放題蹴り放題ニ…! 覚悟するニよ石像ノッポ…!!」


そう言って再びニキは瓦礫を手に石像へと駆けて行った。ニキの行動に合わせるのだいぶ至難だが…やるしかねェ…。


石像はニキを危険視してか、私のことは完全無視して大斧だいふを構える。ならば妨害してやる…! ニキの攻撃の邪魔はさせねェ…!


振り下ろされる大斧だいふに対し、攻撃をぶつけて相殺を狙うニキの肩を踏ん付け、私は上に跳んだ。


衝棍シンフォンを左手に持ち替え、大斧の側面部を狙って本気打ちを叩き込む…!


「〝禍玄かげん震打しんうち〟…!!」


痛み分け覚悟の本気打ちで、大斧だいふの軌道を僅かに逸らすことに成功した。これで左腕もかなり損傷したが…今はニキの攻撃を通すのが最優先…。


残すは邪魔な大盾おおたてだが…仕方ねェ…もう少し無理をするとしよう…。


私は着地と同時にニキへ指示を出し、重ねた両手に足を乗せて上へと飛ばしてもらった。石像は大盾おおたてを構えたが…好都合だぜ…!


「〝禍玄かげん竜撃りゅうげき〟…!!」


この一撃で大盾おおたては砕けなかったが…構えた左腕を弾くことはできた。これでボディはがら空き…! ニキの攻撃が通る…!


“──ボォーンッ!!”


「 “…ッ?!” 」


ここで視界を遮るように石像に炸裂弾さくれつだんが撃ち込まれ、小爆発で生じた煙が頭部の周囲を漂っている。


これであとは隙だらけの胸部に攻撃をぶち込むのみ…! 自分の役割を理解したニキは、何も言わずに石像へと飛び込んだ。


石像には腕を動かす様子も回避する素振りもない、視界を奪われて完全に硬直している。頼むぞニキ…! これで終わらせてくれ…!


「うおおおおっ…!!〝てんこ…」


「 “þý‘ ólauð;; sōw þiløœ…” 」


「「 …っ?! 」」


ニキが拳を突き出そうとした瞬間…爆煙の中から石像の不気味な声が聞こえた…。直後石像の体から突風が発生し…私とニキは後方へ飛ばされた…。


ニキは高所から床に叩きつけられ…両腕を痛めた私は受け身が取れずに床の上を転がった…。せっかくの好機チャンスを…失った…。


ててニ…、カカ大丈夫ニ…?」


「大丈夫ではねェな…、右腕はあんま力入らねェし…左腕は多分折れてる…。右腕を犠牲にすりゃあ…もう1発本気打ちできるが…」


はっきり言って手詰まり感が否めない…。治癒促進薬ポーションを飲んだとしても骨折はすぐには直んないし…、本気打ち可能なレベルまでは回復しない…。


私の力じゃ本気打ちでないと石像に対抗できねェし…、一旦退くべきかもしれねェな…。このままジリジリ戦ってても埒が明かない…。


幸い石像アイツはこの部屋から出られないし…失った右脚もひびも自動で回復したりはしない筈だ…。


それならここは一度退いて…全員の回復を待って再戦リベンジするのが得策だろう…。無理して死人でも出ようものなら…──考えたくもない…。


石像はなおも片脚で跳ねながら私達の方に向ってきている…。幸運にも通路の入り口は私達の背後だ…、ここは大人しく逃げ──


「〝一角いっかく──壊崩かいほう〟…!!!」


「 “…ッ?!!” 」

「リーナ…!?」


通路に逃げ込むよう2人に指示を出そうとした瞬間…リーナは私の真横を物凄い速度で通り抜け、そのまま石像の胸部に突っ込んだ。


意識の外から反応できない速度で繰り出されたリーナの突進攻撃に、大盾おおたてが間に合う筈もなく…見事に胸部に命中した。


最初の一撃とは比べ物にならない程の速度で放たれたリーナの攻撃は、あの重い石像を仰け反らせ…片脚でバランスを保てなかった石像の体は倒れていく。


更には今の一撃でついに胸部が砕けた。そこには予想通り小さな空洞があり、その中には薔薇色ばらいろのハートを模した水晶のような物が見えた。


何かしら生物が潜んでいると思っていたが…そこにあったのはまさかの水晶…。一瞬混乱して思考が止まったが…そんな場合じゃねェ…!


リーナの予期せぬ攻撃で撤退の線は無くなったが…おかげで再び好機チャンス到来…! 皆の為にもここで決め切る…!


「ニキ…! 私を石像の上に飛ばせ…!」


「分かったニ…! 思いっきりいくニよ…!!」


今度は私がニキの重ねた両手に足を乗っけて、完全に床に横たわった石像を飛び越えるぐらいの勢いで飛ばされた。


着地のことは一切考えず…痛む右手に力を込め、剥き出しになった弱点と思われる水晶目掛けて衝棍シンフォンを構えた。


「 “…ッ!!” 」


おせェよ…!〝華天かてん〟…!!」


空中で石像と目が合い…石像は咄嗟に大盾おおたてを構えようとするも、私が投げた衝棍シンフォンの方が先に届いた。


勢いよく水晶は砕け散り、それと同時に石像の動きが鈍くなって…やがて力尽きたかのように動かなくなった…。


「オーライオーライ! ──ナイスキャッチ!」


「ご無事で良かったですカカ様…! お見事でした…!」


着地地点で待ち構えてたアクアスとリーナのおかげで助かった。受け身取れないから危なかったのよな…もしも2人が居なかったら死んでたかもしれん…。


床に降ろしてもらい、私は確認の為に石像に近付いて衝棍シンフォンで小突いてみたが、やはり石像はピクリとも動かない…。


上空でも感じた通り、やはりもう力尽きているようだ。結局石像コイツが何だったのかは分からなかったが…とりあえず今はいいか…。


私はその場に座り込み…ホッと一息ついた…。遺跡の深層部でまさかこんな強敵と遭遇するとはな…、勘弁してほしいぜまったく…。



──第68話 巨なる戦士〈終〉

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